この話のもとになった神話
落語「動物園」あらすじとオチ解説|虎の皮をかぶる男とライオン
落語『動物園』のあらすじ
『動物園』は、どの仕事も長続きしない男が主人公の落語です。大正4年(1915年)に出た速記本『文の助の落語』には、大阪の噺家・二代目桂文之助が演じた形が文字で残っています。この漫画も、その速記で話の筋を確かめてから作りました。
男は「楽で日当のいい仕事がある」と紹介されて、動物を見せる見世物へ向かいます。そこの主人の頼みは思いもよらないものでした。目玉の虎が死んでしまったので、虎の皮をかぶって檻に入り、虎のふりをしてほしいというのです。男は虎らしい歩き方や吠え方を教わって檻に入ると、客の前で案外うまく虎になりきります。
ところがそこへ「これから虎とライオンの大格闘」という口上が聞こえ、本当にライオンが同じ檻に入れられてしまいます。食い殺されると思って震え上がる男。ライオンはのそりと近づいてきて、男の耳元で小さくささやきます。その一言がこの噺のオチです(くわしくは後半の「オチ(サゲ)の解説」で)。
落語とは? 扇子と手ぬぐいだけで演じる話芸
落語は、一人の噺家が座布団に座ったまま、扇子と手ぬぐいだけを使って登場人物を全員演じ分ける日本の話芸です。扇子を箸や筆に、手ぬぐいを財布や手紙に見立て、顔の向きと声の調子だけで人物を切り替えます。話の最後は「オチ(サゲ)」と呼ばれる一言で締めくくります。寄席という演芸場で、数百年にわたって受け継がれてきました。漫画の最初と最後に出てくる噺家・笑門亭福来は、このシリーズのために作った架空の語り手で、実在の噺家とは関係ありません。
時代の背景:明治の見世物小屋と動物
シリーズ「笑いの十二席」の中で、明治時代が舞台なのはこの話だけです。明治時代には、珍しい動物を連れて各地をまわる見世物小屋の移動動物園がありました。虎やライオンは、多くの人にとって一生に一度見られるかどうかの生き物です。だからこそ「目玉の虎が死んだ」は主人にとって大問題で、人に皮をかぶせてでも見世物を続けたかったのです。
楽をしてお金をもらいたいという男の気持ちは、今の私たちにもよく分かるものです。落語はそういう人を責めずに、少しまぬけで憎めない姿として笑いに変えます。そこが、長く愛されてきた理由の一つです。
漫画版で変えたところ・足したところ
「虎が死んで男が代わりになる」「ライオンが檻に入れられる」「ライオンの中身も雇われた人間」という話の骨組みは、原典のまま残しています。台本は、速記で筋を確かめたうえで、私たちが自分たちで書きました。
速記にくわしく書かれていない場面は、漫画で足しています。朝が弱くて奉公先をしくじる場面や、仕事を世話する口入れ屋の人柄、虎の歩き方の稽古でのドタバタ、子どもたちに大受けして男が調子に乗っていく流れなどです。ガス灯や絵看板、散切り頭や山高帽の客が行き交う明治の町並みも絵として描き足しました。看板の見世物の名前、決闘の呼び込みの文句、オチのせりふの言い回しは、意味を守ったまま一から書いています。福来のまくらと、結びで手ぬぐいをかぶって「がおう」と吠える身ぶりも漫画だけのものです。
オチ(サゲ)の解説
漫画のオチは、ライオンが男にささやく「心配するな、俺も日当で雇われてる」という一言です。決闘の相手のライオンも、中に人が入った着ぐるみだったという種明かしになっています。「日当」とは、一日働くごとにもらえるお給料のことです。
おかしさのもとは二つあります。一つは、楽をして稼ごうとした男が、結局いちばん怖い目にあうこと。もう一つは、命がけで怖がっていた相手が、実は自分と同じ立場の雇われ人だったことです。客から見れば猛獣どうしの大決闘なのに、檻の中では日当で働く二人がこっそり声をかけ合っている。この表と裏の食い違いが、最後の一言で一気に見えるのです。
漫画で読むには
『落語傑作集 ―笑いの十二席―』第7話「ニセモノの虎、ライオンと決闘へ ―動物園―」は、Manga Portal で読めます。全話無料で、会員登録もいりません。虎になりきる男の得意顔と、ライオンが出てきたときの青ざめた顔の差は、ぜひ絵で見てください。ほかの十一席も、一話ずつ気軽に楽しめます。
この話の登場人物
- 男(おとこ)
- 仕事が長続きしない主人公で、楽で日当のいい仕事に飛びつき、虎の皮をかぶって檻に入る。
- 見世物の主人(みせもののしゅじん)
- 目玉の虎が死んでしまい、人に虎の皮をかぶせて見世物を続けようとする。
- 口入れ屋(くちいれや)
- 男に働き口を世話する人物で、口入れ屋という人物像は漫画版で作ったもの。
- ライオン(らいおん)
- 虎の檻に入れられる決闘の相手で、最後の一言で正体が分かるオチの役。
- 笑門亭福来(しょうもんてい ふくらい)
- このシリーズの架空の語り手で、最初にまくらを語り、最後に「がおう」と吠えて頭を下げる。
よくある質問
落語『動物園』はどんな話?
仕事が続かない男が、死んだ虎の代わりに虎の皮をかぶって見世物に出る話です。ところが虎とライオンの決闘が始まることになり、男は震え上がります。最後に、ライオンの正体が分かるのがオチです。
『動物園』のオチの意味は?
決闘の相手のライオンも、男と同じように皮をかぶった雇われ人だったという種明かしです。楽をしようとした男がいちばん怖い目にあい、しかも相手も同じ立場だったと分かるところが笑いどころです。
落語『動物園』は誰が演じた記録が残っている?
大正4年(1915年)に出た速記本『文の助の落語』に、二代目桂文之助が演じた『動物園』が収められています。この噺は文之助が作ったという説もあります。
明治時代にも動物園はあったの?
明治時代には、珍しい動物を連れて各地をまわる見世物小屋の移動動物園がありました。虎やライオンは、当時の人にとって大変珍しい見ものでした。
漫画に出てくる笑門亭福来は実在の噺家?
いいえ、このシリーズのために作った架空の語り手です。実在の噺家や亭号とは関係ありません。
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