第10話頼った恋人に、居場所を売られた佐藤忠信(六条堀川の籠城)
吉野で主君の身代わりとなって生きのびた忠信は、都でかつての恋人を頼るが、密告されて大軍に囲まれる。主君の旧館に立てこもった忠信は、屋島で散った兄・継信と同じ生き方を選ぶ。



















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吉野で主君の身代わりとなって生きのびた忠信は、都でかつての恋人を頼るが、密告されて大軍に囲まれる。主君の旧館に立てこもった忠信は、屋島で散った兄・継信と同じ生き方を選ぶ。



















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この話のもとになった神話
『義経記』は、源義経の一生を語る室町時代の軍記物語です。作者はわかっていません。第10話の元になったのは、巻六の「忠信都へ忍び上る事」と「忠信最期の事」です。
ひとつ前の巻五で、義経の家来・佐藤四郎兵衛忠信は、吉野山で「我こそ義経」と名乗って追っ手を引き受けました。主君を逃がすための身代わりです。忠信は激しく戦ったあと、山を抜けて生きのびました。そして義経一行とは別に、ひそかに京の都へ戻ります。
都で忠信が頼ったのは、四条あたりに住む、以前に深い仲だった女の家でした。ところが女は、忠信がいないあいだに鎌倉方の侍と通じていました。女は忠信が来たことをその男に知らせ、話は鎌倉方に伝わって、討手の軍勢が送られます。酒に酔って眠っていた忠信は、武具を隠された不利な状態で目を覚まし、家が囲まれていることに気づきます。
忠信は残ったわずかな武具で大勢と戦い、囲みを破りました。向かった先は、主君義経がかつて住んでいた六条堀川の屋敷です。忠信はここを死に場所と決め、押し寄せる軍勢に名乗りを上げて戦い、鎌倉方の臆病ぶりをあざけります。最後は武士の作法にのっとって腹を切りました。原典ではその場面がとても激しく描かれ、忠信はすぐには息絶えません。首は鎌倉へ送られ、源頼朝も敵ながらその強さを惜しんだと語られます。
主人公は佐藤忠信です。奥州(今の東北地方)の信夫を治めた佐藤氏の子で、平泉の藤原秀衡が義経に付けた家来でした。弓も太刀も強く、気性が激しい人物として描かれます。
忠信の居場所を知らせた女について、原典は気持ちをほとんど語りません。裏切った理由は書かれていないのです。そのほか、女と通じていた鎌倉方の侍、首を受け取る頼朝、そして屋敷の元の主である義経が物語に関わります。ただし義経本人は、この場面には登場しません。
平家が滅んだあと、義経は兄・頼朝と対立し、追われる身になりました。都にも鎌倉方の目が光り、義経の家来をかくまうのは命がけの時代です。忠信の悲劇は、そうした追及の厳しさから生まれました。
『義経記』が描く忠信は、生き方よりも「どう死ぬか」にこだわる武士です。主君の屋敷を最期の場所に選ぶことは、義経への忠義を最後まで示すことでもありました。敵である頼朝まで忠信を惜しんだという結末から、強さと忠義をたたえる気持ちが読み取れます。
なお、これは物語としての『義経記』の描き方です。鎌倉幕府の記録『吾妻鏡』では、忠信の最期の場所や様子が異なって伝えられています。史実と物語は分けて考えるとよいでしょう。
忠信の兄・継信が屋島の戦いで義経の身代わりとなり、矢を受けて死んだ話は、『義経記』のこの巻には出てきません。くわしく描いているのは『平家物語』の「嗣信最期」です。漫画ではこの話を回想として加え、兄弟が同じ生き方を選ぶ物語にしました。
女の名前や外見、裏切った理由やためらいも漫画の創作です。都にひそむ日々の様子、戦いの細かな動き、死の直前に義経・兄・奥州の母を思うモノローグ、首を見た頼朝の表情や台詞も、原典にはない脚色です。
切腹の場面は、原典ではとても生々しく描かれています。漫画では、刀を構える姿や暗転、屋敷を外から見たカットなどを使い、表現をおさえています。
裏切りに気づいた瞬間の忠信の表情や、六条堀川で軍勢を迎え撃つ姿は、絵で見ると迫力がちがいます。『義経伝説 ―牛若丸と弁慶―』は全話無料、会員登録なしで読めます。吉野での身代わりを描いた前の話から続けて読むと、忠信の決意がより深く伝わるはずです。
源義経に仕えた奥州出身の武士で、兄の継信とともに藤原秀衡から義経に付けられました。『義経記』では、吉野山で義経の名を名乗って身代わりとなった、強く忠義にあつい武士として描かれます。
『義経記』によると、都で頼った元恋人に居場所を知らされ、鎌倉方の軍勢に囲まれました。囲みを破って義経の旧邸・六条堀川に立てこもり、戦ったあとに自ら腹を切って果てます。
四条あたりに住む忠信の元恋人で、忠信がいないあいだに鎌倉方の侍と通じていました。原典は女の気持ちをほとんど語っておらず、裏切った理由ははっきり書かれていません。
京都にあった源義経の屋敷があった場所です。忠信は主君ゆかりのこの地を、最期の場所に選びました。
継信が屋島で義経の身代わりとなって矢を受けた場面を詳しく描くのは『平家物語』の「嗣信最期」です。『義経記』は平家との合戦をほとんど省いているため、漫画の回想場面は脚色です。