第7話白鳥を追え、王子が話すまでホムチワケ
炎の中で生まれ、胸までひげが伸びても言葉を話さない王子ホムチワケ。父は白鳥を国の果てまで追わせるが、王子の声を呼び覚ましたのは、忘れられていた出雲の神の願いだった。最初の言葉、蛇の姫との夜、常世の実を持ち帰った忠臣の最期、そして王子が声を受け継ぐまでを描く。



















最後まで読んでくれてありがとう!
日本最強の英雄の初陣は、女装しての潜入暗殺だった。しかもその名は、殺した敵からもらったもの
炎の中で生まれ、胸までひげが伸びても言葉を話さない王子ホムチワケ。父は白鳥を国の果てまで追わせるが、王子の声を呼び覚ましたのは、忘れられていた出雲の神の願いだった。最初の言葉、蛇の姫との夜、常世の実を持ち帰った忠臣の最期、そして王子が声を受け継ぐまでを描く。



















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日本最強の英雄の初陣は、女装しての潜入暗殺だった。しかもその名は、殺した敵からもらったもの
この話のもとになった神話
『古事記』中巻の垂仁(すいにん)天皇の段に出てくる、皇子ホムチワケ(本牟智和気)の物語です。母のサホビメは、兄の反乱に巻きこまれ、燃える稲城(いなき。稲を積んだとりで)の中で皇子を産みました。そして「火の中で生まれたので、ホムチワケと名づけてください」と天皇に伝えます。
父の天皇は、二またに分かれた杉の木で小舟を作り、池に浮かべて皇子を遊ばせました。けれど皇子は、長いひげが胸に届く年になっても、まともに言葉を話しません。あるとき、空高く飛んでいく鵠(くぐい。白鳥のことと考えられています)の声を聞いて、皇子ははじめて片言を口にしました。
そこで天皇は、山辺の大鶙(やまのべのおおたか)に鳥をつかまえさせます。名前に「たか」とありますが、原典の注に「人の名前」とはっきり書かれています。大鶙は、今の和歌山にあたる紀伊の国から北陸の越(こし)の国まで、十の国をめぐって鳥を追い、最後は網を張ってとらえました。ところが鳥を見ても、皇子は話しませんでした。
悩む天皇の夢に、ある神が現れて「わたしの宮を天皇の御殿のように整えれば、御子は話すだろう」と告げます。夢の中では、神は名前を明かしません。占い(太占)をしてみると、出雲の大神の思いによるたたりだとわかりました。
皇子のお供は、占いで曙立王(あけたつのみこ)に決まりました。曙立王は出発前に誓約(うけい。神の意思を確かめる占いの一種)をして、鷺(さぎ)を落として死なせては生き返らせ、樫の木を枯らしてはよみがえらせます。誓約をしたのは皇子ではなく、曙立王です。こうして皇子は、曙立王・菟上王(うなかみのみこ)とともに出雲へ向かいました。
大神を拝んだ帰り道、皇子の一行は肥河(ひのかわ)に仮の宮を建てて泊まります。出雲国造の祖先・岐比佐都美(きひさつみ)が、川下に青葉で飾った山のような作り物を立て、食事をささげようとしました。それを見た皇子は「あれは山に見えるが山ではない。出雲で葦原色許男大神(あしはらしこおのおおかみ)をまつる人たちの祭りの場ではないか」と、はじめて筋の通った言葉を話したのです。
その後、皇子は肥長比売(ひながひめ)という美しい女性と一夜を過ごします。ところが、そっとのぞくと、その正体は蛇でした。恐れて逃げる皇子を、比売は海を光で照らしながら船で追いかけます。一行は船を引いて山の低いところを越え、なんとか逃げのびました。知らせを聞いた天皇は喜び、菟上王を出雲へ戻して、神の宮を造らせました。
垂仁天皇の段の終わり近くには、別の話として多遅摩毛理(たじまもり)が登場します。天皇の命令で、遠い常世(とこよ)の国へ「季節を問わず香る木の実(非時香菓)」を探しに行き、持ち帰りました。しかし、そのとき天皇はすでに亡くなっていました。彼は実の半分を皇后に、残りを天皇の墓の入り口に供え、泣き叫びながら息絶えます。原典は、その実が今の橘(たちばな)だ、と結んでいます。
この物語の中心にあるのは、出雲の神を大切にまつることの重さです。皇子の言葉は、鳥をつかまえても戻りませんでした。出雲の大神の願いにこたえたことで、ようやく戻ってきたのです。皇子が口にした葦原色許男大神は、古事記の上巻で大国主神の別名とされています。そのため、出雲大神を大国主神と考える見方が一般的です。ただし、この段の本文に「大国主」という名前は出てきません。
物語の中では、皇子のために品遅部(ほむちべ)や鳥取部(ととりべ)などの人々の集団が定められます。古い時代の朝廷が、各地の人々や仕事をどうまとめていったかを伝える話だ、とする見方もあります。
タジマモリの話は、身近な橘の木の由来を語るものです。なお、帰るまでに十年かかったという話は『日本書紀』の伝えで、古事記には書かれていません。のちの時代には、タジマモリを菓子の神としてまつる神社も生まれました。
原典に書かれている皇子の見た目は「胸まで届くひげ」だけで、顔つきや気持ちはまったく語られていません。漫画では、話せない間の皇子の表情や心の声を描き加えています。大鶙が国々をめぐる旅の風景や苦労、白鳥の姿、夢のお告げの見せ方、青葉の山の飾りの形、肥長比売の人の姿と蛇の姿、海を照らす光の表現も、漫画で想像して描いた部分です。
お供の王たちの性格や掛け合い、タジマモリの旅の長さや常世の国の景色も、漫画のオリジナルです。タジマモリの話を物語のしめくくりに置き、皇子が「声を受け継ぐ」流れにまとめたのも漫画の構成です。ただ、原典でもこの話は天皇が亡くなる直前に置かれているので、元の順番から大きく外れた並べ方ではありません。
『古事記 中巻 ―英雄たちの時代―』第7話「白鳥を追え、王子が話すまで ―ホムチワケ―」は、Manga Portalで全話無料、会員登録なしで読めます。白鳥を追う長い旅や、皇子がはじめて声を出す場面は、絵で見るとまた違った味わいがあります。あらすじを読んで気になった方は、ページをめくってみてください。シリーズを通して読めば、ほかの英雄たちの物語ともつながって見えてきます。
古事記では、出雲の大神の思いによる「たたり」が原因だったとされています。天皇の夢のお告げと占いでそれがわかり、皇子が出雲の大神を拝んだ帰り道に、はじめて筋の通った言葉を話しました。
空高く飛ぶ大きな鳥で、白鳥のことだと考えるのが一般的です。皇子はこの鳥の声を聞いて、はじめて片言を口にしました。
皇子が口にした「葦原色許男大神」は、古事記の上巻で大国主神の別名とされているので、大国主神と考える見方が一般的です。ただし、この段の本文には「大国主」という名前は出てきません。
タジマモリは天皇の命令で常世の国へ行き、季節を問わず香る木の実「非時香菓」を持ち帰りました。古事記は、その実が今の橘だと伝えています。
古事記の中巻、垂仁天皇の段です。母サホビメの話のすぐあとに続き、同じ段の終わり近くにタジマモリの話も入っています。