古事記 中巻 あらすじ
古事記は、712年にまとめられた日本でいちばん古い歴史の書物です。上巻・中巻・下巻の三つに分かれ、中巻には、神々の時代のあとに続く初代・神武天皇から第15代・応神天皇のころまでの物語が書かれています。神の血を引く王や皇子たちが、戦い、恋をし、裏切りに苦しみながら国をつくっていく、まさに「英雄たちの時代」です。
物語は、イワレビコ(のちの神武天皇)が兄イツセとともに日向を出て、東の大和をめざす旅から始まります。白肩津の戦いで兄を失い、熊野では八咫烏に導かれ、ついに大和で天下を治めます。その死後には、腹違いの兄タギシミミが弟たちの命をねらう反乱が起きます。
続いて、崇神天皇の時代には疫病をしずめる三輪山の神の物語、垂仁天皇の時代には兄と夫のあいだで苦しむサホビメと、言葉を話さない皇子ホムチワケの物語が語られます。
そして、日本神話最大の英雄ヤマトタケルが登場します。少女に化けてクマソタケルを討ち、草那芸剣で野火を切りぬけ、東国をしたがえますが、伊吹山の神を見くびって力を失い、白い鳥となって飛び去ります。最後は、神のお告げを受けて海を渡った神功皇后が、生まれた御子(のちの応神天皇)を守って忍熊王の反乱をしずめるまでを描きます。
あらすじ一覧
第1話太陽がまぶしくて、負けた ―神武東征―
漫画のあらすじ国を治める地を求めて東へ旅立ったイワレビコと兄イツセは、長い旅の末に最初の大きな戦いで敗れ、兄は手に矢傷を負う。「日を背に負って戦え」という兄の最後の策を、弟が受け継ぐまでの物語。
原典では『古事記』は、712年(和銅5年)に太安万侶がまとめた日本でいちばん古い歴史書です。その中巻のはじめに書かれているのが、のちに神武天皇となるカムヤマトイワレビコの東への旅、いわゆる「神武東征」です。第1話は、その前半を描いています。
第2話迷子の王様と、日本代表のカラス ―ヤタガラス―
漫画のあらすじ兄イツセを失い熊野に着いたイワレビコの軍は、正体の知れない大熊の気配に全員倒れてしまう。天から届いた太刀と、空から遣わされた八咫烏の導きを信じて進んだ先で、尾のある国つ神たちとの出会いと、罠を仕掛けた者が自分の罠に落ちる宇陀の事件が待っていた。
原典では兄の五瀬命(イツセ)を失ったイワレビコ(のちの神武天皇)は、海をまわって熊野村にたどり着きます。そこで大きな熊がちらりと姿を見せ、すぐに消えました。するとイワレビコは急に気を失い、兵たちもみんな倒れてしまいます。そこへ熊野の高倉下(たかくらじ)という人が、一振りの刀を持ってやってきました。目を覚ましたイワレビコは「ずいぶん長く眠っていたものだ」と言って刀を受け取ります。そのとたん、熊野の山の荒ぶる神はひとりでに切り倒され、兵たちも起き…
第3話「その目、どうしたの?」から始まる恋 ―久米歌とイスケヨリヒメ―
漫画のあらすじ兄を失いながら大和をめざすイワレビコは、岩屋の宴の合図、兄を射た男と向き合う夜明けの攻め、飢えた兵を救う呼び声と、歌で道を切り開く。この国の王となった若者は、戦友オオクメの返歌に助けられ、まっすぐな目の乙女と出会う。
原典では兄の五瀬命を失いながら東へ進んだ神倭伊波礼毘古命(イワレビコ)は、宇陀を平定したあと、忍坂(おさか)の大きな室(むろ)に着きます。中では、尾の生えた「土雲(つちぐも)」と呼ばれる八十建(やそたける)が、大勢で待ち構えていました。
第4話母の歌は、暗殺の警告だった ―タギシミミの反乱―
漫画のあらすじシリーズ第4話。初代の王イワレビコの死後、腹違いの兄タギシミミが三人の弟の命を狙う。母イスケヨリヒメは景色の歌に危険を隠し、それを読み解いた末っ子ヌナカワは、刀を振り上げたまま震える兄からその刀を受けとる。
原典では『古事記』(712年成立、太安万侶がまとめた)の中巻のはじめ、初代の天皇とされる神武天皇(カムヤマトイワレビコ)が亡くなったあとの事件です。神武天皇には、日向にいたころアヒラヒメとの間に生まれた子タギシミミがいました。また、大和に入ってから正妻(大后)に迎えたイスケヨリヒメとの間にも、ヒコヤイ、カムヤイミミ、カムヌナカワミミの三人の皇子がいました。
第5話恋人の服に、こっそり糸を縫いつけた ―三輪山伝説―
漫画のあらすじはやり病で民が尽きかける国で、王は夢のお告げを受け、名も知らない男オオタタネコを探し出す。男が語る遠い祖先の恋――夜ごと訪れる名も知れぬ若者の衣に刺した一本の麻糸が鍵穴から外へ伸び、その先にいたのは、王が夢で見たあの神だった。
原典では古事記の中巻、崇神(すじん)天皇の時代のお話です。国じゅうに疫病が広がり、人々が死に絶えてしまいそうになりました。天皇は深く嘆き、神のお告げを受けるための床で眠ります。すると夢に大物主大神(おおものぬしのおおかみ)が現れ、「この病は私の意思によるものだ。オオタタネコという者に私を祭らせれば、たたりはおさまり、国は安らかになる」と告げました。
第6話眠る夫に、三度刃を向けた ―サホビコとサホビメ―
漫画のあらすじ「夫と兄、どちらが愛しい?」と兄に問われた大王の妻サホビメは、眠る夫に三度刀を振り上げても刺せなかった。燃える稲の砦で子を産み、子は夫に、自分は兄のそばに――どちらも捨てない答えを選ぶ。
原典では古事記の中巻、垂仁天皇(伊久米伊理毘古伊佐知命)の時代の話です。天皇の后・沙本毘売(サホビメ)には、同じ母から生まれた兄・沙本毘古王(サホビコ)がいました。兄は妹に「夫と兄、どちらが愛しいか」とたずねます。妹が「兄です」と答えると、兄は「それなら二人で天下を治めよう」と言って、何度も鍛えた紐つきの小刀(八塩折の紐小刀)を渡し、眠っている天皇を刺すように命じました。
第7話白鳥を追え、王子が話すまで ―ホムチワケ―
漫画のあらすじ炎の中で生まれ、胸までひげが伸びても言葉を話さない王子ホムチワケ。父は白鳥を国の果てまで追わせるが、王子の声を呼び覚ましたのは、忘れられていた出雲の神の願いだった。最初の言葉、蛇の姫との夜、常世の実を持ち帰った忠臣の最期、そして王子が声を受け継ぐまでを描く。
原典では『古事記』中巻の垂仁(すいにん)天皇の段に出てくる、皇子ホムチワケ(本牟智和気)の物語です。母のサホビメは、兄の反乱に巻きこまれ、燃える稲城(いなき。稲を積んだとりで)の中で皇子を産みました。そして「火の中で生まれたので、ホムチワケと名づけてください」と天皇に伝えます。
第8話日本最強の英雄は、少女の姿で現れた ―ヤマトタケルのクマソ征伐―
漫画のあらすじ古事記 中巻 第8話。父の言いつけを言葉どおりに果たし、その父に恐れられて西へ送られた少年オウスは、叔母の衣で少女に化け、クマソタケル兄弟の宴に潜り込む。死にゆく敵から贈られたのは「ヤマトタケル」という名だった。
原典では古事記の中巻、景行天皇の段に出てくる話です。天皇は息子の小碓命(おうすのみこと)に、兄の大碓命が朝夕の食事の席に出てこないので、お前から「ねぎ」教えるように、と命じました。「ねぎ」は、ていねいに言い聞かせるという意味だと考えられています。ところが五日たっても、兄は現れません。わけを聞かれた小碓は、明け方に厠(トイレ)に入った兄を待ち伏せてつかまえ、手足をもぎ取り、薦(こも)に包んで捨てた、とそのまま答えました。
第9話友にわたした刀は、木でできていた ―ヤマトタケルとイズモタケル―
漫画のあらすじ西からの帰り道、オウス(ヤマトタケル)は出雲の勇者と友になり、中身のない木の太刀でその友を討つ。都に戻ると父からすぐに東への遠征を命じられ、少年は叔母の前で初めて涙を流して、本物の剣と口を固く結んだ袋を受け取る。
原典では九州の熊曾建(くまそたける)を討ち、「倭建(やまとたける)」という名を受けた小碓命(おうすのみこと)は、都へ帰る途中で山の神・河の神・穴戸の神をことばで従わせながら進み、出雲の国に入ります。古事記は、出雲建を殺すつもりで来たのだと、はっきり書いています。
第10話「困ったら開けて」と叔母は言った ―草薙の剣―
漫画のあらすじ叔母ヤマトヒメから剣と「急なときに開けよ」という袋を授かったヤマトタケルは、尾張でミヤズヒメと再会の約束を交わして東へ向かう。相武国で国造に偽りの神の話で野へ誘い出され、四方を炎に囲まれた彼を救ったのは、叔母の袋の中身だった。
原典では『古事記』中巻には、景行天皇の皇子ヤマトタケル(倭建命)が、東の国々を平らげるよう命じられて旅をする話があります。出発の前、ヤマトタケルは伊勢で叔母のヤマトヒメ(倭比売命)から草那芸剣(くさなぎのつるぎ)と一つの袋を授かります。そのとき叔母は「もし急なことがあれば、この袋の口を解きなさい」と言いました。
第11話嵐の海に、畳を敷いた妻 ―オトタチバナヒメと走水の海―
漫画のあらすじ嵐の走水の海で、妻オトタチバナヒメは夫ヤマトタケルの務めのために、自ら波の上へ降りていく。悲しみをこらえて東の国をしずめた少年は、帰り道の峠で三度「あづまはや」と叫ぶ。
原典では倭建命(ヤマトタケル)は、天皇の命令を受けて東の国々をしずめる旅を続けていました。相武(さがむ)の国からさらに先へ進み、走水(はしりみず)の海を船で渡ろうとします。走水は、今の神奈川県の三浦半島と千葉県の房総半島のあいだの海(浦賀水道のあたり)だとされています。ところが、その海峡の神が波を起こしたため、船はぐるぐる回るばかりで少しも前に進めなくなりました。
第12話無敵の少年は、ひと言で山を怒らせた ―ヤマトタケルと伊吹山―
漫画のあらすじ東の旅を終えて尾張に戻ったヤマトタケルは、約束どおりミヤズヒメと歌を交わして結ばれる。剣を彼女のもとに置き、素手で伊吹山へ向かった少年は、白い猪に吐いた「帰りに殺してやる」の一言で山そのものの怒りに打たれ、弱った足でふるさとをめざす。
原典では東の国々をしたがえる旅を終えたヤマトタケル(倭建命)は、帰り道に信濃(科野)の坂の神をしたがわせて、尾張の国に戻ってきます。そこには、東へ出発する前に「帰ったら結婚しよう」と約束していたミヤズヒメ(美夜受比売)がいました。ヒメが食事でもてなしてお酒の杯をさし出したとき、タケルはヒメの上着(襲=おすひ)のすそに月のもの(月経)がついているのに気づきます。
第13話ふるさとまで、あと少しだった ―ヤマトタケルの最期―
漫画のあらすじ病をおして能煩野にたどり着いたヤマトタケルは、ふるさと大和を思う歌を遺し、父の組紐をわが子に託して息をひきとる。大きな白い鳥となって飛び去る英雄を、家族は田・竹原・海・磯と歌いながら追い続ける――第2部完結編。
原典では伊吹山の神と戦ったあと重い病にかかったヤマトタケル(古事記では「倭建命」と書きます)は、弱った体でふるさとの大和(倭)をめざしました。三重村のあたりでは「足が三重に折れ曲がったようにくたくただ」となげきます。古事記は、この言葉が「三重」という地名のもとになったと伝えています。
第14話琴の音が止まったとき、王は死んでいた ―神功皇后の新羅遠征―
漫画のあらすじ古事記シリーズ第14話。神の言葉を疑った王は、琴を弾く途中で息を引き取る。「あの声は、私の口から出た」――罪の思いを抱えた身重の皇后は、自ら神に問い直して海へ漕ぎ出し、魚たちを信じて荒波を越えていく。※千三百年前に書かれた神話にもとづく物語で、歴史の事実ではありません。
原典では古事記の中巻には、帯中日子天皇(仲哀天皇)の話があります。天皇は筑紫(いまの九州北部)の訶志比宮にいて、熊曾の国を討とうとしていました。神の考えを聞くために、天皇が琴を弾き、大臣の建内宿禰が「沙庭」という神のお告げを聞く場所にひかえます。神が降りたのは、大后の息長帯日売命(神功皇后)でした。
第15話ぼく、死んだことになってる? ―オシクマ王の反乱―
漫画のあらすじわが子が死んだという噂を流した母は、葬式の船に御子と兵を隠して都へ向かう。腹ちがいの兄たちとの戦い、マゲ将軍の髪に隠した弦での逆転、湖に消える主従、北の浜の神さまの贈り物をへて、死んだことにされた子は母のもとへ帰り、やがて王となる。
原典では『古事記』中巻の仲哀天皇の段にある話です。仲哀天皇が亡くなったあと、大后の息長帯日売命(おきながたらしひめのみこと)は、幼い御子を連れて大和へ帰ろうとします。けれども大后は、都の人たちが本当に味方なのかを疑っていました。そこで、死んだ人を運ぶ「喪船(もぶね)」を一艘用意して御子を乗せ、「御子はもう亡くなった」という知らせを先に広めさせます。