第3話王になる前の日、王子は森へ追われたラーマの追放(アヨーディヤー・カーンダ)
明日には王位を継ぐはずだった王子ラーマは、父がかつて命の恩人と交わした「二つの願い」の約束のせいで、一晩のうちに14年の森の暮らしを言い渡される。誰も彼を憎んでいないのに、すべてを失う――約束の重さと、その代償の物語。



















最後まで読んでくれてありがとう!
兄から王位を『もらってしまった』弟。彼が選んだのは、王座にサンダルを置くことだった。
明日には王位を継ぐはずだった王子ラーマは、父がかつて命の恩人と交わした「二つの願い」の約束のせいで、一晩のうちに14年の森の暮らしを言い渡される。誰も彼を憎んでいないのに、すべてを失う――約束の重さと、その代償の物語。



















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兄から王位を『もらってしまった』弟。彼が選んだのは、王座にサンダルを置くことだった。
この話のもとになった神話
『ラーマーヤナ』は、古代インドの詩人ヴァールミーキが作ったと伝えられるサンスクリット語の叙事詩です。『マハーバーラタ』と並んで、インドの二大叙事詩と呼ばれています。第2巻「アヨーディヤー・カーンダ」は都アヨーディヤーが舞台の巻です。その前半(流布本=Gita Press版などの章番号で第1〜45章)に、王子ラーマが王位を継ぐ直前に森へ追われる場面があります。バローダ批判版では章番号がずれるので、原典を確かめるときは、どちらの番号なのかに気をつけてください。漫画第3話は、この部分をもとにしています。
年をとったダシャラタ王は、不吉な前ぶれを感じて、長男のラーマを皇太子にしようと決めます。重臣や民に相談すると、皆が大喜びで賛成しました。王は「明日の吉日に即位させる」と告げ、ラーマの弟バラタが母方の祖父の国ケーカヤへ出かけているうちに済ませたい、という本音ももらします。都は旗や花で飾られ、お祝いの空気に包まれました。
この様子を見ていたのが、王妃カイケーイー(バラタの母)の侍女マンタラーです。知らせを聞いたカイケーイーは、はじめは喜んで褒美を与え、ラーマもバラタと同じくらい愛しいと言いました。ところがマンタラーは「ラーマが王になれば、バラタは追いやられ、あなたはラーマの母コーサリヤーに仕える身に落ちる」と不安をあおり、ついに主人の心を変えてしまいます。
そこで持ち出されたのが「二つの願い」です。昔、神々と阿修羅(アスラ)の戦いで傷ついた王を、カイケーイーが戦場から運び出して命を救いました。そのお礼に、王は願いを二つかなえると約束していたのです。なお「カイケーイーが車軸に指を差し込んで、車輪が外れるのを防いだ」という有名な話は後の時代の言い伝えで、ヴァールミーキの原典には出てきません。
カイケーイーは飾りを外して「怒りの部屋」にこもり、なだめに来た王に、まずラーマの名にかけて誓わせます。そのうえで「バラタを王に。ラーマを14年間、樹皮の衣を着せてダンダカの森へ」と求めました。王は気を失い、一晩中頼み込みますが、カイケーイーは「約束を破れば嘘をついた罪になる」と言って聞き入れませんでした。
翌朝、ラーマが呼ばれて来ても、王は名前を呼ぶのがやっとでした。願いの中身を告げたのはカイケーイーです。ラーマは表情ひとつ変えずに父の言葉に従うと答え、その日のうちに森へ発つと決めました。
母コーサリヤーは倒れて嘆きます。異母弟のラクシュマナは激怒し、力ずくで王位を取るべきだと迫って、父王を討つことまで口にしました。ラーマは、これは運命であり、父の約束を守るのが法(ダルマ)の道だと説いて、弟をいさめます。
妻のシーターには都に残るよう言い、森の危険を並べて止めました。けれどもシーターは「妻は夫と運命を共にするもの」と言い返し、泣き、最後にはラーマを強くなじってまで、一緒に行くことを認めさせます。ラクシュマナも同行を願い出て許されました。3人は持ち物を人々に分け与え、樹皮の衣に着替えて、御者スマントラの戦車で都を出ます。王と民は泣きながら後を追い、民はタマサー川の岸までついて行きました。
この場面には、はっきりした悪人がいません。王はラーマを愛していますし、カイケーイーも最初は即位を喜んでいました。バラタは都にいないので何も知らず、人々もバラタ自身は善良だと考えています。それでも、昔交わした一つの約束が、一晩ですべてをひっくり返してしまうのです。
ラーマが追放を受け入れたのは、父を「約束を破った王」にしないためでした。一度口にした誓いを守ることは、王が果たすべき重い務めとして描かれています。そのためラーマは、長いあいだ正しい行いの手本として語られてきました。一方で、原典は王の弱さやシーターの気の強さもはっきり描いていて、ただの美談では終わりません。
話の大筋は原典どおりです。いちばん大きな創作は、カイケーイーの心の揺れを独白で描いたところです。原典では、彼女が心の中で迷う様子はほとんど語られません。漫画では、最初は喜んでいたこと、バラタと自分の将来への不安、王の命を救った過去を手がかりにして、独白を作りました。この独白の中身は漫画のオリジナルです。
このほか、マンタラーが説き伏せる場面の間や表情、怒りの部屋の様子、夜がふけていく演出、都の飾りや群衆一人ひとりの顔と台詞も、漫画で加えたものです。建物や衣装も自由にデザインしています。ラーマとラクシュマナ、ラーマとシーターの長いやりとりは数コマに縮めました(何を言い争っているかは原典どおりです)。貧しいバラモンのトリジャタの逸話や、スマントラがカイケーイーを責める場面などは省いています。
「明日は王になるはずだった王子が、誰にも憎まれていないのに、すべてを失う」。この第3話の重さは、絵で見るとまた違って感じられるはずです。Manga Portalの『ラーマーヤナ ―追放の王子と風の子ハヌマーン―』は全話無料で、会員登録なしで読めます。原典では第4巻から登場する風の子ハヌマーンにつながる冒険の始まりとして、ぜひ前後の話もあわせて読んでみてください。
王妃カイケーイーが、昔ダシャラタ王に約束された「二つの願い」を使って、自分の息子バラタの即位とラーマの追放を求めたからです。王は約束を破れず、ラーマも父を嘘をついた罪から救うために従いました。
神々と阿修羅の戦いで傷ついた王を、カイケーイーが戦場から運び出して救ったお礼として、王が約束した二つの願いです。彼女はそれを「バラタを王にすること」と「ラーマを14年間森に住まわせること」に使いました。
14年間です。原典では「9年と5年」という言い方で求められ、樹皮の衣を着てダンダカの森で暮らすことが条件でした。
原典では、即位の知らせを最初は喜び、ラーマをバラタと同じくらい愛しいと言っています。侍女マンタラーに説き伏せられてから強硬になりますが、心の中の迷いは原典ではほとんど語られていません。
古代インドの詩人ヴァールミーキの作と伝えられるサンスクリット語の叙事詩で、『マハーバーラタ』と並ぶインドの二大叙事詩です。王子ラーマの追放、妻シーターがさらわれる事件、ハヌマーンたちの助けを借りた救出の戦いなどが描かれます。