この話のもとになった神話
落語「犬の目」あらすじとオチの意味|藪医者が入れた犬の目
「犬の目」のあらすじ(原典の筋)
「犬の目」は、腕の悪い医者、いわゆる「藪医者(やぶいしゃ)」が出てくる古典落語の一席です。藪医者とは、診察も治療もあてにならない医者をからかっていう言葉です。ここでは、明治41年(1908年)に出た四代目橘家円蔵の口演の速記本『円蔵落語会』に載っている形をもとに、筋を紹介します。
目を患った男が、腕がいいと評判の眼医者を訪ねます。医者は目を診るなり「目玉をくり抜いて、薬で洗うのが一番」と言い、男の両目を抜き取って薬の液に浸けてしまいます。ところが浸けすぎて目玉がふやけ、元の穴に収まらなくなります。医者は「干せば縮むだろう」と、目玉を外に干しておきます。
ところが目を離したすきに、迷い込んできた犬が、干してあった目玉を食べてしまいます。困った医者が思いついたのは、「食べたのはこの犬なのだから、犬の目を代わりに入れればいい」という、とんでもない方法でした。犬の目を入れられた男は、見えるようになったと喜んで帰っていきます。
数日後、男がお礼にやってきます。医者が目の具合を尋ねると、男は「よく見えます。ただ、ひとつ困ったことが……」と打ち明けます。この最後の一言が、噺をしめくくるサゲ(オチ)です。中身は、記事の後半「オチ(サゲ)の解説」で紹介します。
落語とは? この漫画の語り手と台本について
落語は、一人の噺家(はなしか)が座布団に座ったまま、扇子と手ぬぐいだけを小道具にして、登場人物全員を声の調子や顔の向きで演じ分ける日本の話芸です。寄席(よせ)と呼ばれる演芸場で、数百年にわたって演じ続けられてきました。話の最後を、思わず笑ってしまう一言「サゲ」でしめくくるのが大きな特徴です。
漫画の冒頭と結びに出てくる噺家・笑門亭福来は、このシリーズのために作った架空の語り手で、実在の噺家とは関係ありません。話の筋は明治・大正の速記本(演者は1930年までに亡くなった人)で確かめ、漫画の台本はManga Portalが自分たちで書きました。
漫画版で変えたところ(原典との違い)
原典にある筋は、評判の眼医者が目玉を抜いて薬で洗う、ふやけた目玉を干す、犬が食べてしまう、犬の目を代わりに入れる、お礼の席でサゲ、という流れです。漫画もこの骨組みはそのまま守っています。
一方、漫画で足したり変えたりしたところもあります。福来が「医者にもいろいろございまして」と語り出すまくらと、最後の締めの仕草は漫画の創作です。目玉はビー玉のような丸い記号で描き、こわい場面にならないようにしました。犬はとぼけた顔の愛嬌ある犬にし、傷つけたように見えない形にしています。男が「前よりよく見える」と喜ぶ台詞や、少しずつ犬っぽい仕草がにじむ前ふりも、漫画の演出です。
いちばん大きな変更は、サゲに出てくる「電信柱」を「立ち木」にしたことです。電信柱が日本の町に立ち始めたのは明治に入ってからです。漫画の舞台は江戸時代の後期なので、その町並みに合う物に置き換えました。
オチ(サゲ)の解説
お礼に来た男の答えは、速記では「よく見えるのですが、電信柱を見ると、どうも片足を上げたくなります」というものです。
犬、とくにオスの犬は、電柱や木の根もとで片足を上げておしっこをかけ、自分のにおいを残す習性があります。男は犬の目と一緒に、その癖まで受け取ってしまった、という見立てです。「目さえ入れかえれば見える」という医者のでたらめな理屈が、最後の最後で思わぬところに出てくるおかしさが笑いのポイントです。
明治の東京では、電信柱は新しい町の景色でした。演じ手や時代によっては、灯籠など別の物に置き換えて語る形もあるといわれます。漫画では江戸の町に合わせて「立ち木」にしています。
漫画で読むには
文章で読むと少しこわく聞こえる場面も、漫画ではビー玉のような目玉と、とぼけた犬のおかげで、気軽に笑える一席になっています。男の仕草に少しずつ表れる「犬っぽさ」の前ふりは、絵で見るとよりよくわかります。Manga Portalの『落語傑作集 ―笑いの十二席―』は全話無料、会員登録なしで読めます。サゲを知ったうえで、もう一度読み返してみるのもおすすめです。
この話の登場人物
- 目を患った男(めをわずらったおとこ)
- 目の病を治しに眼医者を訪ね、犬の目を入れられても疑わずに喜ぶ、のんきで素直な町人。
- 眼医者(めいしゃ)
- 評判とは裏腹のでたらめな藪医者で、失敗してもその場しのぎの思いつきで切り抜ける。
- 犬(いぬ)
- 迷い込んで干してあった目玉を食べてしまい、その目が男に移される。
- 笑門亭福来(しょうもんてい ふくらい)
- 漫画の冒頭と結びで噺を語る、このシリーズの架空の噺家(原典には出てこない)。
よくある質問
落語「犬の目」のオチはどういう意味?
犬の目を入れられた男が「電信柱を見ると片足を上げたくなる」と言うのがオチです。犬が電柱におしっこをかける習性まで、目と一緒にもらってしまったという見立てで笑わせます。
「犬の目」のあらすじを簡単に教えて
藪医者が患者の目玉を抜いて薬で洗い、ふやけたので外に干したところ、迷い込んだ犬に食べられてしまいます。困った医者は代わりに犬の目を男に入れ、男は見えるようになって喜びますが、後日おかしな癖が出たと打ち明けます。
藪医者とはどういう意味?
腕が悪く、診察や治療があてにならない医者をからかっていう言葉です。「犬の目」の医者は、評判とは裏腹のでたらめな治療をする藪医者として描かれています。
「犬の目」はいつごろの落語?
明治41年(1908年)に出た四代目橘家円蔵の口演速記『円蔵落語会』に載っており、明治のころには高座で演じられていたことがわかります。サゲに電信柱が出てくるのも、明治の町の様子を映しています。
漫画版は原作の落語と同じ話?
話の筋は速記本で確かめた原典どおりです。噺家・笑門亭福来の語りの枠や、目玉と犬の描き方、サゲの「電信柱」を江戸の町に合わせて「立ち木」にした点などは漫画の創作です。
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