第4話世界が闇に沈んだ日、神々は笑った天岩戸
太陽の女神アマテラスが岩屋にこもり、世界は闇に沈んだ。神々は戸の前で祭りを開いて笑いで光を連れ戻すが、闇を招いた弟スサノオはひとり笑えないまま地上へ追われ、川上から聞こえる泣き声に足を止める。
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太陽の女神アマテラスが岩屋にこもり、世界は闇に沈んだ。神々は戸の前で祭りを開いて笑いで光を連れ戻すが、闇を招いた弟スサノオはひとり笑えないまま地上へ追われ、川上から聞こえる泣き声に足を止める。
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この話のもとになった神話
天岩戸(あまのいわと)の物語は、712年に太安万侶(おおのやすまろ)がまとめた『古事記』の上巻にあります。きっかけはアマテラスの弟、スサノオの乱暴です。スサノオが機織りの小屋の屋根に穴をあけ、皮をはいだ馬を投げ込んだので、驚いた機織りの女神が死んでしまいました。これを見て恐れたアマテラスは、天岩戸という岩屋の戸を閉め、中にこもってしまいます。
太陽の神が隠れたため、神々の住む高天原(たかまのはら)も地上の世界もまっ暗になり、夜が明けなくなりました。神々のさわぐ声がハエのようにあふれ、あらゆる災いが起こります。そこで八百万(やおよろず)の神々は天安河原(あまのやすのかわら)に集まり、知恵の神オモイカネに作戦を考えさせました。長鳴鳥を鳴かせ、鏡と勾玉を作らせ、鹿の骨で占いをし、根ごと掘った榊(さかき)に勾玉・鏡・布をかけて捧げ、祝詞(のりと)を唱えます。力の神アメノタヂカラオは戸のわきに隠れて待ちました。
いよいよアメノウズメが、伏せた桶を踏み鳴らして神がかりになり、胸をあらわにし、衣のひもを下までずらして踊ります。高天原がゆれるほど神々は大笑いしました。不思議に思ったアマテラスが戸を少し開けて「なぜ笑っているのか」とたずねると、ウズメは「あなたより尊い神がいらっしゃるので喜んでいるのです」と答えます。そこへ鏡が差し出され、ますます不思議に思ったアマテラスが少し外へ出たところを、タヂカラオが手を取って引き出しました。フトダマがすぐ後ろに縄を張って「ここから内へはもう戻れません」と告げ、世界に光が戻りました。
そのあと神々は相談し、スサノオにたくさんのつぐないの品を負わせ、ひげを切り、手足の爪を抜いて追放しました。原典ではさらに、スサノオが食べ物の女神オオゲツヒメに食事を求める話が続きます。女神が鼻や口、尻から食べ物を出して料理するのを見たスサノオは、けがれたものを出されたと思って女神を殺してしまいます。その体からは蚕・稲・粟・小豆・麦・大豆が生まれ、カミムスヒという神がそれを種にしました。
この話の特徴は、たくさんの神がそれぞれの役目を受け持つことです。作戦を考えるオモイカネ、鏡を作るイシコリドメ、勾玉を作るタマノオヤ、祝詞を唱えるアメノコヤネ、榊を捧げ持つフトダマ、踊るウズメ、引き出すタヂカラオ。まるでチームで大きな仕事をやりとげるような物語になっています。
太陽が消えると世界が乱れるという話からは、太陽が人々の暮らしにとってどれほど大切だったかが伝わってきます。日食や、冬至のころに日の光が弱まることを表しているという説もあります。また、鏡や勾玉を榊にかけて祝詞を唱える流れは神社のお祭りによく似ていて、古い時代の祭りのやり方が神話に映されていると考えられています。
ここで作られた鏡と勾玉は、『古事記』の後の場面でアマテラスから孫のニニギに授けられ、のちに「三種の神器」と呼ばれる宝につながります。フトダマが張った縄は、しめ縄のはじまりともいわれます。オオゲツヒメの話は、穀物や蚕がどこから来たかを語る話です。『日本書紀』にも、ツクヨミがウケモチという神を殺して作物が生まれる、よく似た話が書かれています。
原典は出来事を短く並べるだけで、神々の気持ちや場面の様子はほとんど書いていません。闇が何日続いたのか、どんな災いが起きたのか、オモイカネがどう作戦を立てたのかは、漫画で描き足した部分です。タヂカラオの姿や、ウズメの踊りの細かい動きも同じです。
鏡の場面にも注意が必要です。「アマテラスは鏡に映った自分を別の神だと思った」とよく説明されますが、原典には「いよいよ不思議に思った」としか書かれていません。漫画でも、そこは決めつけない描き方にしています。
いちばん大きな創作は、スサノオだけが笑えずにいる姿です。追放されるスサノオの表情や言葉は、原典にはまったくありません。最後に川上から泣き声が聞こえる場面は、原典では次の段で、出雲に降りたスサノオが川をさかのぼり、泣いている老夫婦と娘に出会うところにあたります。ここからヤマタノオロチの話へと続いていきます。
『古事記 ―神々の系譜―』第4話では、闇に沈んだ世界、笑いで光を取り戻す神々、そしてひとり取り残されるスサノオの姿を絵で追うことができます。原典の短い文だけでは想像しにくい祭りの場面も、漫画なら一目でわかります。全話無料・会員登録なしで読めるので、前の話にさかのぼって、スサノオがなぜ暴れたのかを確かめてみるのもおすすめです。
太陽の女神アマテラスが岩屋にこもって世界がまっ暗になり、八百万の神々が知恵と祭りで外へ連れ出す話です。『古事記』の上巻に書かれています。
弟スサノオの乱暴で機織りの女神が死んでしまい、それを見て恐れたからです。原典には「恐れて」こもったと書かれています。
岩戸の前で桶を踏み鳴らし、神がかりになって踊った女神です。その踊りで神々が大笑いし、アマテラスが外の様子を気にして戸を開けるきっかけになりました。
つぐないの品を負わされ、ひげを切られ、手足の爪を抜かれて高天原から追放されました。その後、オオゲツヒメの話をはさんで出雲に降り、ヤマタノオロチの話へ続きます。
そう説明されることは多いですが、原典は「ますます不思議に思って少し出た」としか書いていません。鏡に映った自分を別の神と思ったというのは、後の人の解釈のひとつです。