第6話七十二の姿で、逃げきれるか二郎真君との変化合戦
天兵十万でも捕まらない孫悟空の前に、天いちばんの狩人・二郎が現れる。スズメにはタカ、魚には魚を獲る鳥――化けても化けても見破られる変化合戦の果てに、天の門から思いがけない一撃が落ちる。
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最後まで読んでくれてありがとう!
「世界の果てに名前を書いて帰ってきたら、それは仏の指だった」――最強の猿、初めての敗北。
天兵十万でも捕まらない孫悟空の前に、天いちばんの狩人・二郎が現れる。スズメにはタカ、魚には魚を獲る鳥――化けても化けても見破られる変化合戦の果てに、天の門から思いがけない一撃が落ちる。
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「世界の果てに名前を書いて帰ってきたら、それは仏の指だった」――最強の猿、初めての敗北。
この話のもとになった神話
天宮で大暴れした孫悟空を捕らえるため、李天王たちは十万の天兵で花果山をすき間なく囲みます。それでも悟空は捕まりません。そこへ観音菩薩が蟠桃会(桃の宴)にやってきますが、会場は荒れて誰もいません。わけを聞いた観音は、弟子の恵岸(木叉)を様子見に送ります。恵岸は悟空と五、六十回打ち合ったすえ、腕がしびれて逃げ帰りました。そこで観音は、玉帝の甥で灌江口にいる二郎真君を呼ぶよう勧めます。
二郎は梅山の六兄弟と草頭神の軍勢、それに鷹と犬を連れて出陣します。李天王には「手出しは無用。ただ照妖鏡(正体を映す鏡)を持って空から見張ってほしい」と頼みました。悟空と二郎は三百回以上戦っても決着がつかず、どちらも山のように大きな姿になってにらみ合います。そのすきに兄弟たちが水簾洞を攻め、猿たちは散り散りに。自分の陣が崩れたのを見た悟空は、あわてて逃げ出します。
ここからが有名な変化合戦です。悟空が雀になれば二郎は鷹に、鵜のような水鳥になれば海鶴に、魚になれば魚を獲る鳥に、水蛇になれば灰鶴になって追います。悟空がノガン(花鴇)に化けると、二郎は品のない鳥とされるノガンになるのを嫌がり、元の姿で弾弓を撃ちました。悟空は小さな土地廟にも化けますが、しまえなかった尻尾を旗竿にして廟の後ろに立てていたため、見破られてしまいます。
照妖鏡で行き先を知った二郎は、自分の姿に化けて灌江口の廟に入りこんでいた悟空を見つけ、二人は戦いながら花果山へ戻ります。最後は、南天門から見物していた太上老君が金剛琢という輪を投げ落とし、悟空の頭に命中させます。倒れた悟空のふくらはぎに二郎の犬がかみつき、七聖が押さえこんで肩の骨(琵琶骨)を刺し通しました。もう化けられなくなった悟空は天に送られ、玉帝は処刑を命じます。
主役は、悟空と互角に戦える二郎真君です。悟空が何に化けても、その動物を狩る生き物に化けて追いつめます。いっぽうの悟空は、強くて口も達者ですが、仲間がやられると動揺して逃げ出すという意外な一面を見せます。
観音菩薩は二郎を推す役、太上老君は最後の一撃を加える役、李天王は照妖鏡で見張る役と、天の神々がそれぞれの持ち場で悟空を追いつめていくのがこの回の見どころです。
西遊記は、唐の僧・玄奘がインドへ経典を取りに行った実際の旅をもとに、長い年月をかけて語りつがれた物語が、明の時代にまとめられたものです。今残るいちばん古い完全な本の一つが、1592年に出た世徳堂本です。作者は呉承恩とされることが多いものの、はっきりしないという説もあります。
この回の題は、ざっくり言うと「観音が宴に来てわけを尋ね、小聖が力をふるって大聖を降す」という意味です。斉天大聖(悟空)に対して、二郎を「小聖」と呼んで対比しているのがおもしろいところです。二郎は天に仕えながらも下界の廟で人々に祭られ、呼び出しには応じず出陣の命令にだけ従う、独立した神として描かれます。二郎のモデルについては、灌江口の地で古くから祭られてきた水の神だとする説などがあります。
変化合戦は「食べる側と食べられる側」の関係をたくみに使った知恵比べです。また、決め手となった金剛琢は、物語の後半でもう一度大きな役割を果たします。
変化の順番と、雀には鷹、魚には魚を獲る鳥といった組み合わせは、原典どおりに描いています。いっぽう、原典では名前と働きくらいしか書かれていない梅山六兄弟には、一人ひとり顔や性格、武器をつけました。草頭神の見た目、灌江口の廟や参拝者、鬼判(廟の部下)の姿も漫画で考えたものです。
ほかにも、悟空と二郎の会話や心の声の一部、南天門で見物する神々のやりとり、二郎の犬の犬種や体つき、金剛琢の大きさや飛び方、捕まった猿たちのその後などは、漫画で付け足した部分です。土地廟の門が口、窓が目、旗竿が尻尾という対応は原典にあり、それを絵で見せる工夫をしています。
文章で読むと一瞬で過ぎてしまう変化合戦も、漫画ではコマの流れで「化けては見破られる」スピード感を味わえます。『西遊記 斉天大聖伝 ―石より生まれし猿―』は全話無料、会員登録なしで読めます。第6話で悟空がどう追いつめられるのか、ぜひページをめくって確かめてみてください。
第六回で悟空と戦い、追いつめたのは二郎真君です。ただし最後に悟空を倒したのは、太上老君が投げた金剛琢でした。そのあと二郎の犬と梅山の兄弟たちが悟空を押さえこみました。
西遊記では玉帝の甥で、灌江口の廟に祭られている神として描かれます。三つの刃のある槍と弾弓を持ち、鷹と犬を連れています。悟空と互角に戦える数少ない相手です。
雀、鵜のような水鳥、魚、水蛇、ノガン、土地廟、そして二郎自身の姿にまで化けました。二郎は鷹や海鶴など、その動物を狩る生き物に化けて追いかけました。
太上老君が持つ輪のような宝物です。水にも火にも強く、ものにはまる力があるとされます。物語の後半にも再び登場します。
第六回は、玉帝が悟空を処刑台へ送るよう命じるところで終わります。悟空がどうなるのかは、続く第七回で描かれます。