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第6話眠る夫に、三度刃を向けたサホビコとサホビメ

「夫と兄、どちらが愛しい?」と兄に問われた大王の妻サホビメは、眠る夫に三度刀を振り上げても刺せなかった。燃える稲の砦で子を産み、子は夫に、自分は兄のそばに――どちらも捨てない答えを選ぶ。

19ページ全話無料・会員登録なし

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次回予告 · 制作中第7話 物言わぬ皇子と白鳥の声

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この話のもとになった神話

サホビコとサホビメのあらすじ|古事記・垂仁天皇と燃える稲城

元の神話のあらすじ(古事記 中巻)

古事記の中巻、垂仁天皇(伊久米伊理毘古伊佐知命)の時代の話です。天皇の后・沙本毘売(サホビメ)には、同じ母から生まれた兄・沙本毘古王(サホビコ)がいました。兄は妹に「夫と兄、どちらが愛しいか」とたずねます。妹が「兄です」と答えると、兄は「それなら二人で天下を治めよう」と言って、何度も鍛えた紐つきの小刀(八塩折の紐小刀)を渡し、眠っている天皇を刺すように命じました。

何も知らない天皇は、后のひざを枕にして眠ります。后は首を刺そうと三度刀を振り上げましたが、悲しさに耐えられず、どうしても刺せません。こぼれた涙が天皇の顔に落ちて、天皇は目を覚まします。そして「沙本の方から激しい雨が降ってきて顔がぬれ、錦色の小さな蛇が首に巻きつく夢を見た。これは何のしるしか」とたずねました。后はもう隠しきれないと思い、すべてを打ち明けます。

天皇が兵を出すと、沙本毘古王は稲を積み上げた砦「稲城(いなき)」を作って迎え撃ちました。后は兄を思う気持ちをおさえられず、裏門からぬけ出して稲城に入ります。后はおなかに子がいました。天皇は身重の后と、三年のあいだ愛してきた日々を思うと、攻めきることができません。そのうちに城の中で御子が生まれ、后は「天皇の子と思うなら、引き取って育ててください」と言って、御子を城の外へ差し出しました。

天皇は、御子を受け取るときに后もつかまえて連れ戻すよう、力の強い兵に命じます。ところが后はそれを見ぬいていました。髪を剃ってかぶり、玉の緒(玉を通したひも)と衣をあらかじめ腐らせておいたのです。兵がつかむと髪は落ち、ひもは切れ、衣は破れて、取り戻せたのは御子だけでした。そのあと天皇と后は、子の名前、育て方、次の妃について言葉を交わします。最後に沙本毘古王は殺され、后も兄に従って死にました。

主な登場人物

中心になるのは后の沙本毘売です。夫より兄が愛しいと答えたのに、夫を刺すことはできませんでした。兄のもとへ行ったあとも、子どもを夫にたくし、子の名前や育て方、次の妃まで伝えています。夫も兄も見捨てない、という生き方をした人物として描かれています。

兄の沙本毘古王は、反逆をくわだてた人物です。古事記の系図では日子坐王の子とされています。夫の天皇は、裏切られかけたと知っても后を忘れられず、取り戻そうとし続けました。原典には三人の顔かたちや年齢は書かれていません。

この神話が伝えていること(時代の背景)

古事記は712年にまとめられた日本で最も古い歴史の本で、中巻には初代の神武天皇から応神天皇までの物語が収められています。垂仁天皇は第11代とされる天皇ですが、実際にいたのか、いつごろの人なのかについては諸説あります。「沙本」は、今の奈良市北部の佐保のあたりを指すという説があります。

天皇が見た夢は、雨が后の涙を、首に巻きつく蛇が首にあてられた小刀を示していると読むことができます。古代の人々は、夢を、これから起こることや隠されたことを知らせる「しるし」と考えていました。また、同じ母から生まれたきょうだいの結びつきがとても強かった時代のようすが、この話からうかがえるという見方もあります。

玉の緒を作った職人たちが天皇に土地を取り上げられたことから、「地得ぬ玉作」ということわざが生まれたとも書かれています。古事記には、このようにことわざや名前の由来を説明する話がよく出てきます。御子の名前「本牟智和気(ホムチワケ)」は、火が稲城を焼いているときに、火の中で生まれたことにちなんで后がつけたものです。なお、日本書紀にも、狭穂彦・狭穂姫として、よく似た話がのっています。

漫画版で変えたところ・足したところ

原典はとても短く、后の気持ちについても「悲しい思いに耐えられなかった」としか書いていません。漫画では、三度刀を振り上げるあいだの迷い、表情や間の取り方、打ち明けるときのセリフを新しく作りました。登場人物の顔かたちや服装、寝室のようす、稲城の造りや戦いの大きさ、包囲が続いた日数、出産や髪を剃るなどの準備の場面も、原典には書かれていない漫画のオリジナルです。服装などは、古墳時代ごろの雰囲気になるように考えています。

また、天皇と后がどうやって言葉を交わしたのかも原典ははっきり書いていないため、漫画で形を決めました。乳母や湯坐(子の世話をする役目)についてのやりとりは短くまとめ、玉作りの人々のくだりも大きくは扱っていません。最期の場面は、燃え落ちる稲城で表しました。原典は「王は殺され、妹も従った」と書くだけで、火の中で死んだとも、天皇の軍が火をつけたとも、はっきりとは書いていません。炎の中の最期は、后の言葉にある「火が稲城を焼いていた」という記述から広く読み取られている解釈です。

漫画で読むには

Manga Portalの「古事記 中巻 ―英雄たちの時代―」第6話では、文字だけでは想像しにくい、刀を振り上げては下ろす后のためらいや、燃える稲城での別れを絵で見ることができます。全話無料で、会員登録もいりません。前後の話とあわせて、古事記の英雄たちの時代をたどってみてください。

この話の登場人物

沙本毘売命(さほびめのみこと)
垂仁天皇の后で、兄に天皇を刺すよう命じられるが三度刀を振り上げても刺せず、稲城で御子を産む。
沙本毘古王(さほびこのみこ)
后の同母の兄で、妹と天下を治めようと天皇の暗殺をくわだて、稲城に立てこもる。
垂仁天皇(伊久米伊理毘古伊佐知命/いくめいりびこいさちのみこと)
后の膝枕で眠っていて命をねらわれるが、后を愛し続け、取り戻そうとする。
本牟智和気御子(ほむちわけのみこ)
火の中の稲城で生まれた天皇と后の子で、城の外に差し出され天皇に引き取られる。
力士たち(りきしたち)
御子と一緒に后も連れ戻すよう命じられた力の強い兵だが、后の仕掛けで御子しか取り戻せない。
兄比売・弟比売(えひめ・おとひめ)
后が「心の清い人」として次の妃にすすめた、旦波比古多多須美知宇斯王の娘たち。

よくある質問

サホビメはなぜ天皇を刺せなかったの?

古事記には、悲しい気持ちに耐えられなかったからと書かれています。兄を愛しいと答えたものの、三年間大切にしてくれた夫を殺すことはできなかったのです。こぼれた涙がきっかけで、たくらみは天皇に知られることになりました。

稲城(いなき)とは何?

稲を積み上げて作った砦のことです。沙本毘古王が天皇の軍を迎え撃つために作りました。原典には造りや大きさまでは書かれていません。

天皇が見た雨と蛇の夢にはどんな意味がある?

顔をぬらす雨は后の涙を、首に巻きつく錦色の小蛇は首にあてられた小刀を示すしるしと読めます。后自身も「夢はこのことのしるしでしょう」と言って、すべてを打ち明けました。

ホムチワケ(本牟智和気)はその後どうなったの?

古事記では、この話のあとに、大きくなってもなかなかものを言わない御子の物語が続きます。名前は、火が稲城を焼くなか、火の中で生まれたことにちなんで母の后がつけました。

サホビコとサホビメの話は日本書紀にもある?

はい。日本書紀にも、狭穂彦・狭穂姫として、よく似た話がのっています。細かいところには、古事記とちがう点もあります。

漫画を最初から読む(無料)