第5話未来が見える男は、それでも恋をしたマーリンとニミュエ
シリーズ第5話。恋した乙女に封じられたマーリンは、「剣と鞘は、いちばん信じる女に盗まれる」と言い残して去った。やさしい姉から届いた「聖剣」を手に、少年王アーサーは命がけの決闘に出る。だが相手が振るうのは、王自身の本物の聖剣だった。



















最後まで読んでくれてありがとう!
世界最強の騎士が、四人の女王の誘いをすべて断った理由は一つ。その理由が、のちに王国を滅ぼす。
シリーズ第5話。恋した乙女に封じられたマーリンは、「剣と鞘は、いちばん信じる女に盗まれる」と言い残して去った。やさしい姉から届いた「聖剣」を手に、少年王アーサーは命がけの決闘に出る。だが相手が振るうのは、王自身の本物の聖剣だった。



















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世界最強の騎士が、四人の女王の誘いをすべて断った理由は一つ。その理由が、のちに王国を滅ぼす。
この話のもとになった神話
このお話のもとになっているのは、15世紀のイギリスでトマス・マロリーがまとめ、1485年にウィリアム・カクストンが出版した『アーサー王の死』です。第5話は、その第IV巻の第1章と第6〜15章をもとにしています。
アーサー王の助言者で、未来を見通す力を持つマーリンは、ペリノア王が宮廷に連れてきた「湖の乙女」の一人、ニミュエに心を奪われます。いつもそばを離れず、知っていることを次々と彼女に教えてしまいました。マーリンは王に、自分はまもなく生きたまま土の中に閉じこめられること、そして王の剣と鞘は、王がいちばん信じている女に盗まれることを告げます。王が「術で避けられないのか」と聞いても、マーリンは「できない」と答えました。
旅に出たニミュエに、マーリンはどこまでもついて行きます。ニミュエは、自分には決して魔法をかけないと約束させていました。原典には、ニミュエがマーリンを恐れ、つきまとわれて疲れ果て、離れたがっていたと書かれています。コーンウォールで、マーリンは岩の中にある魔法の大きな石の下の不思議を見せます。ニミュエはたくみに彼をその下へ入らせ、どんな術でも出られないようにして立ち去りました。
その後、アーサーはユリエンス王、騎士アコーロンと狩りに出かけ、誰も乗っていない絹張りの舟に乗りこみます。十二人の乙女にもてなされて深く眠り、目を覚ますと三人はばらばらの場所にいました。ユリエンスは都キャメロットで妻モルガン・ル・フェイのそばに、アーサーは臆病な騎士ダマスの暗い牢に、アコーロンは井戸のそばにいたのです。
アーサーは、捕らわれた騎士たちを全員解き放つことを条件に、ダマスの代わりに決闘することを引き受けます。そこへ姉モルガンの侍女が、エクスカリバーにそっくりの剣と鞘を「愛のしるし」として届けました。ところがそれは、もろい偽物でした。本物のエクスカリバーと鞘は、モルガンの愛人アコーロンに渡されていたのです。互いに相手が誰かを知らないまま、二人は戦います。
アーサーの剣はまったく切れず、王は血を流し続け、やがて剣も折れてしまいます。それでも降参を拒み、恥を抱えて生きるより名誉ある死を選ぶと言いました。そこへ、モルガンの企みを知った湖の乙女ニミュエが現れ、魔法でアコーロンの手から剣を落とさせます。剣を取り戻したアーサーは勝ち、相手の正体と陰謀を知りました。アーサーはアコーロンを許し、ダマス兄弟には公正な裁きを下します。アコーロンは傷が深く、まもなく亡くなりました。
一方モルガンは、眠る夫ユリエンスを殺そうとして、息子ユーウェインに止められます。アコーロンの死を知ると、尼僧院で眠っていた王のそばから鞘を盗み、湖に沈めました。そして自分と供の者を石に変えて逃げのびます。マーリンの予言は、こうして本当になりました。
アーサー王は、マーリンを失い、姉に命を狙われる若い王です。モルガン・ル・フェイはアーサーの姉で魔法を使い、王に妻や身内の誰よりも信じられていながら兄を憎んでいます。マーリンは未来を知りながら、それを変えられなかった予言者です。ニミュエはマーリンを封じた一方で、アーサーの命を救う湖の乙女です。アコーロンは何も知らないまま王と戦った騎士です。
なお、マーリンを封じる乙女は、ほかの作品では別の名前で呼ばれることもあります。また原典では、章の題に「マーリンはそこで死んだ」とありながら、後の章では石の下で嘆く声が聞こえる場面もあり、どう受け取るかは読み方が分かれるところです。
この話の大きなテーマは「わかっていても避けられない運命」です。いちばん賢いマーリンも、恋した相手には逆らえず、自分の最期を知りながら止められませんでした。アーサーも予言を聞いていたのに、いちばん信じていた姉に裏切られます。
もう一つは、中世の騎士が大切にした「名誉」です。剣が折れても降参せず、だまされて戦った相手を許し、弱い者を苦しめたダマスにはきちんと裁きを下す。アーサーの姿には、当時の人々が思い描いた理想の王の姿が表れています。そして、ここで鞘を失ったことが、のちの王国の運命に影を落としていきます。
原典に書かれた出来事の流れはそのままに、書かれていない部分を漫画で補っています。たとえば、マーリンが封じられる岩や石の見た目、その瞬間の演出、ニミュエの表情や気持ちは漫画の創作です。原典からわかるのは、ニミュエが彼を恐れ、離れたがっていたところまでです。
舟や十二人の乙女、食事の様子、三人がどうやって別々の場所へ運ばれたのかも、原典には方法が書かれていないため、モルガンの術として絵で見せています。決闘のコマ割りや剣さばき、ニミュエの魔法の見せ方も漫画の工夫です。また、第2〜5章の別の戦いの話は省き、ベンウィックへの旅も短くまとめています。
マーリンの最後の予言が、どんな形で王に降りかかるのか。文章で知ったあとに漫画で読むと、「やさしい姉」から届いた聖剣を手にしたアーサーの姿が、いっそう胸に迫ります。この「アーサー王伝説 ―円卓の黄昏―」は、Manga Portal で全話無料、会員登録なしで読めます。第1話から順に読むと、エクスカリバーと鞘がなぜそれほど大切なのかも、よくわかります。
マロリーの『アーサー王の死』では、マーリンがニミュエに夢中になってつきまとい、ニミュエは彼を恐れて離れたがっていたと書かれています。そこでコーンウォールの岩の中の大きな石の下へ誘いこみ、出られないようにしました。
原典の章の題には「そこで死んだ」とありますが、後の章では石の下で嘆く声が聞こえる場面もあります。そのため、死んだのか封じられたまま生きているのかは、読み方が分かれます。
アーサーの姉モルガン・ル・フェイです。愛人アコーロンが死んだと知ると、眠っている王のそばから鞘を盗んで湖に沈めました。マーリンの「いちばん信じる女に盗まれる」という予言が当たったことになります。
アーサーは偽物の剣で戦わされて追いつめられますが、湖の乙女の魔法でアコーロンが剣を落とし、アーサーが取り戻して勝ちます。アーサーは知らずに戦った彼を許しましたが、アコーロンは傷が深くまもなく亡くなりました。
原典では、ニミュエは湖の乙女たちの一人として出てきます。マーリンを封じた湖の乙女が、のちにアーサーの決闘の場に現れて命を救います。