この話のもとになった物語
イリアス第1歌のあらすじ|アキレウスの怒りとは?
ひとことで言うと: 『イリアス』第1歌は、トロイア戦争の最中、ギリシャ軍最強の英雄アキレウスが総大将アガメムノンに褒美の女性ブリセイスを奪われて怒り、戦いから身を引く物語です。浜辺で泣く息子のために海の女神テティスがゼウスに願い、ゼウスは頷いて約束します。出典は古代ギリシャの叙事詩、ホメロス『イリアス』です。
元の神話のあらすじ① 神官の願いと、九日間の疫病
『イリアス』は、詩人が女神ムーサに「アキレウスの怒りを歌ってください」と呼びかけるところから始まります。その怒りが多くの英雄を死なせ、ゼウスの考えが果たされていった、と最初に予告されるのです。舞台は、ギリシャ側の軍勢(アカイア勢)がトロイアの町を攻めている浜辺の陣地です。
ある日、アポロンの神官クリュセスが、たくさんの身代金を持って陣地を訪れます。戦いで捕らえられた娘クリュセイスを返してほしいと頼みに来たのです。ほかの兵たちは受け入れようとしますが、娘を自分の取り分にしていた総大将アガメムノンは、老人を乱暴に追い返します。
クリュセスは黙って海辺を去り、アポロンに祈ります。怒ったアポロンは天から降りて矢を放ち、まずラバや犬を、次に兵士たちを倒しました。疫病は九日間続き、火葬の火が絶えなかったと語られます。
元の神話のあらすじ② 争い、涙、そしてゼウスの頷き
十日目、アキレウスが皆を集め、予言者カルカスが原因を明かします。神官を辱めたからで、娘を返さなければ疫病は止まない、と。アガメムノンは娘を返すことは認めますが、代わりの褒美をよこせと言い張ります。アキレウスと激しく言い争ったすえ、アガメムノンはアキレウスの褒美であるブリセイスを自分が取ると宣言しました。
怒ったアキレウスは剣を抜きかけます。そのとき女神アテナが背後から髪をつかんで止めました。アテナの姿はアキレウスにしか見えません。アキレウスは剣を収めますが、「いつか皆が自分を必要とする日が来る」と誓い、戦いから離れます。老将ネストルのとりなしも効かず、ブリセイスは連れて行かれました。
アキレウスは灰色の海辺で泣き、母である海の女神テティスを呼びます。テティスは息子の命が短い運命にあることを嘆き、のちにゼウスの膝にすがって、アキレウスの名誉を取り戻してほしいと頼みます。ゼウスは長く黙ったあと、頷いて約束しました。その頷きでオリュンポスの山が揺れたといいます。妻ヘラはそれに気づいて責め、神々の間に緊張が走りますが、ヘパイストスがとりなし、神々は笑いと宴で一日を終えます。
主な登場人物
地上ではアキレウスとアガメムノンの対立が中心で、予言者カルカス、老将ネストル、知恵者オデュッセウスがまわりを固めます。オデュッセウスはクリュセイスを父のもとへ送り届け、これで疫病は止みます。天上ではアポロン、アテナ、ヘラ、テティス、ゼウスが人間たちの争いに関わります。神々が人間のすぐそばで動くのが、この物語の大きな特徴です。
この物語が伝えていること(時代と文化の背景)
アキレウスが怒ったのは、女性を奪われたからだけではありません。当時の戦士にとって、戦いの分け前はみんなに認められた「名誉」の印でした。それを皆の前で取り上げられるのは、命をかけた働きを否定されるのと同じだったのです。短い命と引き換えに名を残そうとする英雄だからこそ、その怒りは深くなります。
『イリアス』は紀元前8世紀ごろにまとめられたとされる長い詩で、もとは人々の前で語り聞かせるものだったと考えられています。ホメロスが実在した一人の詩人だったのかどうかには、諸説あります。また、物語が描くのは戦争十年目のごく短い期間だけで、有名な「トロイの木馬」やアキレウスの最期は『イリアス』の中では描かれません。
漫画版で変えたところ
漫画の冒頭では、パリスがヘレネを連れ去ったことや、戦争が十年目に入っていることをナレーションで説明しています。これは第1歌には書かれていない、読みやすくするための前置きです。ヘレネが無理やり連れ去られたのか自分から去ったのかは伝承によって違うため、言い切らない形にしています。
人物の顔や体つき、鎧や服、陣地や浜辺の様子、疫病の矢が光る描き方などは漫画の創作です。原典にあるのは「金色の髪」「銀の足」といった短い言い表しだけです。ブリセイスは原典では一言も話さず、「気が進まないまま」去るとだけ書かれているので、漫画の表情や心の動きも創作です。ネストルの昔話や神々の宴は短くまとめていますが、アテナがアキレウスにしか見えないこと、ゼウスの頷きで山が揺れることは原典どおりに描いています。
漫画で読むには
文字で読むと長く感じる『イリアス』も、漫画なら英雄の涙や神々の迫力を一気に感じ取れます。Manga Portal の「イリアス ―アキレウスの怒り―」は全話無料で、会員登録もいりません。第1話を読んだら、ゼウスの約束がこの先の戦いをどう動かすのか、続きでぜひ確かめてみてください。
この話の登場人物
- アキレウス(あきれうす)
- ギリシャ軍最強の戦士で、海の女神テティスの子。褒美を奪われた怒りから戦いを離れる。
- アガメムノン(あがめむのん)
- ミュケナイの王で、ギリシャ遠征軍の総大将。王の力を見せつけるためにブリセイスを奪う。
- テティス(ててぃす)
- 海の女神でアキレウスの母。泣く息子のため、ゼウスの膝にすがって願う。
- ゼウス(ぜうす)
- オリュンポスの神々の王。テティスの願いに頷き、その頷きで天の山が揺れる。
- アテナ(あてな)
- ゼウスの娘の女神。剣を抜きかけたアキレウスの髪をつかんで止める。
- クリュセス(くりゅせす)
- アポロンの神官。娘を返してほしいと頼むが追い返され、アポロンに祈る。
よくある質問
アキレウスはなぜ怒ったの?
総大将アガメムノンに、皆の前で褒美のブリセイスを奪われたからです。当時、戦いの分け前は戦士の名誉の印だったので、それを取り上げられることは大きな侮辱でした。
『イリアス』とはどんな作品?
古代ギリシャの詩人ホメロスの作とされる長い叙事詩で、紀元前8世紀ごろに成立したと考えられています。トロイア戦争の十年目の数十日間を、アキレウスの怒りを中心に描いています。
『イリアス』にトロイの木馬は出てくる?
いいえ、『イリアス』には木馬の場面はありません。木馬の話は『オデュッセイア』で触れられるほか、後の時代の作品で詳しく語られています。
アキレス腱の話は『イリアス』に出てくる?
出てきません。かかとが弱点だったという話は、後の時代の伝承で知られるようになったものです。
ゼウスの「頷き」にはどんな意味があるの?
『イリアス』では、ゼウスが頷くことは取り消せない確かな約束の印とされています。テティスへの約束が、この後の戦いの流れを大きく変えていきます。
漫画を最初から読む(無料)