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第9話誰も「まずい」と言えない茶会茶の湯

落語傑作集の第9話。退屈しのぎに茶の湯を始めたご隠居は、作法を何も知らないのに「分かっておる」と言い張り、緑の泡があふれる謎の『お茶』と手作りまんじゅうで長屋の人たちをもてなし続ける。やがて垣根の向こうの畑では――。

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次回予告第10話 粗忽の使者

大事な伝言を忘れた侍。思い出す方法は『お尻をつねること』。思い出した内容は……。

この作品はここまで。次はこちらもどうぞ

この話のあらすじ

大きな店の主人が商売を息子に譲って隠居し、小僧の定吉を連れて、江戸のはずれの静かな土地・根岸の家へ移ります。することがなくて退屈していたご隠居は、家に茶室と茶道具があるのを見て、茶の湯を始めようと思い立ちます。ところが、作法もお茶の点て方もまったく知りません。それでも定吉の前で「知らない」とは言えず、分かっているふりをします。 お茶の粉の名前が思い出せないご隠居は、「青い粉」だろうと考えて青黄粉(あおきなこ)を買わせ、お湯に溶かします。泡が立たないので、洗濯に使う椋(むく)の皮を入れてかき回すと、ぶくぶく泡が立ちました。

原典落語傑作集 — 日本 · 噺は江戸時代〜明治の伝承。筋の根拠にする速記本は1890〜1925年の刊行

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この話のもとになった神話

落語「茶の湯」のあらすじとオチ解説|知ったかぶりのご隠居

落語「茶の湯」のあらすじ(原典)

大きな店の主人が商売を息子に譲って隠居し、小僧の定吉を連れて、江戸のはずれの静かな土地・根岸の家へ移ります。することがなくて退屈していたご隠居は、家に茶室と茶道具があるのを見て、茶の湯を始めようと思い立ちます。ところが、作法もお茶の点て方もまったく知りません。それでも定吉の前で「知らない」とは言えず、分かっているふりをします。

お茶の粉の名前が思い出せないご隠居は、「青い粉」だろうと考えて青黄粉(あおきなこ)を買わせ、お湯に溶かします。泡が立たないので、洗濯に使う椋(むく)の皮を入れてかき回すと、ぶくぶく泡が立ちました。二人は顔をしかめながら「結構なお点前」と飲み続け、とうとうお腹をこわしてしまいます。

二人だけではつまらないと、ご隠居は自分の長屋に住む店子(たなこ。借家の住人)たちを茶会に招きます。大家の誘いを断れば追い出されるかもしれないと心配した店子たちは、作法も知らないまま出かけ、ひどいお茶に苦しみます。そのうえ、菓子代を惜しんだご隠居が芋などで手作りした菓子もまずく、やがて誰も寄りつかなくなります。最後に来た客は、菓子をこっそり袂(たもと)に隠し、垣根の向こうの畑へ放り投げました。すると……。

落語とは?

落語は、一人の噺家(はなしか)が座布団に座ったまま、扇子と手ぬぐいだけを道具に、登場人物全員を声と顔の向きで演じ分ける日本の話芸です。扇子は箸にも筆にも、この話なら茶筅(ちゃせん)にもなります。寄席(よせ)と呼ばれる演芸場で、数百年にわたって受け継がれてきました。話の最後をしめくくるひと言を「オチ」または「サゲ」と呼びます。

本物の茶の湯と、ご隠居のまちがい

茶の湯(茶道)は、決まった作法でお茶を点て、客をもてなす日本の伝統文化です。本当に使うのは、お茶の葉を臼でひいた細かい粉「抹茶」で、竹で作った茶筅でお湯とよくかき混ぜて点てます。客はあいさつをして茶碗を受け取り、亭主(もてなす人)への感謝を表しながらいただきます。お菓子は、お茶の前にいただいて口の中を甘くしておくのが一般的です。

ご隠居のお茶は、そのどれとも違います。青黄粉は大豆からできた、きな粉の仲間で、お茶ではありません。椋の皮は、水に入れると泡が立つため、昔は石けんの代わりに使われた木の実の皮です。つまり、ご隠居は「石けん水入りのきな粉湯」を出していたことになります。

漫画版で変えたところ

原典は、明治時代の速記本(噺家の語りをそのまま文字にした本。1907年刊のものなど)で筋を確かめ、台本は私たちが自分たちで書きました。ご隠居が根岸に隠居する、青黄粉と椋の皮でお茶を作る、店子を招いて苦しめる、手製の菓子が畑へ投げられる、という流れは原典どおりです。

一方、冒頭と結びに登場する噺家・笑門亭福来(しょうもんてい ふくらい)は、このシリーズの架空の語り手です。冒頭のまくら(本題に入る前の前置き)や、結びで扇子を茶筅に見立てるしぐさは漫画の創作です。ご隠居と定吉の掛け合いの細かい台詞、店子たちの顔芸、茶会が何度も開かれて評判が広まる場面の見せ方も、漫画で膨らませた部分です。店子たちの職業や人数、最後の客の素性などは、演じる人によって違いがあるとされています。

オチ(サゲ)の解説

垣根の外へ投げられた菓子は、畑で働いていたお百姓さんの顔にべちゃっと当たります。ところがお百姓さんは驚きもせず、顔をぬぐって「ああ、また茶の湯か」とつぶやきます。

おかしいのは「また」のひと言です。顔に菓子が飛んできても驚かないということは、これまでにも何度も同じことがあったという意味です。客たちはみんな、まずい菓子をこっそり垣根の外へ捨てていたのです。ご隠居本人だけが気づかず、近所じゅうに迷惑が知れ渡っている――それをたった一言で分からせるのが、このオチの仕掛けです。

海外の読者向けに一つだけ補うと、江戸の長屋では大家(家主)の力が強く、店子は逆らうと「店立て(たなだて)」、つまり立ち退きを言いわたされる心配がありました。だから客たちは、面と向かって「まずい」と言えず、こっそり捨てるしかなかったのです。

漫画で読むには

「茶の湯」は、知らないことを知らないと言えない人のおかしさと、それに付き合わされる周りの人のつらさが、今でもよく分かる一席です。緑の泡があふれるお茶や、店子たちの必死の表情は、絵で見るといっそう笑えます。

Manga Portal の『落語傑作集 ―笑いの十二席―』第9話「誰も「まずい」と言えない茶会 ―茶の湯―」は、全話無料・会員登録なしで読めます。ほかの十一席もあわせて、落語の世界をのぞいてみてください。

この話の登場人物

ご隠居(ごいんきょ)
大店の商売を息子に譲って根岸に移った元主人で、作法を知らないのに知ったかぶりで茶の湯を始め、周りを巻き込む主人公。
定吉(さだきち)
ご隠居の世話をする小僧で、青黄粉を買いに行ったり椋の皮で泡立てたりと付き合わされ、一緒にお腹をこわす。
長屋の店子たち(たなこたち)
ご隠居の長屋に住む人々で、大家の誘いを断れず茶会に出かけ、ひどいお茶と菓子に苦しめられる。
最後の客(さいごのきゃく)
まずい菓子を食べきれず、袂に隠して垣根の外の畑へ放り投げる人物。
畑のお百姓(はたけのおひゃくしょう)
垣根の外で働いていて、顔に菓子が当たっても驚かず「また茶の湯か」とつぶやき、オチを決める。

よくある質問

落語「茶の湯」はどんな話?

作法を知らないご隠居が、青黄粉と椋の皮でお茶らしきものを作り、長屋の店子たちを茶会に招いて苦しめる古典落語です。知ったかぶりの困ったおかしさを描いています。

「茶の湯」のオチ「また茶の湯か」はどういう意味?

畑のお百姓が顔に菓子をぶつけられても驚かないのは、客たちがまずい菓子を何度も垣根の外へ捨てていたからです。ご隠居の茶会の迷惑が近所じゅうに知れ渡っていることを、「また」の一言で表しています。

青黄粉や椋の皮とは何?

青黄粉は大豆から作る緑がかったきな粉で、お茶ではありません。椋の皮は水に入れると泡が立ち、昔は石けんの代わりに使われました。

なぜ店子たちは茶会を断れなかったの?

ご隠居は店子たちが住む長屋の大家だったからです。江戸の長屋では、大家の機嫌をそこねると立ち退き(店立て)を言いわたされる心配がありました。

漫画の噺家・笑門亭福来は実在する?

実在しません。このシリーズのために作った架空の語り手で、冒頭のまくらや結びのしぐさも漫画の創作です。

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