第5話恋人の服に、こっそり糸を縫いつけた三輪山伝説
はやり病で民が尽きかける国で、王は夢のお告げを受け、名も知らない男オオタタネコを探し出す。男が語る遠い祖先の恋――夜ごと訪れる名も知れぬ若者の衣に刺した一本の麻糸が鍵穴から外へ伸び、その先にいたのは、王が夢で見たあの神だった。
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最後まで読んでくれてありがとう!
「夫と兄、どちらを愛している?」1300年前の皇后が、炎の中で出した答え
はやり病で民が尽きかける国で、王は夢のお告げを受け、名も知らない男オオタタネコを探し出す。男が語る遠い祖先の恋――夜ごと訪れる名も知れぬ若者の衣に刺した一本の麻糸が鍵穴から外へ伸び、その先にいたのは、王が夢で見たあの神だった。
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「夫と兄、どちらを愛している?」1300年前の皇后が、炎の中で出した答え
この話のもとになった神話
古事記の中巻、崇神(すじん)天皇の時代のお話です。国じゅうに疫病が広がり、人々が死に絶えてしまいそうになりました。天皇は深く嘆き、神のお告げを受けるための床で眠ります。すると夢に大物主大神(おおものぬしのおおかみ)が現れ、「この病は私の意思によるものだ。オオタタネコという者に私を祭らせれば、たたりはおさまり、国は安らかになる」と告げました。
天皇はすぐに早馬の使いを四方へ送り、河内(かわち)の美努村(みののむら)でその人物を見つけ出します。「お前は誰の子か」と問われたオオタタネコは、大物主大神とイクタマヨリビメの間に生まれた子から数えて、四代目の子孫だと答えました。天皇は大いに喜び、オオタタネコを神主にして御諸山(みもろやま)で大神を祭らせました。さらに祭具をたくさん作らせ、天の神・地の神の社を定め、坂の神や川の瀬の神にまで、忘れずに供え物をささげます。こうして疫病はすっかりやみ、国は平和になりました。
古事記は続けて、オオタタネコが神の子孫だとわかったわけを語ります。美しい娘イクタマヨリビメのもとに、姿も振る舞いも並ぶ者のない立派な若者が、夜中に突然通ってくるようになりました。二人は心を通わせて夫婦として暮らし、やがて娘は身ごもります。
夫もいないのにと不思議に思った両親がたずねると、娘は「名前も知らない若者が毎晩来るのです」と答えました。そこで両親は、床の前に赤土をまき、麻糸を通した針を若者の衣のすそに刺すよう教えます。翌朝見ると、糸は戸の鍵穴を抜けて外へ伸びていて、手もとには三巻き分だけが残っていました。糸をたどると美和山(みわやま)の神の社で止まっていたので、生まれる子は神の子だとわかったのです。糸が「三勾(みわ)」残ったことから、その土地を「美和」と呼ぶようになったと伝えられています。
崇神天皇は、疫病に苦しむ国を治める天皇です。夢のお告げを信じてすぐに動き、神々を残らず祭らせました。大物主大神は、疫病を起こした神で、自分の子孫に祭られることを求めます。オオタタネコは河内に住んでいた神の子孫で、神主として国を救う役目を果たしました。古事記では、神君(みわのきみ)・鴨君(かものきみ)という一族の祖先とされています。
三輪山の話では、イクタマヨリビメとその両親、そして名前を明かさない若者が中心になります。若者の名前はこの場面には出てきませんが、オオタタネコの答えた系図と合わせて読むと、正体は大物主大神だと考えられます。
この話からは、病や災いは神の心の表れであり、その神をふさわしい人が正しく祭れば国が守られる、という古代の考え方が見えてきます。神の血を引く人が神主になる点も大切で、祭りを受け継ぐ一族の由来を語る話にもなっています。
御諸山・美和山は、今の奈良県桜井市にある三輪山のことで、そこで祭られた神社が大神(おおみわ)神社にあたると一般に考えられています。大神神社は本殿を持たず、山そのものを神として拝む神社として知られています。なお、日本書紀には、三輪山の神の正体が小さな蛇だったという別の話も伝わっていますが、古事記のこの場面には蛇は登場しません。
いちばん大きな変更は、オオタタネコが天皇の前で祖先の恋の物語を語る、という構成です。古事記ではオオタタネコは系図を答えるだけで、三輪山の話は語り手による説明として書かれています。また、題名の「糸を縫いつけた」も、原典では針を衣のすそに刺したという書き方です。
ほかにも、疫病に苦しむ町の様子、天皇やオオタタネコの姿や人柄、夢に現れる神の姿、使者が村を探し回る場面、若者と娘の出会いや会話などは、漫画で描き足した部分です。原典は短い言葉で出来事を伝えるだけなので、その間を想像でふくらませています。
夜ごと訪れる若者の正体が、鍵穴をくぐる一本の糸でわかる――この不思議な場面は、絵で見るとまた違った味わいがあります。Manga Portalの「古事記 中巻 ―英雄たちの時代―」は全話無料で、会員登録なしで読めます。あらすじを知ったうえで、第5話を開いてみてください。
古事記にある、美しい娘イクタマヨリビメのもとに夜ごと通う若者の正体を、衣に刺した麻糸でつきとめる話です。糸は鍵穴を抜けて美和山の神の社まで続いていて、若者が神だったとわかります。
大物主大神の子孫で、崇神天皇に見つけ出されて神主となり、御諸山(三輪山)で大神を祭った人物です。これによって国じゅうの疫病がおさまったと古事記は伝えています。
古事記によると、若者の衣に刺した麻糸が鍵穴から出ていき、手もとに三巻き(三勾)だけ残ったことから「美和」と名づけられたとされています。
古事記のこの場面には、神が蛇の姿だったという記述はありません。日本書紀には三輪山の神の正体が小さな蛇だったという別の話があり、そこから蛇と結びつけて語られることが多くなっています。
奈良県桜井市にあります。古事記の御諸山・美和山は今の三輪山にあたり、そこで祭られた神社が大神神社だと一般に考えられています。