第5話求婚を断ったら、一万四千の軍が来たシュールパナカーとカラの軍勢(森の巻/アラニヤ・カーンダ)
森の修行者たちを守ると誓ったラーマ。羅刹の王女シュールパナカーの求婚を退けたことから、一万四千の羅刹軍が押し寄せる。ラーマは妻と弟を洞窟へ逃がし、ただ一人で立ち向かう。



















最後まで読んでくれてありがとう!
美しすぎる黄金の鹿。それは、10の頭を持つ魔王の罠だった。
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この話のもとになった神話
国を追われたコーサラの王子ラーマは、妻シーター、弟ラクシュマナとともに南のダンダカの森に入ります。森には修行を続ける聖仙(せいせん)たちの庵(いおり)があり、彼らは羅刹(らせつ。人を襲って食べる魔物)から守ってほしいとラーマに頼みました。
森の入口では、巨大な羅刹ヴィラーダがシーターをつかみ上げます。兄弟は腕を断ちますが、ヴィラーダは「武器では死なない」という恵みを受けていたため、穴に埋めて倒しました。じつは彼は呪いで羅刹にされた天の楽人で、元の姿に戻って天へ帰ります。その後、シャラバンガ仙は火に身を投じて天へ昇り、修行者たちは羅刹に殺された仲間の骨の山をラーマに見せました。ラーマは、羅刹を討って彼らを守ると誓います。
シーターは「敵意のない相手に武器を向けるのは悪いこと」と夫をいさめますが、ラーマは「聖仙との約束は命に代えても守る」と答えました。三人は十年ほど庵を巡り、大仙人アガスティヤから神々の弓や矢、剣を授かります。そしてゴーダーヴァリー川の近くのパンチャヴァティーに庵を建てて住みました。途中、父ダシャラタの友だと名乗る鷲の王ジャターユとも出会っています。
ある日、羅刹の王ラーヴァナの妹シュールパナカーが庵に現れ、ラーマに一目ぼれします。「シーターを捨てて私を妻にして。この女も弟も食べてしまおう」と迫る彼女に、ラーマは「私には妻がいる」と言い、からかうように弟を勧めました。ラクシュマナも「私は兄の従者だから、兄の二番目の妻になるといい」と冗談で返します。
本気にした彼女がシーターに飛びかかると、ラーマはそれを止め、弟に罰を与えるよう命じました。ラクシュマナは剣で彼女の耳と鼻を切り落とします。
彼女は兄カラのもとへ逃げました。カラはまず十四人の羅刹を送りますが、ラーマは十四本の矢で全員を倒します。妹にさらに責められたカラは、ドゥーシャナやトリシラスとともに一万四千の大軍で出陣しました。不吉な前兆を見たラーマは、シーターを連れて山の洞窟に隠れるよう弟に命じ、ただ一人で待ち構えます。矢の雨で大軍を打ち破り、ドゥーシャナと三つの頭を持つトリシラスを討ち、最後はアガスティヤから授かったインドラの矢でカラを倒しました。神々は花を降らせ、洞窟から出てきたシーターは夫を抱きしめます。この敗北はやがてラーヴァナに伝わり、物語はシーターがさらわれる事件へと動き出します。
『ラーマーヤナ』は、詩人ヴァールミーキの作と伝えられる古代インドの長い叙事詩です。いつ成立したかには諸説あり、長い年月をかけて今の形になったと考えられています。
森の巻の前半で大事なのは「約束」と「正しい行い(ダルマ)」です。ラーマは一度した誓いを、妻にいさめられても変えません。一方でシーターの言葉は、力を持つ者が暴力をどう使うべきかという問いかけでもあります。原典はラーマの決意とシーターの心配の両方を、きちんと書いているのです。
なお、「シュールパナカーが美女に化けて言い寄る」という筋は、後の時代の翻案や映像作品に多いもので、原典では本来の姿のまま現れます。兄弟のからかいや罰の重さは、現代の読者にとって考えさせられる場面でもあります。
誓い、求婚とからかい、シーターへの襲撃と処罰、十四人の羅刹、一万四千の軍との一人きりの戦い、カラの最期という話の骨組みは、原典のとおりです。
一方、次の部分は漫画としての創作や工夫です。三人の顔立ちや衣装、森や庵の姿。十年の旅を短くまとめ、ヴィラーダやシャラバンガの場面を数コマに縮めたこと。シュールパナカーが初めてラーマを見つける場面の状況。からかいの場面の表情や台詞の言い回し。負傷の場面を影と暗転で表したこと。洞窟の地形、羅刹たちの外見や武器、戦いの流れ。そして、原典ではほとんど語られない、洞窟の中で待つシーターの様子です。
文章で読むと長い戦いの場面も、漫画なら一万四千の軍勢に一人で向き合うラーマの緊張感や、洞窟で待つシーターの不安が一目で伝わります。「インド叙事詩 ラーマーヤナ ―追放の王子と風の子ハヌマーン―」は、Manga Portalで全話無料・会員登録なしで読めます。第5話を読んだら、ぜひ前後の話も続けて楽しんでみてください。
ラーマに求婚して断られ、兄弟にからかわれた彼女が、シーターに飛びかかって食べようとしたからです。ラーマが止めて弟に罰するよう命じ、ラクシュマナが剣で耳と鼻を切りました。
原典では、ラーマは弟とシーターを洞窟に避けさせ、ただ一人で戦います。矢の雨で軍を全滅させ、ドゥーシャナ、トリシラス、最後に総大将カラを討ち取りました。
原典では本来の姿のまま現れ、ラーマとは正反対の恐ろしい姿として描かれます。美女に化けて言い寄る筋は、後の時代の翻案や映像作品に多いものです。
この場面の原典では、そのことは説明されていません。ラクシュマナにはアヨーディヤーに残したウールミラーという妻がいて、あれは冗談だったという説明がされることもあります。
『ラーマーヤナ』全7巻のうちの第3巻で、ラーマたちの森での暮らしを描く巻です。前半ではカラとの戦いが、後半ではシーターがラーヴァナにさらわれる事件が語られます。