第7話嵐の神に「娘さんをください」根の国 ―オオクニヌシとスセリビメ―
第7話。兄たちに二度殺された末っ子オオナムヂは、母の涙で命を取り戻し、地の底の国で運命の姫スセリビメと出会う。だが彼女の父は嵐の神スサノオ。蛇の部屋、燃える野原、頭のムカデと、命がけの婿いびりが始まる。
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第7話。兄たちに二度殺された末っ子オオナムヂは、母の涙で命を取り戻し、地の底の国で運命の姫スセリビメと出会う。だが彼女の父は嵐の神スサノオ。蛇の部屋、燃える野原、頭のムカデと、命がけの婿いびりが始まる。
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この話のもとになった神話
古事記の上巻によると、稲羽の八上比売(やがみひめ)は、求婚に来た大勢の兄弟神・八十神(やそがみ)を断り、大穴牟遅神(おおなむぢのかみ)を夫に選びました。怒った八十神は、彼を殺そうと相談します。
伯岐国の手間山で、八十神は「赤い猪を追い下ろすから、下で捕まえろ。捕まえなければ殺す」と命じ、実際には猪に似た大石を火で焼いて転がしました。それを受け止めた大穴牟遅は、焼けた石に焼かれて死んでしまいます。母神は泣きながら天に上って神産巣日命(かみむすひのみこと)に助けを求めました。すると、赤貝の女神とされる𧏛貝比売(きさがいひめ)と蛤の女神・蛤貝比売(うむぎひめ)が遣わされ、彼は美しい若者としてよみがえります。
八十神はまた彼をだまして山へ連れ込み、切り倒した大木の割れ目に入らせると、くさびを抜いて挟み殺しました。母はふたたび木を裂いて息子を救い、「ここにいてはいつか滅ぼされる」と言って、木国の大屋毘古神(おおやびこのかみ)のもとへ逃がします。追手が来ると、彼は木の股をくぐって逃れ、「須佐之男命のいる根之堅州国(ねのかたすくに)へ行け」と告げられました。
根之堅州国で、大穴牟遅は須佐之男の娘・須勢理毘売(すせりびめ)と目が合い、二人はすぐに結ばれます。ところが父の須佐之男は、彼を「葦原色許男(あしはらしこお)」と呼んで、蛇のいる部屋に寝かせました。次の夜はムカデと蜂の部屋です。須勢理毘売はそのたびに、虫をしずめる不思議な布「比礼(ひれ)」を夫に渡し、「三度振って追い払いなさい」と教えて守りました。
次に須佐之男は、野原に矢を射込んで拾いに行かせ、まわりに火を放ちます。逃げ道がなく困っていると、鼠が現れて「内はほらほら、外はすぶすぶ」と言いました。中は広く、入口はすぼまっている、という意味だと考えられています。そこを踏むと穴に落ち、隠れている間に火は通り過ぎました。鼠は矢もくわえて持ってきてくれましたが、矢の羽は鼠の子どもたちが食べてしまっていました。
最後は、須佐之男の頭のシラミ取りです。ところが頭にはムカデがうようよいました。彼が妻からもらった椋の実と赤土を口に含んで吐き出すと、大神はムカデをかみつぶしていると思い、心の中でいとしく思って眠ります。そのすきに、彼は大神の髪を部屋の垂木に結びつけ、大石で戸をふさぎ、太刀・弓矢・琴を持って、妻を背負って逃げ出しました。黄泉比良坂(よもつひらさか)まで追ってきた須佐之男は、遠くから「その太刀と弓矢で兄弟を追い払い、大国主神となって娘を正妻にし、立派な宮を建てて住め」という意味の言葉を叫びます。こうして彼は八十神を追い払い、国作りを始めました。
二度死んで二度よみがえり、地の底の国で試練を越えて帰ってくる。この流れを、弱い若者が試されて生まれ変わり、国の主になる物語として読む説があります。名前が大穴牟遅から「大国主神」に変わるのも、その成長を表していると考えられています。
また、試練のほとんどを妻と小さな鼠の助けで乗り越えている点も特徴です。須佐之男の最後の言葉は乱暴な呼びかけ混じりですが、中身は婿を認める祝福で、厳しい父親の不器用な愛情として読まれることもあります。古事記は712年に太安万侶がまとめた、現存する日本最古の歴史書とされています。
原典はとても短く、出来事を並べるだけで、大穴牟遅本人のせりふや気持ちはほとんど書かれていません。そのため漫画では、会話や心の声の多くを補っています。鼠の「ほらほら・すぶすぶ」は原文にある言葉です。
焼け石が燃える様子、貝の女神の姿や薬を作る手つき、根の国の風景、蛇やムカデの部屋の暗さ、野火の広がり方、比礼の色や柄なども、漫画で描き足した部分です。なお、薬を「赤貝の粉と蛤の汁を練ったもの」とする説明は後の時代の解釈で、原文には削り集めて母の乳のように塗った、としか書かれていません。
須佐之男が「葦原色許男」と呼ぶときの表情や、黄泉比良坂での叫びの口調も漫画の解釈です。八十神を追い払う戦いの場面や、八上比売のその後(生んだ子を木の股に挟んで帰る話)は、短くまとめています。
文章だけでは想像しにくい蛇の部屋や燃える野原、命がけの逃走も、漫画なら一気に読めます。「古事記 ―神々の系譜―」は全話無料・会員登録なしで読めるので、気になったら前後の話もあわせて、オオクニヌシが国の主になるまでの道のりをたどってみてください。
古事記では、兄の八十神たちに迫害されながらも、根の国で須佐之男の試練を乗り越え、地上の国作りを始めた神です。もとの名は大穴牟遅神で、須佐之男から「大国主神」となるよう告げられました。
須佐之男の娘で、大穴牟遅と出会ってすぐに結婚した女神です。蛇やムカデの部屋の試練では比礼を、頭のムカデの試練では椋の実と赤土を渡して夫を助け、のちに大国主の正妻になります。
須佐之男が住む国で、地の底にある国、あるいははるか遠くの国など、いくつかの説があります。帰り道の境に黄泉比良坂が出てくるため、死者の国と近い場所とも考えられています。
古事記には理由がはっきり書かれていません。娘の夫にふさわしいかを試したと読むのが一般的で、最後に宝物を持ち去られた須佐之男が祝福の言葉を送ることから、婿として認めたと考えられています。
穴の中は広く、入口はすぼまって狭い、という意味だと考えられています。鼠は、火に囲まれた大穴牟遅に足もとの隠れ穴の在りかを教えたのです。