第10話「困ったら開けて」と叔母は言った草薙の剣
叔母ヤマトヒメから剣と「急なときに開けよ」という袋を授かったヤマトタケルは、尾張でミヤズヒメと再会の約束を交わして東へ向かう。相武国で国造に偽りの神の話で野へ誘い出され、四方を炎に囲まれた彼を救ったのは、叔母の袋の中身だった。



















最後まで読んでくれてありがとう!
嵐を止めるため、妻は自ら海へ降りた。夫が峠で叫んだ一言が、日本の東の地方の名前になった
叔母ヤマトヒメから剣と「急なときに開けよ」という袋を授かったヤマトタケルは、尾張でミヤズヒメと再会の約束を交わして東へ向かう。相武国で国造に偽りの神の話で野へ誘い出され、四方を炎に囲まれた彼を救ったのは、叔母の袋の中身だった。



















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嵐を止めるため、妻は自ら海へ降りた。夫が峠で叫んだ一言が、日本の東の地方の名前になった
この話のもとになった神話
『古事記』中巻には、景行天皇の皇子ヤマトタケル(倭建命)が、東の国々を平らげるよう命じられて旅をする話があります。出発の前、ヤマトタケルは伊勢で叔母のヤマトヒメ(倭比売命)から草那芸剣(くさなぎのつるぎ)と一つの袋を授かります。そのとき叔母は「もし急なことがあれば、この袋の口を解きなさい」と言いました。
東へ向かう途中、尾張国に着いたヤマトタケルは、尾張国造の祖であるミヤズヒメ(美夜受比売)の家に入ります。結婚しようと思いましたが、都へ帰るときに結婚しようと考え直し、約束を交わして先へ進みました。その後、山や川の荒々しい神や、従わない人々を次々と説き伏せ、平らげていきます。
相武国(さがむのくに)に着くと、その国の国造が「この野の中に大きな沼があり、そこに住む神はとても荒々しいのです」と偽りを申し上げました。ヤマトタケルがその神を見ようと野に入ると、国造は野に火をつけます。だまされたと知ったヤマトタケルが叔母の袋を開けると、中には火打ち(火を起こす道具)が入っていました。
ヤマトタケルはまず剣で周りの草を刈り払い、火打ちで火を起こして「向かい火」をつけ、迫ってくる火を焼き退けました。野から出たヤマトタケルは、国造たちを皆切り滅ぼし、火をつけて焼きます。そのため、その土地は今も「焼遣(やきづ)」と呼ばれる、と古事記は語っています。
主人公のヤマトタケルは、だまされても袋を開け、草を刈り、向かい火をつけるという素早い判断で危機を切り抜けます。一方で、自分をだました相手を一人残らず滅ぼす激しさも持っています。古事記はこの場面で、彼の気持ちをほとんど書いていません。
ミヤズヒメについて、この場面で書かれているのは「尾張国造の祖であること」「ヤマトタケルが家に入ったこと」「結婚の約束をしたこと」だけです。ヤマトヒメはこの場面に姿を見せませんが、彼女が渡した袋が命を救う鍵になります。相武国の国造は、名前も人数も書かれていない敵役です。
「国造(くにのみやつこ)」とは、各地の土地を治めていた有力者のことです。東征の物語には、都の力が地方へ広がっていく様子が、英雄の冒険という形で描かれていると考えられています。
向かい火は、こちらからも火をつけて先に草を焼いてしまい、燃えるものをなくして大きな火を止める方法です。袋の中身が武器ではなく火打ちだったことに、知恵で危機を乗り越える物語のおもしろさがあります。
「草薙の剣」という名前については、草を薙ぎ払ったからこう呼ばれるようになった、という由来が日本書紀の注などに別の伝えとして残っています。ただし古事記では、この剣ははじめから草那芸剣と呼ばれており、この場面で名付けられたわけではありません。この剣は、のちに三種の神器の一つとして知られるようになります。
また、焼遣は今の静岡県焼津市にあたるという説が広く知られています。ただ、古事記では出来事の場所が相武国とされているため、場所については、いろいろな考え方があります。
原典はとても短い文章なので、漫画では多くの部分をふくらませています。ミヤズヒメの姿や性格、セリフ、二人が約束を交わすやりとり、そして「なぜ結婚を帰りまで待ったのか」という理由は、漫画オリジナルです。東国を進む道のりや、国造の名前・見た目・言葉づかいも創作です。
火が「四方から」迫る場面も、漫画の演出です。古事記には「野に火をつけた」とあるだけです。袋を開けるまでの迷いや叔母の言葉を思い出す回想、火打ちの形、剣で草を刈る動き、炎や煙の迫力も、絵で見せるために足しました。国造たちの最期は、結果だけを示すように描き方を抑えています。
文章で読むと数行で終わる場面も、漫画では炎に囲まれる緊張感や、叔母の袋に込められた思いがぐっと伝わります。「古事記 中巻 ―英雄たちの時代―」は全話無料・会員登録なしで読めるので、第10話から気軽にのぞいてみてください。ミヤズヒメとの約束がどうなるのかも、この先の話で描かれます。
古事記によると、中には火打ち(火を起こす道具)が入っていました。ヤマトタケルはこれで向かい火をつけ、迫る火を退けました。
草を薙ぎ払って火から逃れたことから名付けられた、という由来が日本書紀の注などに伝わっています。ただし古事記では、剣はこの場面より前から草那芸剣と呼ばれています。
古事記は、国造たちを焼いたことから、その地を「焼遣」と呼ぶと伝えています。これが今の静岡県焼津市にあたるという説が広く知られています。
こちらからも火をつけて手前の草を先に燃やし、燃えるものをなくすことで、迫ってくる火を止める方法です。
尾張国造の祖とされる女性で、ヤマトタケルと結婚の約束を交わしました。この場面では、それ以上の詳しいことは古事記に書かれていません。