この話のもとになった神話
ギュルヴィたぶらかしとは?あらすじ解説|北欧神話・ゲフィオンの国引き
ひとことで言うと: 「ギュルヴィたぶらかし」は、スウェーデンの王ギュルヴィが女神ゲフィオンに国土を削り取られたあと、老人に化けて神々の館を訪ね、三人の謎の人物に世界の始まりと終わりを問いただす物語です。13世紀前半にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが書いた『新エッダ(散文のエッダ)』の第1部にあたります。
元の神話のあらすじ:女神ゲフィオンの「国引き」
スヴィーショーズ(今のスウェーデン)を治める王ギュルヴィは、ある旅の女に楽しませてもらったお礼に、「四頭の牛が一昼一夜で鋤き返せるだけの土地をあげよう」と約束しました。どうやって楽しませたのかは、原典には書かれていません。
この女の正体は、アース神族の女神ゲフィオンでした。彼女は北の巨人の国から四頭の牛を連れてきます。牛は、彼女が巨人との間にもうけた四人の息子が姿を変えたものでした。鋤は大地を深く切り裂き、はがれた土地を牛たちが西の海へ引いていきます。土地はある海峡に据えられ、セルンド(今のデンマークのシェラン島)と名づけられました。
土地を取られた跡は湖になり、スウェーデンで「ログ(湖)」と呼ばれるようになったといいます。湖の入江の形がシェラン島の岬の形とぴったり合う、とも語られています。原典はここで、詩人ブラギ翁の古い詩も引いています。なお、この湖をメーラレン湖とする説が知られていますが、形の対応ではヴェーネルン湖の方がよく合うという指摘もあります。
王ギュルヴィの旅と黄金の館
ギュルヴィは賢く、魔術にも通じた王でした。アース神族は何でも思いどおりにできるように見えます。それは彼ら自身の力なのか、それとも彼らが祀る神々の力なのか。王はそれを確かめるため、老人の姿になり、「ガングレリ」と名乗って、ひそかにアースガルズへ向かいます。ガングレリは「歩き疲れた者」という意味だとされています。
ところが、アース神族は先を見通す力で王が来ることを知っていて、目くらましの幻を用意していました。王が見たのは、黄金の盾で屋根を葺いた高く大きな館です。戸口では一人の男が短剣を投げ上げていて、宙にはいつも七本の短剣がありました。中では大勢の人が遊び、酒を飲み、武器で戦っていました。
三つの高座と、命がけの最初の問い
館の奥には、上下に三つの高座が並んでいました。いちばん下にハール(高き者)、その上にヤヴンハール(等しく高き者)、いちばん上にスリジ(第三の者)が座っています。ハールは王に「お前の方が賢くなければ、無事にはここを出られない。問う者は立ち、答える者は座れ」と告げます。
ガングレリの最初の問いは「神々のうち、いちばん高く、いちばん古いのは誰か」でした。ハールは「万物の父(アルフォズル)」と答え、ほかの二人が言葉を足します。ここから長い問答が始まり、世界の始まりから神々の終わり(ラグナロク)までが語られていきます。三人はオーディンの別名、あるいはオーディンの三つの姿だとする読み方が一般的ですが、この場面ではまだ明かされません。
この神話が伝えていること(時代と文化の背景)
作者のスノッリは、キリスト教が広まったあとの13世紀アイスランドの政治家・歴史家です。古い神話の知識が忘れられていくなかで、詩人たちが昔の詩を理解し、新しい詩を作るための手引きとして『新エッダ』をまとめたと考えられています。
「問う者と答える者」という形は、知恵比べの物語が好まれた北欧の文化をよく表しています。また、ゲフィオンの話は、デンマークの島とスウェーデンの湖という実際の地形を神話で説明する「由来話」でもあり、当時の人々が身近な土地と神々を結びつけていたことがわかります。
漫画版で変えたところ・足したところ
漫画では、旅の女が王を「歌」で楽しませたことにしています。原典は中身を書いていないので、これは漫画の創作です。ゲフィオンの見た目や話し方、大地が切り裂かれる場面の迫力も、漫画ならではの表現です。
また、土地を失ったギュルヴィの悔しさや、神々への恐れと好奇心といった心の動きも、原典にはないシリーズ独自の脚色です。一方で、黄金の盾の屋根、七本の短剣を操る門番、上下に並ぶ三つの高座、「問う者は立て」という決まりなどは、原典どおりに描いています。
漫画で読むには
文章で読むと少しややこしい「ギュルヴィたぶらかし」も、漫画なら、国が一晩で削られる驚きや、黄金の館で逃げ道を失う緊張感を、目で追いながら楽しめます。Manga Portal の『北欧神話 ―王は神々の終わりを聞いた―』は全話無料で、会員登録もいりません。王の問いの先にどんな世界の物語が待っているのか、ぜひ第1話から読んでみてください。
この話の登場人物
- ギュルヴィ(ぎゅるう゛ぃ)/ガングレリ(がんぐれり)
- スウェーデンの賢い王。神々の力の秘密を知るため、老人に化けて「ガングレリ」と名乗り、アースガルズへ旅に出る主人公。
- ゲフィオン(げふぃおん)
- 旅の女に姿を変えていたアース神族の女神。王から得た土地を牛に引かせて海へ運び、シェラン島を作った。
- 四頭の牛(ゲフィオンの息子たち)
- ゲフィオンと巨人の間に生まれた四人の息子が牛になった姿。鋤を引き、切り取った大地を海まで運んだ。
- ハール(はーる)
- 三つの高座のいちばん下に座る「王」。ガングレリに命がけの問答を持ちかけ、主に答える役をつとめる。
- ヤヴンハール(やう゛んはーる)
- 「等しく高き者」という意味の名を持つ、中段の高座に座る人物。ハールの答えに言葉を足す。
- スリジ(すりじ)
- 「第三の者」という意味の名を持つ、最上段の高座に座る人物。ハールの答えに言葉を足す。
よくある質問
「ギュルヴィたぶらかし」とはどんな話?
スウェーデン王ギュルヴィが神々の館を訪ね、三人の人物に質問しながら北欧神話の世界の始まりから終わりまでを聞く物語です。『新エッダ』の第1部にあたり、北欧神話を知るうえでいちばん基本になる書物の一つです。
タイトルの「たぶらかし」とはどういう意味?
アース神族が、やってきた王を幻(目くらまし)でだましたことを指しています。王が見た黄金の館も、神々が用意した幻でした。
ゲフィオンはどんな女神?
アース神族の女神で、巨人との間に生まれた四人の息子を牛にして大地を鋤き、スウェーデンから切り取った土地でデンマークのシェラン島を作ったと語られます。原典は彼女の見た目や性格については何も書いていません。
ハール・ヤヴンハール・スリジの正体は?
三人ともオーディンの別名、あるいはオーディンの三つの姿だとする読み方が一般的です。ただし、物語の冒頭ではまだ正体ははっきり示されません。
『新エッダ』は誰がいつ書いたの?
13世紀前半に、アイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが古ノルド語で書きました。詩人のための手引きとして、古い神話や詩の言葉をまとめたものと考えられています。
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