この話のもとになった物語
東海道中膝栗毛 大井川の川越しのあらすじ|弥次喜多のニセ侍
ひとことで言うと: 大井川の川越しは、渡し賃を安くしようと侍に化けた弥次郎兵衛が、北八を家来に仕立てて川越し人足と掛け合うものの、刀がまがいものであることなどから正体を見破られ、大恥をかく話です。十返舎一九の滑稽本『東海道中膝栗毛』(初編は享和2年〈1802年〉刊行)の三編にあります。
大井川の川越しのあらすじ(原典)
弥次郎兵衛と北八は、江戸を出て東海道を西へ旅する二人組です。二人がたどり着いた大井川には橋がなく、川越し人足の手を借りなければ向こう岸へ渡れません。
そこで弥次が思いついたのが、侍になりすますことでした。少しでも安く渡ろうという、いかにも弥次らしい小ずるい計画です。弥次は北八を家来に仕立て、武家らしい偉そうな口ぶりで人足と掛け合い、北八も家来らしく調子を合わせます。はじめのうちは人足たちも侍として扱い、芝居はうまくいっているように見えました。二人はすっかり得意になります。
ところが、差していた刀がまがいものであることなどから、正体がばれてしまいます。二人は人足たちに散々に言われて大恥をかきますが、懲りることなく次の宿場へと旅を続けます。見栄を張ってついた嘘が、そのまま自分に返ってくる失敗談です。
なお、刀がどのようにして偽物と分かったのか、ばれたのが川を渡る前か途中か後かといった細かな点は、この記事では断定しません。ここでは話の大きな流れを紹介しています。
主な登場人物
弥次郎兵衛(やじろべえ)は、調子がよく見栄っ張りで、小ずるい策を思いついては自分で失敗する男です。作品全体を通して狂歌をよく詠みます。この話では侍の役を演じます。
北八(きたはち)は弥次の旅の連れで、軽口が多く、弥次と張り合ったり悪ふざけに乗ったりする相棒です。原典では「北八」という表記が基本ですが、「喜多八」も広く使われています。
川越し人足たちは、客を渡すことを仕事にしている人々です。場数を踏んでいて口が達者で、相手の正体が分かれば遠慮なく言い返します。一人ひとりの名前や人数までは確認できていません。
大井川の川越しとは(時代の背景)
大井川は、東海道の島田宿と金谷宿の間を流れる大きな川です。江戸時代には橋がかけられず、渡し船も原則として使えなかったため、旅人は人足の肩車や、人を乗せて担ぐ台である蓮台(れんだい)で渡りました。橋がなかった理由は、江戸を守るためだったという説がよく知られていますが、流れが激しく橋をかけにくかったためという見方もあります。
渡し賃は一定ではなく、その日の水の深さで変わりました。旅人は川札という札を買って人足に渡します。増水すると川留めになり、水が引くまで宿場で足止めされることもありました。馬で越せる箱根より大井川のほうが手ごわい、という意味の唄が知られているほどの難所で、旅の出費としても気になる場所だったのです。
身分の差も、この話のおもしろさの土台です。江戸時代、侍は町人より上の身分とされ、腰に大小二本の刀を差すことがその目印でした。侍のふりをすれば安く済むだろうという弥次の考えは、この身分の感覚があるから成り立ちます。その嘘が人足たちに見破られて言い返される場面には、偉そうなふりをした者が笑われるという、滑稽本らしいおかしさがあります。
漫画版で変えたところ
漫画は原典の大きな流れを土台にしながら、いくつかの部分を新しく作っています。まず、人足たちの名前、年齢、顔立ちです。原典で個別に確認できないため、漫画の創作として個性をつけました。弥次が侍の話し方を練習する場面や、北八が家来役でしくじりかける場面も、芝居の過程を楽しめるように足した笑いです。
いちばんの見せ場は、人足の肩の上で威張っていた弥次の腰の刀が、大河のど真ん中でとんでもないことになる展開です。降りられない場所で嘘がばれる形にして、絵で笑えるオチに仕立てました。原典の細部と同じとは限らないので、ここは漫画の演出として楽しんでください。
ほかに、川の水量や天候、川岸のにぎわいといった背景も漫画で描き足したものです。海外の読者にも伝わるよう、川越しの仕組みや武士と町人の違いを説明する案内役の語りや注記を入れ、掛け合いも今の読者に通じるテンポとギャグに新しく書き直しています。
漫画で読むには
この話の楽しさは、さっきまで威張っていた男が逃げ場をなくす、その落差にあります。川の真ん中で嘘がばれる場面は、絵で見るとまた違ったおかしさがあるはずです。
『東海道中膝栗毛 ―弥次さん喜多さん珍道中―』は、Manga Portal で全話無料、会員登録なしで読めます。あらすじが気になった方は、第5話「人に担がれたニセ侍、もう降りられない ―大井川―」をのぞいてみてください。
この話の登場人物
- 弥次郎兵衛(やじろべえ)
- 江戸から旅に出た調子のよい見栄っ張りの町人で、この話では川越し賃を浮かせようと侍に化けます。
- 北八(きたはち)/喜多八
- 弥次の旅の連れで軽口の多い江戸の男で、この話では家来の役をして調子を合わせます。
- 川越し人足(かわごしにんそく)たち
- 大井川で客を渡す仕事の人々で、二人の正体が分かると遠慮なく言い返します。
よくある質問
弥次さん喜多さんはなぜ大井川で侍に化けたの?
大井川は人足の手を借りて渡る川で、お金がかかったからです。弥次は少しでも安く渡ろうと侍になりすまし、北八を家来に仕立てました。
大井川にはなぜ橋がなかったの?
江戸を守るために橋をかけさせなかったという説がよく知られています。流れが激しく、橋をかけにくかったためという見方もあります。
川越し人足とは何をする人?
大井川などで、旅人を肩車や蓮台に乗せて向こう岸まで運ぶ仕事の人々です。旅人は川札という札を買って人足に渡しました。
ニセ侍の嘘は川の真ん中でばれたの?
漫画では、降りられない川の真ん中でばれる形に描いています。原典でばれた場所が川を渡る前か途中か後かについて、この記事では断定しません。
東海道中膝栗毛とはどんな作品?
十返舎一九が書いた江戸時代の滑稽本で、初編は享和2年(1802年)に刊行されました。弥次郎兵衛と北八が東海道を旅しながら失敗と悪ふざけを重ねる話です。「膝栗毛」は、自分の膝を馬の代わりにして歩く旅のことです。
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