第14話琴の音が止まったとき、王は死んでいた神功皇后の新羅遠征
古事記シリーズ第14話。神の言葉を疑った王は、琴を弾く途中で息を引き取る。「あの声は、私の口から出た」――罪の思いを抱えた身重の皇后は、自ら神に問い直して海へ漕ぎ出し、魚たちを信じて荒波を越えていく。※千三百年前に書かれた神話にもとづく物語で、歴史の事実ではありません。



















最後まで読んでくれてありがとう!
「皇后は死んだ、もう戦わない」――敵を油断させた将軍の髪の中には、予備の弓の弦が隠されていた
古事記シリーズ第14話。神の言葉を疑った王は、琴を弾く途中で息を引き取る。「あの声は、私の口から出た」――罪の思いを抱えた身重の皇后は、自ら神に問い直して海へ漕ぎ出し、魚たちを信じて荒波を越えていく。※千三百年前に書かれた神話にもとづく物語で、歴史の事実ではありません。



















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「皇后は死んだ、もう戦わない」――敵を油断させた将軍の髪の中には、予備の弓の弦が隠されていた
この話のもとになった神話
古事記の中巻には、帯中日子天皇(仲哀天皇)の話があります。天皇は筑紫(いまの九州北部)の訶志比宮にいて、熊曾の国を討とうとしていました。神の考えを聞くために、天皇が琴を弾き、大臣の建内宿禰が「沙庭」という神のお告げを聞く場所にひかえます。神が降りたのは、大后の息長帯日売命(神功皇后)でした。
神は皇后の口を通して、西に金や銀など目をみはる宝の多い国がある、その国をお前に与えよう、と告げます。ところが天皇は、高い所から西を見ても海しかないと言い返し、うそをつく神だと決めつけて琴を押しのけ、黙ってしまいました。神は激しく怒り、この天下はお前が治める国ではない、「一道」へ向かえ、と言い渡します。この「一道」は死の世界のことだと解釈されていますが、原文に説明はありません。
建内宿禰にうながされ、天皇は気が進まないまま再び琴を弾きはじめます。しかし、しばらくすると音が聞こえなくなりました。火をともして見ると、天皇はすでに亡くなっていました。古事記は、なぜ亡くなったのかを書いていません。
人々はおそれ、天皇の遺体を殯宮に安置し、国中の罪を探し出してはらい清める「大祓」を行いました。そのうえで建内宿禰がもう一度神に問うと、神は、この国は皇后のお腹にいる御子が治める国だと告げ、その子は男の子だと答えます。名を問われると、天照大神の御心であり、底筒男・中筒男・上筒男の三柱の神だと明かしました。
神は海を渡るための祭り方も細かく教えます。皇后がそのとおりに船をそろえて出発すると、大小の魚がみな船を背負って運び、追い風に乗った波が新羅の国の半ばまで船を押し上げました。新羅の王はおそれ、これからは毎年船で貢ぎ物を届けて仕えると誓います。古事記に戦いの場面はありません。皇后は新羅の王の門に杖を突き立て、墨江大神(住吉の神)の荒々しい魂を国の守り神としてまつってから帰りました。
帰りの途中でお産が近づいたため、皇后は石を裳(腰から下にまとう衣)に巻いてお腹を鎮め、筑紫に戻ってから御子を産みます。その地は「宇美」と名づけられました。その後、皇后は末羅県の玉島の川辺で、裳の糸を抜き、ご飯粒をえさにして鮎を釣ります。古事記は、これにちなんで四月の初めに女性が同じやり方で鮎を釣る習わしが続いている、と記しています。
中心となるのは、神を疑った仲哀天皇と、神が降りる人だった神功皇后、そして神と人との間をつなぐ建内宿禰の三人です。仲哀天皇は倭建命の子で、自分の目で見たものを信じて神の言葉を退けました。皇后については、顔立ちや性格は原文に書かれておらず、神の教えに従って行動する姿だけが記されています。お腹の御子は、のちの応神天皇(品陀和気命)ですが、この段ではまだ名前は出てきません。
この話には、神の言葉は人の目で確かめられることよりも重い、という古代の考え方がはっきり表れています。また、神のお告げを聞く場では、琴を弾く人、神が降りる人、言葉を聞き取って問いかける人と、役割が分かれていたこともわかります。
後半には、地名や習わしの始まりを語る話が多く入っています。宇美は福岡県宇美町の地名と結びつけて語られ、玉島の釣りは土地の風習の由来を説明する話です。なお、腰に巻いた石を「鎮懐石」と呼ぶことや石の形の話、釣りの前に神の心を占う場面は、日本書紀や万葉集などに見られるもので、古事記にはありません。
新羅への遠征は、八世紀の朝廷が自分たちの成り立ちをどう語ったかを示す物語です。神功皇后が実在したかどうかも含めて、さまざまな説があり、歴史の事実とは分けて読む必要があります。
漫画は古事記の筋に沿っていますが、目に見えるところや心の動きは創作で補っています。沙庭や宮の建物、琴の形、灯りの様子、人物の顔や衣装、神が降りたときの皇后の表情は、原文にはありません。神は皇后の口を通して語るだけで、その姿も書かれていません。
いちばん大きな創作は皇后の気持ちです。「あの声は、私の口から出た」という罪の思いや、皇后が自分から神に問い直す流れは漫画で加えたものです。原典で神に問いかけるのは建内宿禰で、皇后の気持ちは書かれていません。船を運ぶ魚の種類や海の情景、出産を前にした体の様子、石の大きさ、玉島の川辺の静かな空気も漫画の表現です。
古事記の文章は短く、闇の中で琴の音が途切れる場面や、魚が船を背負う海の場面は、文字だけでは想像しにくいかもしれません。漫画では、そうした場面を一コマずつ追いながら、物語の流れをつかめます。Manga Portalの「古事記 中巻 ―英雄たちの時代―」は全話無料で、会員登録なしで読めます。父の倭建命の時代から続けて読むと、王たちの物語のつながりもよく見えてきます。
古事記では仲哀天皇の大后で、神が降りて言葉を伝える人として描かれています。夫の死後、神の教えに従って海を渡り、筑紫で御子(のちの応神天皇)を産みました。顔立ちや性格は原文に書かれていません。
神のお告げを「うそをつく神だ」と疑って怒らせたあと、琴を弾いている途中で亡くなったと古事記は語ります。死因そのものは書かれておらず、明かりをつけたらすでに亡くなっていた、とだけ記されています。
古事記の新羅遠征は神話として語られた物語で、そのまま歴史の事実とすることはできません。神功皇后が実在したかどうかについても、さまざまな説があります。
皇后がお産を遅らせるために裳の腰に巻いた石のことです。古事記には石を巻いたことと、その石が伊斗村にあることだけが書かれ、「鎮懐石」という呼び名や詳しい話は日本書紀や万葉集などに出てきます。
皇后に降りた神は底筒男・中筒男・上筒男の三柱の神だと名のり、のちに墨江大神(住吉の神)の荒々しい魂として新羅にまつられました。この神話は住吉の神の信仰と深く結びついています。