第3話彼の目当ては、私ではなく本だった鬼一法眼と虎の巻
シリーズ第3話。戦で父を失った若者は海の向こうから渡った戦の秘伝書を読むため陰陽師ホウゲンの屋敷に居座り、彼に恋した娘は自分の意思で禁じられた書を持ち出す。書の知恵と娘のお守りで待ち伏せを返り討ちにした若者は、別れぎわに初めて「ヨシツネ」と名乗り、娘はその名を胸に屋敷に残る。
ほかの言語で読む:English



















最後まで読んでくれてありがとう!
「生まれた時から歯が生えていた赤ん坊は、やがて日本一の怪僧になった」
シリーズ第3話。戦で父を失った若者は海の向こうから渡った戦の秘伝書を読むため陰陽師ホウゲンの屋敷に居座り、彼に恋した娘は自分の意思で禁じられた書を持ち出す。書の知恵と娘のお守りで待ち伏せを返り討ちにした若者は、別れぎわに初めて「ヨシツネ」と名乗り、娘はその名を胸に屋敷に残る。
ほかの言語で読む:English



















最後まで読んでくれてありがとう!
「生まれた時から歯が生えていた赤ん坊は、やがて日本一の怪僧になった」
この話のもとになった神話
この話は、室町時代に成立した軍記物語『義経記(ぎけいき)』の巻二に出てきます。作者はわかっていません。章の名前や区切り方は、残っている本(伝本)によって少しずつ違います。
若いころの源義経は、奥州平泉の藤原秀衡のもとに身を寄せていました。そこで、京の一条堀川に住む陰陽師の法師・鬼一法眼(きいちほうげん)が、唐から伝わった兵法書『六韜(りくとう)』を大切にしまいこんでいると聞きます。どうしても読みたいと思った義経は京へ上り、法眼の屋敷を訪ねて「書を見せてほしい」と頼みます。しかし法眼は、若い義経を見下して相手にしませんでした。
それでも義経は屋敷を去らず、そのまま居座ります。法眼は気味悪く思い、疎ましく感じるようになります。義経は、法眼の娘に仕える女房の幸寿(こうじゅ)に頼んで娘とのあいだを取り持ってもらい、二人は深い仲になります。娘はひそかに父の秘蔵する『六韜』を持ち出し、義経はそれを読んで兵法を身につけました。
二人の仲を知った法眼は怒りますが、義経を恐れて自分では手を出せません。そこで湛海(たんかい)という法師に義経を討たせようと考え、口実をつくって義経を五条の天神へ行かせます。娘がこの企みを義経に知らせ、義経は待ち伏せていた湛海とその手下を逆に討ち取りました。法眼はこれを知って恐れます。やがて義経は屋敷を去り、残された娘は義経を想いながら亡くなったと語られます。
源義経は、源義朝の子で、幼いころは牛若・遮那王と呼ばれました。断られてもあきらめない粘り強さと、待ち伏せを返り討ちにする腕前が、この話でもはっきり描かれています。
鬼一法眼は、陰陽師であり法師でもある人物です。「法眼」は僧の位を表す呼び名です。原典では、義経を見下し、のちには恐れる人物として描かれています。法眼の娘には、原典では名前がありません。父に背いて書を持ち出し、義経の命を救う大切な役目を果たします。湛海は法眼に頼まれて義経を討とうとする法師ですが、法眼とどんな関係だったかは伝本によって書き方に違いがあるため、ここでは断定しません。
『六韜』は中国の古い兵法書です。その中の「虎韜(ことう)」という巻から、大事な秘けつをまとめたものを「虎の巻」と呼ぶようになった、といわれています。この漫画の副題にある「虎の巻」も、ここから来ています。
『義経記』は、平家を倒した戦いそのものよりも、義経の少年時代や、兄の頼朝に追われてからの日々を多く語る物語です。のちに天才的な戦いぶりを見せる義経が、若いころにどうやって力をつけたのかを語る話として、この章は読まれてきました。ただし、『六韜』を学んだことが一の谷や屋島の戦い方につながった、というのは後の人の見方で、原典がそう書いているわけではありません。
また、後の浄瑠璃や歌舞伎では、娘に「皆鶴姫(みなづるひめ)」という名前がつけられたり、鬼一法眼が実は源氏の味方で、わざと義経に兵法を授けたという筋になったりしました。後世には、鬼一法眼を剣術の祖とする言い伝えもあります。これらは『義経記』にはない、あとから生まれた話です。
漫画では、娘を原典どおり名前のない人物として描いています。「皆鶴姫」という後世の名前は使っていません。娘と義経が出会う場面や二人の会話、父に背くときの娘の迷いや想いは、漫画で描き足した部分です。
屋敷や書庫、五条天神の見た目、夜の書庫で灯りのもと書を読む場面、湛海の手下の人数や斬り合いの動き、法眼の外見も、漫画の創作です。娘が若者にお守りを渡すこと、別れぎわに若者が初めて「ヨシツネ」と名乗る場面も、漫画ならではの演出です。漫画は娘が屋敷に残るところで終わりますが、原典では、娘はその後、義経を想いながら亡くなったと語られています。
文字だけだと少し複雑な「書を手に入れるための駆け引き」や、娘の切ない想いも、漫画なら一話でつかみやすくなっています。シリーズ『義経伝説 ―牛若丸と弁慶―』は全話無料で、会員登録なしで読めます。あらすじを知ったうえで、第3話の夜の書庫や五条天神の場面を、ぜひ絵で味わってみてください。
『義経記』に出てくる、京の一条堀川に住む陰陽師の法師です。唐から伝わった兵法書『六韜』を秘蔵していて、それを読みたい義経を見下して断りました。源氏の味方だったという話は、のちの浄瑠璃などで生まれた筋で、原典にはありません。
中国の兵法書『六韜』の中にある「虎韜」という巻が由来だといわれています。そこから、大事な秘けつや種本のことを「虎の巻」と呼ぶようになりました。義経が鬼一法眼のもとで読んだのも、この『六韜』です。
『義経記』では、娘に名前はついていません。「皆鶴姫」という名前は、後の浄瑠璃などでつけられたものです。
義経は女房の幸寿の手引きで娘と深い仲になり、娘が持ち出した兵法書を読みました。娘は父の企みを知らせて義経を救いますが、義経が屋敷を去ったあと、義経を想いながら亡くなったと語られています。
これは『義経記』という物語に書かれた話で、歴史上の事実として確かめられているわけではありません。義経の若いころは記録が少なく、こうした伝説が物語の中で語り継がれてきました。