この話のもとになった物語
立ちすぐりとは?風魔小太郎が紛れた敵を暴く『北条五代記』のあらすじ
ひとことで言うと: 立ちすぐり・居すぐりは、合図で全員が一斉に立ち、一斉に座ることで、動きの合わない紛れ者を見つけ出す風魔一党の見分け方です。黄瀬川の対陣で、夜討ちから引き上げる風魔の群れに武田方の者たちが紛れ込みますが、この方法で見破られて討ち取られる、『北条五代記』の物語です。
元の話のあらすじ:黄瀬川の夜討ちと「立ちすぐり」
舞台は戦国時代の関東です。関東には「乱波(らっぱ)」と呼ばれる者たちがいて、盗賊の類でありながら、知恵と策を持つ者として語られます。北条氏直はこの乱波を二百人、扶持(給料)を与えて抱えていました。一党は山賊・海賊・強盗・窃盗の四つの類の者から成り、その上に立つ頭が風魔小太郎です。
あるとき、氏直と武田勝頼が、駿河と伊豆の境を流れる黄瀬川をはさんで向かい合います。風魔の一党は夜の闇と雨風に紛れて川を越え、武田の陣を襲いました。人を生け捕りにし、つながれた馬の綱を切って乗り去り、陣に火を放ち、あちこちで鬨の声を上げます。武田勢は混乱し、夜が来るたびに恐れるようになりました。この対陣の年代については、天正9年(1581年)ごろとする説もあります。
やがて武田方の者たちは、引き上げていく風魔の群れに紛れ込み、そのまま北条の陣まで付いて行こうとします。しかし風魔には、敵を見分けるための決まりがありました。それが「立ちすぐり・居すぐり」です。決めておいた合図で全員が一斉に立ち、一斉に座ります。合図を知らない者は動きが揃わないため、そこで敵だとわかるのです。こうして見破られた武田方の者たちは討ち取られました。
風魔小太郎と乱波たちはどんな人々か
『北条五代記』の小太郎は、一度読むと忘れられない姿で描かれます。身の丈は七尺二寸ほどで、今の単位なら2メートルを超える大男です。筋骨は荒々しく、目は逆さに裂け、広い口から牙が四本のぞき、頭は七福神の福禄寿に似て、鼻が高いとされます。大声は遠くまで届く一方、小声はしわがれて聞き取りにくいとも語られます。漫画で小太郎が低い声で一言告げる場面は、この描写と重ねて読むと楽しめます。
ただし、小太郎の実像にははっきりしない点が多く、この姿にも誇張が混じっているという見方があります。原典の話として楽しみつつ、すべてを史実と決めつけないのがよいでしょう。
この話が伝えていること(時代の背景)
この話からは、戦国の戦が昼の合戦だけではなかったことが見えてきます。馬を奪い、火を放ち、声で惑わす夜討ちは、敵の持ち物だけでなく、安心して夜を過ごす気持ちまで奪うものでした。
立ちすぐりのおもしろさは、その単純さにあります。服装はまねできても、仲間だけが知る決まりと、体に染みついた動きはまねしにくいものです。盗賊の集まりと語られる一党に、こうした厳しい決まりがあったことが、この話の読みどころだと言えるでしょう。
原典の『北条五代記』は、三浦浄心(茂正)が著した書物で、江戸時代の初めに成立し、寛永期の刊本で広まりました。戦国の世が終わった後に書かれたものなので、語り継がれた話として読むのが安心です。
漫画版で変えたところ
黄瀬川の対陣、風魔の夜討ち、武田方の者たちの紛れ込み、立ちすぐりでの発覚と討ち取りは、原典にある話です。一方、紛れ込む忍びの弥平は漫画の創作です。原典の紛れ込んだ者たちは名前も素性も語られない集団で、弟がいるという設定や、第4話の若い兵の兄という因縁、紛れ込む動機や覚悟も、漫画で加えました。
合図を小太郎の声一つとし、「座れ」と告げる演出も、漫画の見せ方です。原典の細部については、合図を出すのが小太郎本人かどうか、松明や合言葉をどう使ったかを確かめきれていないため、ここでは断定しません。何人が紛れ込んだのかも同じです。ほかに、夜の天候や川を渡る道筋、合図を行う場所、乱波たちの服装や持ち物、見破る瞬間のやり取り、討ち取りの場面の見せ方も、漫画で描き足した部分です。
漫画で読むには
原典では数行で語られる出来事も、紛れ込む側の目線で読むと、一つの合図を待つ間の緊張が伝わってきます。正体を隠して敵の中を進む弥平の前で、何が起きるのか。結末を知っていても、息をのむ場面です。
『忍者列伝 ―風魔・伊賀・甲賀の影―』は全話無料で、会員登録なしで読めます。弥平の弟とのつながりは第4話から続いているので、前の話とあわせて読むと、この第5話がいっそう響くはずです。
この話の登場人物
- 風魔小太郎(ふうま こたろう)
- 北条氏に抱えられた乱波の頭で、原典では牙がのぞく2メートル超の大男として描かれる人物。
- 北条氏直(ほうじょう うじなお)
- 北条家の当主で、乱波二百人を抱え、黄瀬川で武田勢と向かい合う主君。
- 武田勝頼(たけだ かつより)
- 甲斐武田家の当主で、黄瀬川の対陣で風魔の夜討ちを受ける側の大将。
- 風魔の一党(ふうまのいっとう)
- 山賊・海賊・強盗・窃盗の四類の者から成る乱波たちで、夜討ちに長け、合図で一斉に動く決まりを持つ集団。
- 武田方の紛れ込んだ者たち(たけだがたのまぎれこんだものたち)
- 引き上げる風魔の群れに紛れて北条の陣へ入ろうとし、動きが揃わず見破られる、名前の語られない者たち。
- 弥平(やへい)
- 眠れない弟のいる陣を救うため敵の群れに紛れる腕利きの忍びで、原典にはいない漫画の創作人物(名前の読みは仮)。
よくある質問
立ちすぐり・居すぐりとは何ですか?
決めておいた合図で全員が一斉に立ち、一斉に座り、動きの揃わない者を敵として見つけ出す方法です。『北条五代記』で、風魔の一党が紛れ込んだ武田方の者たちを見破った場面に出てきます。
風魔小太郎はどんな人物ですか?
北条氏に抱えられた乱波二百人の頭で、『北条五代記』では身の丈七尺二寸ほどの大男として描かれます。牙がのぞく口や、福禄寿に似た頭など、強烈な姿で語られますが、実像にははっきりしない点が多いとされます。
乱波(らっぱ)とは何ですか?
『北条五代記』で、関東での呼び名として語られる者たちです。盗賊の類でありながら知恵と策を持つ者とされ、風魔の一党は夜討ちや馬の奪取、放火、攪乱を得意としました。
黄瀬川の戦いでは風魔は何をしたのですか?
北条氏直と武田勝頼が黄瀬川をはさんで向かい合った折、風魔の一党は夜の闇に紛れて川を越え、武田の陣を襲いました。人を生け捕りにし、馬を奪い、火を放ち、鬨の声で敵を混乱させたと語られます。
漫画の弥平や「座れ」の場面は原典にありますか?
弥平という人物と、第4話の若い兵の兄という設定は漫画の創作です。立ちすぐりで見破る話は原典にありますが、合図を小太郎の声「座れ」の一言とする形は漫画の演出です。
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