第4話生まれた日から、歯が生えそろっていた弁慶の誕生と書写山
シリーズ第4話(全19ページ)。歯が生えそろった姿で生まれ「鬼の子」と恐れられた少年は、比叡山を追われ、自分で「武蔵坊弁慶」と名乗る。書写山で笑いものにされた怒りが大火を招き、居場所を失った彼は、都を通る武者から太刀を千本奪うと誓う。
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最後まで読んでくれてありがとう!
「999本の刀を奪った怪物が、笛吹きの少年に負けた夜」――日本人なら誰もが知る伝説の出会い。
シリーズ第4話(全19ページ)。歯が生えそろった姿で生まれ「鬼の子」と恐れられた少年は、比叡山を追われ、自分で「武蔵坊弁慶」と名乗る。書写山で笑いものにされた怒りが大火を招き、居場所を失った彼は、都を通る武者から太刀を千本奪うと誓う。
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この話のもとになった神話
『義経記』は、源義経の一生を語る軍記物語です。作者はわかっておらず、室町時代の前期ごろにまとまったと考えられています。巻三では、のちに義経の家来になる武蔵坊弁慶の生い立ちが語られます。弁慶の父は、熊野三山をまとめる高い位の僧「熊野の別当」でした。別当は、熊野詣でに来た二位大納言の姫君に心をうばわれ、力ずくで熊野へ連れて行って妻にしてしまいます。
やがて姫君は身ごもります。ところが、ふつうなら九か月ほどで生まれる子が、十八か月もお腹にとどまりました。生まれた赤ん坊は、髪が肩にかかるほど伸びていて、奥歯も前歯も大きく生えそろっていたといいます。別当は「これは鬼神だ。仏の教えの敵になる」と恐れ、水に沈めるか山奥で命をうばうよう命じました。
この子を救ったのが、別当の妹、つまり赤ん坊の叔母です。京の公家の妻だった叔母は、子をもらい受けて都で育て、「鬼若」と名付けました。
鬼若は年のわりに体が大きく育ち、比叡山の西塔に預けられます。学問はよくできましたが、力が強くて乱暴なため、ほかの僧や稚児ともめごとが絶えず、とうとう山にいられなくなりました。山を出た鬼若は自分で髪を剃り、「西塔の武蔵坊弁慶」と名乗って、諸国をめぐる修行の旅に出ます。
旅の末に、弁慶は播磨国(今の兵庫県)の書写山に身を寄せます。ところが居眠りをしているあいだに、信濃坊戒円という僧に顔へ墨でいたずら書きをされ、それと知らずに人前に出て大勢に笑われてしまいます。わけを知った弁慶は激しく怒って戒円と乱闘になり、そのさなかに火のついた薪が建物に燃え移って、書写山のお堂は焼けてしまいました。
書写山を去って京に上った弁慶は、「人の宝は千そろえて持つものだ」と考え、太刀を千本集めようと思い立ちます。この誓いが、次の章で語られる牛若丸(義経)との出会いにつながっていきます。
熊野三山は、都の貴族たちがはるばるお参りに出かけた大切な聖地で、そこをまとめる別当は大きな力を持っていました。比叡山(延暦寺)と書写山(円教寺)も、どちらも名高い寺です。弁慶の若いころの話は、こうした実在の寺や聖地を舞台に語られています。
昔の物語では、ふつうとはちがう生まれ方をした人物が、のちに並外れた力を見せることがよくあります。十八か月の身ごもりや生えそろった歯は、弁慶がただ者ではないことを生まれた時から示す仕掛けだ、と読むこともできます。
弁慶という人物は、鎌倉時代の歴史書『吾妻鏡』にも名前が出てきますが、どんな人だったのかはほとんどわかっていません。義経記に書かれた生い立ちは、歴史の記録ではなく伝説として楽しむものです。
「五条大橋で弁慶が牛若丸と出会う」という場面は有名ですが、これは唱歌や御伽草子など、のちの時代に広まった形です。義経記では、二人が出会う場所は五条天神や清水寺になっています。
また、和歌山県田辺市には、弁慶が生まれた土地だとする言い伝えがあり、ゆかりの井戸なども伝わっています。ただし、これは地元の伝承で、義経記の本文に書かれていることとは分けて考える必要があります。
原典の義経記は出来事を中心に語り、弁慶の気持ちはほとんど書いていません。そこで漫画では、叔母の家で過ごした幼いころの暮らしや叔母とのやりとり、比叡山でのもめごとの中身と、その裏にある孤独な気持ちを描き足しています。自分で髪を剃って名前を決める場面の独白や、修行の旅の小さな出来事も漫画オリジナルです。
書写山のいたずら書きの場面は、気づかずに歩き回る弁慶や笑いをこらえる僧たちなど、コミカルに見せています。ただし「居眠り中に墨でいたずら書きされる→笑われる→乱闘→火が燃え移る」という流れは原典どおりです。火事のあとの後悔や戸惑い、千本の太刀を思い立つまでの心の動き、母である姫君の表情は、漫画で加えた脚色です。
第4話「生まれた日から、歯が生えそろっていた ―弁慶の誕生と書写山―」(全19ページ)は、「鬼の子」と呼ばれた少年が、居場所をなくしながら自分の名前を選び、千本の太刀の誓いにたどり着くまでを描いています。シリーズ「義経伝説 ―牛若丸と弁慶―」は全話無料、会員登録なしで読めます。あらすじで流れをつかんだら、ぜひ漫画で若き弁慶の姿を確かめてみてください。
義経記では、母のお腹に十八か月もいて、生まれたときには髪が肩にかかるほど伸び、歯も生えそろっていたとされます。父の熊野の別当はその姿を見て鬼神の子だと恐れました。
弁慶の子どものころの名前です。殺されかけた赤ん坊をもらい受けた叔母が、京で育てるときに名付けました。
居眠り中に僧の戒円に顔へ墨でいたずら書きをされ、大勢に笑われたことに怒って乱闘になったためです。その最中に火のついた薪が建物に燃え移り、お堂が焼けたと義経記は語っています。
五条大橋で出会う話は、唱歌や御伽草子など後の時代に広まった形です。義経記では、五条天神や清水寺が出会いの場所になっています。
鎌倉時代の歴史書『吾妻鏡』に名前が見えるため、義経に従った僧がいたと考えられています。ただし詳しいことはほとんどわからず、義経記の生い立ちは伝説として伝わる話です。