第1話太陽がまぶしくて、負けた神武東征
国を治める地を求めて東へ旅立ったイワレビコと兄イツセは、長い旅の末に最初の大きな戦いで敗れ、兄は手に矢傷を負う。「日を背に負って戦え」という兄の最後の策を、弟が受け継ぐまでの物語。
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サッカー日本代表のエンブレムの烏、元ネタはこれ。迷った王を導いた「神のナビゲーター」
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この話のもとになった神話
『古事記』は、712年(和銅5年)に太安万侶がまとめた日本でいちばん古い歴史書です。その中巻のはじめに書かれているのが、のちに神武天皇となるカムヤマトイワレビコの東への旅、いわゆる「神武東征」です。第1話は、その前半を描いています。
九州・日向の高千穂宮で、イワレビコと、同じ母から生まれた兄のイツセは「どこにいれば天下をおだやかに治められるだろうか。やはり東へ行こう」と話し合い、旅立ちます。豊国の宇沙では、土地の人である宇沙都比古と宇沙都比売が足一騰宮という宮を建て、ごちそうでもてなしました。そのあと一行は、筑紫の岡田宮に1年、阿岐国の多祁理宮に7年、吉備の高島宮に8年とどまり、長い年月をかけて少しずつ東へ進みます。
吉備からさらに進む途中、速吸門という海の難所で、亀の甲羅に乗って釣りをしながら、袖を鳥の羽のように振って近づいてくる者に出会います。何者かと問うと「国つ神(その土地の神)です」と答え、海の道をよく知っていて、仕えることも引き受けました。そこで竿を差しのべて船に引き上げ、槁根津日子という名を与えます。
浪速の渡りを過ぎて白肩津に船を着けると、登美毘古(登美能那賀須泥毘古)が軍をそろえて待ちかまえていました。船の楯を持って上陸したので、この場所は楯津と呼ばれるようになったといいます。戦いの中でイツセは手に矢を受けてしまいます。イツセは「太陽の神の子孫なのに、太陽に向かって戦ったのがいけなかった。これからは回り込んで、太陽を背にして戦おう」と考えを改めました。一行は南へ回り、血沼海で手の血を洗います。けれども紀国の男之水門まで来たところで、イツセは「身分の低い者に負わされた傷で死ぬのか」と雄叫びをあげ、亡くなりました。墓は紀国の竈山にあると書かれています。
主人公はイワレビコですが、この場面で強い印象を残すのは兄のイツセです。負けた理由を自分で見抜き、次の戦い方を言葉にし、最期には悔しさを大声で表します。一方、イワレビコについては、国つ神に問いかける場面のほかは、気持ちや姿がほとんど書かれていません。敵の登美毘古も、軍を起こして待ちかまえていたこと以外、見た目や戦う理由は記されていません。
イワレビコたちは、太陽の神である天照大御神の子孫とされています。だからこそイツセは「太陽に向かって戦った」ことを負けの原因だと考えました。太陽を背にすれば相手はまぶしく、自分たちは太陽の神の力を後ろに受けて戦える、という発想です。この一言が、のちの戦い方を決める大事な手がかりになります。
また、楯津・血沼海・男水門のように「この出来事があったから、この地名がついた」という説明がいくつも入っているのも、この話の特徴です。地名と物語を結びつけて、土地の記憶として語り伝えようとしたことがうかがえます。
なお、速吸門を豊予海峡とする説や明石海峡とする説、白肩津を今の東大阪市日下のあたりとする説などがありますが、原典がはっきり場所を示しているわけではありません。竈山を和歌山市の竈山神社にあてる考えも、後の時代のものです。『日本書紀』にも東征の話はありますが、戦いの場所や年数などが『古事記』とは違うので、この記事では『古事記』の内容だけを紹介しています。
原典が書いているのは、相談の言葉、立ち寄った場所と年数、出会いの問答、イツセの二つの言葉など、物語の骨組みです。漫画ではそれを守ったうえで、人物の顔や服装、武具、船の形をすべて新しく描いています。
高千穂での兄弟の思い出の場面、岡田宮・多祁理宮・高島宮で過ごした年月の様子、宇沙での宴、槁根津日子の人柄や口調も漫画の創作です。白肩津の戦いの流れや兵の数、誰が矢を放ったか、傷を負ってから男之水門までの兄弟の会話、そして兄を失ったイワレビコの気持ちも、原典には書かれていないため、漫画で描き足しています。
「日を背に負って戦え」という兄の言葉を、弟がどう受け止めたのか。原典には書かれていないその心の動きを、第1話では絵と台詞でじっくり描いています。Manga Portal の『古事記 中巻 ―英雄たちの時代―』は全話無料で、会員登録なしで読めます。あらすじを知ったうえで読むと、兄弟の旅がより身近に感じられるはずです。
のちの神武天皇となるイワレビコが、天下を治める場所を求めて九州の日向から東へ向かった旅のことです。『古事記』では中巻のはじめに書かれています。
白肩津で登美毘古の軍と戦ったとき、手に矢を受けたためです。そのあと南へ回る途中、紀国の男之水門で、悔しさを叫びながら亡くなりました。
太陽の神の子孫である自分たちが、太陽に向かって戦ったから負けた、とイツセは考えました。そこで回り込み、太陽を背中側にして戦おうとしたのです。
速吸門で亀の甲羅に乗って釣りをしていた国つ神です。海の道にくわしく、イワレビコに仕えることを約束し、竿で船に引き上げられて名を与えられました。
大きな流れは似ていますが、戦いの場所や滞在した年数などに違いがあります。この記事と漫画は『古事記』の内容をもとにしています。