この話のもとになった神話
イザナギとイザナミ 黄泉の国のあらすじ|古事記の「見るなの約束」 ひとことで言うと: イザナギとイザナミの黄泉の国の話は、火の神を産んで亡くなった妻イザナミを、夫イザナギが死者の国まで迎えに行く物語です。イザナギは「見ないで」という約束を破り、変わり果てた妻の姿を見て逃げ帰ります。最後に二人は大きな岩をはさんで別れ、人の生と死の始まりが語られます。『古事記』(712年)上巻に書かれている神話です。
元の神話のあらすじ(古事記 上巻) イザナギとイザナミは、夫婦で日本の島々と多くの神々を生み出した神です。ところが、イザナミは火の神カグツチを産んだときにひどいやけどを負い、亡くなってしまいます。悲しんだイザナギは、腰の剣でわが子のカグツチを斬りました。イザナミは、出雲と伯耆(今の島根県と鳥取県のあたり)の境にある比婆の山に葬られたと書かれています。
妻をあきらめきれないイザナギは、死者の国である黄泉の国まで会いに行き、「二人で作る国はまだできあがっていない。帰ってきてほしい」と呼びかけます。イザナミは「もっと早く来てくれればよかったのに。私はもう黄泉の国のかまどで煮たものを食べてしまった」と答えます。それでも、帰れるように黄泉の神に相談してみるから、そのあいだ私の姿を見ないで、と頼んで奥へ入っていきました。
待ちくたびれたイザナギは、髪にさしていた櫛の歯を一本折って火をともし、中をのぞいてしまいます。そこにいたのは、体にうじがわき、八柱の雷の神がまとわりついた妻の姿でした。おそれて逃げ出すイザナギに、イザナミは「私に恥をかかせた」と怒り、黄泉の国の鬼女や雷の神、大勢の軍勢に追わせます。イザナギは髪飾りや櫛を投げて山ぶどうやたけのこに変えて時間をかせぎ、黄泉の国の出口の坂(黄泉比良坂)では桃の実を三つ投げて、追っ手を追い返しました。
最後にイザナミ自身が追ってきます。イザナギは、千人がかりでやっと動かせるほどの大岩で坂をふさぎ、岩をはさんで別れの言葉を交わします。イザナミが「あなたの国の人を一日に千人殺そう」と言うと、イザナギは「それなら私は一日に千五百の産屋を建てよう」と答えました。こうして、一日に千人が死に、千五百人が生まれるようになったと語られています。
主な登場人物 イザナギは、妻を取り戻そうと死者の国まで行くほど深く愛した夫です。けれども、待ちきれずに約束を破り、見たものにおびえて逃げてしまいます。強さと弱さの両方をもつ、とても人間らしい神として描かれています。
イザナミは、国生みをともにした妻です。黄泉の国の食べ物を口にしたため、もう地上には戻れない身になっていました。夫に見られたことを「恥」と受けとめて激しく怒り、別れのあとは黄泉の国の大神と呼ばれるようになります。
この神話が伝えていること(文化・時代の背景) この話は、「なぜ人は死ぬのか」「なぜ生きる人と死んだ人は会えないのか」に答える物語として読まれています。生きる世界と死の世界の境目を岩でふさぐ場面は、二つの世界がもう行き来できないものになった瞬間をあらわしています。千人と千五百人という数のやりとりからは、死があっても、それより多くの命が生まれ続けるという考え方も読み取れます。
「黄泉の国の食べ物を食べると帰れなくなる」「見てはいけないと言われたものを見てしまう」という筋は、世界の神話や昔話にもよく似た形があります。ギリシャ神話で、亡き妻を冥界から連れ戻そうとして振り返ってしまうオルフェウスの話と比べられることも多いです。また、桃が魔よけとして使われる点は、中国の考え方の影響を受けたものだという説もあります。
黄泉の国が地下にあるのか、どんな場所なのかは、古事記にははっきり書かれていません。出口の黄泉比良坂は、「今の出雲国の伊賦夜坂のこと」と本文に記されていて、島根県松江市には、その場所だとされる地が今も伝わっています。
漫画版で変えたところ 漫画は古事記の流れに沿っていますが、原典はとても短い文で書かれているため、絵と演出でおぎなっている部分があります。たとえば、イザナギの「一緒に帰ろう」という呼びかけや別れの場面のセリフは、原典の意味をもとに、今の言葉にわかりやすく言いかえています。
二人の表情や心の動き、黄泉の国の暗さや待っている時間の長さなどは、原典にくわしい描写がないため、漫画で描き足したところです。どの出来事が起きたかは原典どおりですが、「そのとき二人が何を思っていたか」は漫画ならではの読み方として楽しんでください。
漫画で読むには Manga Portal の『古事記 上巻 ―神々の系譜―』では、この黄泉の国の話を第2話「死んだ妻を、連れ戻しに行った夫」として漫画にしています。文字で読むと怖い場面も、絵で見ると二人の気持ちがぐっと伝わってきます。全話無料で、会員登録もいりません。このあとイザナギが身を清め、アマテラスやスサノオが生まれる場面へと物語は続いていきます。あらすじで流れをつかんだら、ぜひ漫画でも読んでみてください。
この話の登場人物 伊邪那岐命(いざなぎのみこと) イザナミの夫。亡くなった妻を黄泉の国まで迎えに行くが、「見ないで」という約束を破ってしまう。 伊邪那美命(いざなみのみこと) イザナギの妻。火の神を産んで亡くなり、黄泉の国の食べ物を口にしたため地上へ戻れなくなる。 火之迦具土神(ひのかぐつち) 二人の子である火の神。その誕生がイザナミの死のきっかけとなり、イザナギに斬られる。 黄泉醜女(よもつしこめ) 黄泉の国の鬼女。イザナミの命令で、逃げるイザナギを追いかける。 八柱の雷神(やくさのいかづちがみ) イザナミの体にまとわりついていた雷の神々。黄泉の軍勢を率いてイザナギを追う。
よくある質問 イザナギはなぜ黄泉の国へ行ったの? 火の神を産んで亡くなった妻イザナミを、地上へ連れ戻すためです。二人で始めた国づくりがまだ終わっていないので帰ってきてほしい、と呼びかけました。
「見るなの約束」とは何ですか? イザナミが「黄泉の神に相談するあいだ、私の姿を見ないで」とイザナギに頼んだ約束です。イザナギは待ちきれずに火をともしてのぞいてしまい、変わり果てた妻の姿を見て逃げ出しました。
黄泉比良坂(よもつひらさか)とはどこ? 生きる人の世界と黄泉の国の境にある坂です。古事記には、出雲国の伊賦夜坂のことだと書かれており、島根県松江市にその場所とされる地が伝わっています。
「一日に千人死に、千五百人生まれる」とはどういう意味? 別れのときに、イザナミが「一日に千人殺す」と言い、イザナギが「それなら一日に千五百の産屋を建てる」と答えたことに由来します。人が死ぬようになった理由と、それでも命は増え続けることを説明する話として読まれています。
イザナギとイザナミの話は、どの本に書かれているの? 712年にまとめられた『古事記』の上巻に書かれています。720年に完成した『日本書紀』にも似た話がありますが、細かいところは違っています。
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