第4話母の歌は、暗殺の警告だったタギシミミの反乱
シリーズ第4話。初代の王イワレビコの死後、腹違いの兄タギシミミが三人の弟の命を狙う。母イスケヨリヒメは景色の歌に危険を隠し、それを読み解いた末っ子ヌナカワは、刀を振り上げたまま震える兄からその刀を受けとる。
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最後まで読んでくれてありがとう!
毎晩来る恋人は、鍵のかかった部屋から消える。糸をたどった先にいたのは――
シリーズ第4話。初代の王イワレビコの死後、腹違いの兄タギシミミが三人の弟の命を狙う。母イスケヨリヒメは景色の歌に危険を隠し、それを読み解いた末っ子ヌナカワは、刀を振り上げたまま震える兄からその刀を受けとる。
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この話のもとになった神話
『古事記』(712年成立、太安万侶がまとめた)の中巻のはじめ、初代の天皇とされる神武天皇(カムヤマトイワレビコ)が亡くなったあとの事件です。神武天皇には、日向にいたころアヒラヒメとの間に生まれた子タギシミミがいました。また、大和に入ってから正妻(大后)に迎えたイスケヨリヒメとの間にも、ヒコヤイ、カムヤイミミ、カムヌナカワミミの三人の皇子がいました。
父が亡くなると、三人から見て腹違いの兄にあたるタギシミミは、父の大后だったイスケヨリヒメを自分の妻にします。そのうえで、三人の弟を殺そうとたくらみました。それを知ったイスケヨリヒメは深く思い悩み、はっきり口で言うかわりに、二首の歌で息子たちに危険を知らせます。
歌の意味に気づいた息子たちは驚き、先にタギシミミを討とうと決めました。末っ子のカムヌナカワミミは兄のカムヤイミミに「武器を持って中に入り、討ってください」と頼みます。ところが兄は手足が震えて、討つことができません。そこで弟は兄から武器を受けとって中に入り、自分の手でタギシミミを討ちました。この勇ましさから、彼は強さをあらわす「建(たけ)」を付けて、タケヌナカワミミとも呼ばれます。
兄のカムヤイミミは「私は仇を討てなかった。兄ではあるが、上に立つべきではない」と自分から認めました。そして天下を治める役を弟にゆずり、自分は神をまつる「忌人(いわいびと)」として弟を支えると申し出ます。こうしてカムヌナカワミミは葛城の高岡宮で天下を治め、第2代の綏靖天皇になりました。
一首目は「狭井河のほうから雲が広がり、畝火山では木の葉がざわめいている。もうすぐ風が吹く」という内容です。二首目は「畝火山には昼のあいだ雲がただよい、夕方になると、風が吹き出しそうに木の葉が鳴っている」と歌います。
表面上はただの景色の歌ですが、「風が吹こうとしている」は、悪いことがもうすぐ起きるという合図だと読まれてきました。狭井河のほとりにはイスケヨリヒメの家がありました。そこで、雲や風をタギシミミのたくらみや、迫ってくる危険にたとえたという読み方があります。ただし古事記には、息子たちが「歌の意味を知って驚いた」とあるだけで、どう読み解いたかまでは書かれていません。
この話は、古事記で最初に描かれる王位をめぐる兄弟の争いです。このあとも古事記では、王の座をめぐる身内の争いが何度もくり返されます。父の妻を息子が妻にすることについては、父の地位を受けつぐ意味があったのではないか、という説もあります。
兄が弟に政治の座をゆずり、自分は神まつりの役で支えるという結末からは、「国を治めること」と「神をまつること」を分けて担う考え方が読みとれます。カムヤイミミは、意富臣(多臣)や阿蘇君、科野国造など多くの氏族の祖先とされています。この話には、それらの一族の由来を語る役目もあったと考えられます。
なお、古事記は綏靖天皇の治世中の出来事を何も書いていません。綏靖天皇から8代の天皇は系譜などしか記されていないため「欠史八代」と呼ばれ、実在したかどうかについてもさまざまな説があります。
原典はとても短く、人物の気持ちや場面の様子はほとんど書かれていません。そのため漫画では、タギシミミが反乱を計画する場面、イスケヨリヒメがどんな場所で誰の前で歌を詠んだか、兄弟が歌の意味を読み解く会話などを新しく描いています。イスケヨリヒメがタギシミミの妻になったときの気持ちや、人物の外見・年齢・衣装も漫画のオリジナルです。
原典には、カムヤイミミが「手足が震えた」としか書かれていません。漫画では、兄が刀を振り上げたまま動けなくなる姿や、その恐れ・ためらいを描いています。また、原典は武器を「兵(つわもの)」と書くだけで、刀とは決めていません。刀を使ったのは漫画の演出です。いっぽう、兄の「仇を討てなかった」「兄だが上に立つべきではない」「忌人として仕える」という三つの言葉の中身は、原典どおりにしています。
景色の歌に命がけの警告をこめた母と、震える兄から刀を受けとった末っ子。短い原典の行間を、漫画では表情や間(ま)で描いています。この記事で流れをつかんでから読むと、歌の場面がいっそう味わい深くなるはずです。
『古事記 中巻 ―英雄たちの時代―』は、Manga Portalで全話無料、会員登録なしで読めます。第4話「母の歌は、暗殺の警告だった ―タギシミミの反乱―」とあわせて、前後の話もぜひ読んでみてください。
神武天皇の死後、腹違いの兄タギシミミが三人の弟を殺そうとした事件です。母イスケヨリヒメが歌で危険を知らせ、末の弟カムヌナカワミミが先にタギシミミを討ちました。
表面上は「雲が広がり、木の葉がざわめき、風が吹こうとしている」という景色の歌です。風を危険が迫る合図、雲や風をタギシミミのたくらみのたとえとする読み方があります。
自分は手足が震えて仇を討てず、弟が討ったからです。兄は「兄であっても上に立つべきではない」と認め、自分は神をまつる忌人として弟を支える道を選びました。
第2代の天皇で、カムヌナカワミミのことです。葛城の高岡宮で天下を治め、45歳で亡くなったとされますが、治世中の出来事は古事記に書かれていません。
綏靖天皇から8代の天皇について、古事記や日本書紀に系譜などしか書かれず、具体的な出来事がほとんど記されていないことを指す呼び名です。実在したかどうかについては諸説あります。