第1話食べたら、家に帰りたくなくなる実ロートパゴイ(ロートスの実を食べる人々)
シリーズ第1話。木馬の知恵でトロイア戦争に勝ったオデュッセウスは、「あと一杯だけ」と宴をやめない部下と、町を襲えと命じた自分の判断のせいで七十二人の仲間を失う。さらに嵐に流された先は、食べれば家に帰りたくなくなる甘い実の国だった。



















最後まで読んでくれてありがとう!
「誰にやられた?」「誰でもない!」——世界最古級のとんち。そして、勝った瞬間の一言がすべてを狂わせる。
シリーズ第1話。木馬の知恵でトロイア戦争に勝ったオデュッセウスは、「あと一杯だけ」と宴をやめない部下と、町を襲えと命じた自分の判断のせいで七十二人の仲間を失う。さらに嵐に流された先は、食べれば家に帰りたくなくなる甘い実の国だった。



















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「誰にやられた?」「誰でもない!」——世界最古級のとんち。そして、勝った瞬間の一言がすべてを狂わせる。
この話のもとになった神話
『オデュッセイア』は、トロイア戦争に勝った英雄オデュッセウスが、故郷のイタケー島へ帰るまでの長い旅をうたった古代ギリシャの詩です。原典では、この旅の話は、オデュッセウスが旅の途中でたどり着いたパイアケス人の国で、王アルキノオスの宴の席に招かれ、自分の口から思い出として語るという形になっています。
トロイアを出た一行は風に運ばれ、キコネス族の町イスマロスに着きます。オデュッセウスは町を攻め落とし、奪った財宝を、誰の取り分も足りなくならないよう公平に分けました。すぐに引き上げようと命じますが、部下たちは聞き入れず、浜辺で酒を飲み、羊や牛をつぶして宴を続けます。そのすきに、逃げた住民が内陸に住む仲間を呼び集め、翌朝、木の葉や花ほどの数の大軍で押し寄せてきました。一行は夕方には押し負け、それぞれの船から六人ずつが命を落とします。生き残った者たちは、死んだ仲間の名を一人ずつ三回呼んでから船を出しました。
この町には、アポローンの神官マローンが住んでいました。オデュッセウスたちはマローンを敬い、彼と妻子を守ります。そのお礼として、マローンは黄金、銀の大きな器、そして二十倍の水で割っても香るほど強い葡萄酒を十二の甕に入れて贈りました。この話は原典ではもっと後、一つ目の巨人キュクロプスの場面で語られます。
船を出すと、ゼウスが北風の嵐を送り、帆は裂けてしまいます。一行は岸に逃げこんで二昼夜を過ごし、ふたたび出発しました。しかしギリシャ南端のマレア岬を回るところで波と風に押し流され、九日間海をさまよい、十日目に「ロートパゴイ(ロートスを食べる人々)」の国に着きます。
オデュッセウスは、どんな人々が住んでいるかを調べるため、仲間二人と伝令一人を送り出しました。住民は三人を傷つけることはなく、ロートスを分けてくれます。ところが、蜜のように甘いその実を食べた三人は、報告に戻る気も、家に帰る気もなくしてしまいました。オデュッセウスは泣いていやがる三人を力ずくで船に連れ戻し、こぎ手の座席の下にしばりつけます。そしてほかの者が実を口にしないよう、急いで全員を乗せて出航しました。
なお、ロートスが実際にどの植物なのかは、原典には書かれていません。ナツメの仲間とする説など、昔からいろいろな説があります。
『オデュッセイア』の大きなテーマは「家に帰ること」です。ロートスの実は、武器も暴力も使わずに、帰りたいという気持ちそのものを消してしまいます。戦いの恐ろしさとはちがう、甘くて静かな危険がここで初めて描かれ、この後の旅でも、オデュッセウスは何度も「ここに留まりたい」と思わせる誘いに出会います。
イスマロスの場面では、命令を守らずに宴を続けた部下たちを、語り手のオデュッセウスがきびしく責めています。リーダーの判断と仲間の行動が、全員の運命を左右するという話としても読めます。死者の名を三回呼ぶ場面は、遠い土地で亡くなった仲間をとむらう習わしだったと考えられています。
作者はホメロスと伝えられていますが、実在した一人の詩人なのかについては議論があります。紀元前8世紀ごろに今の形にまとまったとする説が多く、長いあいだ口伝えで歌われてきた物語だと考えられています。
原典はオデュッセウス本人が語る回想ですが、漫画では出来事を起きた順に並べ、外から見た形で描いています。マローンの酒の話も、原典より前に移して、イスマロスの場面の中に入れています。
「七十二人の仲間を失った」という数は、十二隻の船から六人ずつという原典の記述をもとに計算したもので、原典の本文に七十二という数字は出てきません。また、部下の「あと一杯だけ」というせりふや宴の雰囲気、オデュッセウスが自分の判断を悔やむ気持ちの描き方は漫画の演出です。原典は部下を「大ばか者」と評しているだけで、部下の言い分は書かれていません。
ロートパゴイの姿や住まい、実の見た目、偵察の三人の名前や性格、三人を連れ戻すまでの流れも漫画の創作です。冒頭と最後に出てくる、妻ペーネロペーが機を織る場面も漫画で足したものです。原典では、ペーネロペーが布を織ってはほどく話は、帰郷の直前の数年間の出来事で、この時期のことではありません。
Manga Portal の『オデュッセイア ―二十年目の帰還―』は、全話無料、会員登録なしで読めます。第1話では、勝利の喜びが一夜でくずれていくイスマロスの戦いと、甘い実の国の不思議な静けさを絵で味わえます。あらすじを知ったうえで読むと、原典にある部分と漫画で広げた部分のちがいも楽しめるはずです。二十年におよぶ帰郷の旅の始まりを、ぜひ漫画でたどってみてください。
『オデュッセイア』第9歌に出てくる、ロートスという植物を食べて暮らす人々です。旅人に危害を加えることはなく、ロートスを分け与えます。
原典では、蜜のように甘い実を食べた者は、家に帰りたいという気持ちをなくし、その土地に留まりたがるようになります。ロートスがどの植物かは原典に書かれておらず、ナツメの仲間とする説などがあります。
原典には、それぞれの船から六人ずつが死んだと書かれています。船は十二隻なので合計七十二人と計算されますが、本文に七十二という数字そのものは出てきません。
トロイア戦争の後、英雄オデュッセウスが怪物や神々の怒りに苦しみながら、十年かけて故郷イタケーへ帰るまでを描いた古代ギリシャの叙事詩です。家で帰りを待つ妻ペーネロペーと息子テーレマコスの物語も描かれます。
ホメロスが作ったと伝えられています。ただし実在した一人の詩人なのかについては議論があり、長く口伝えで歌われてきた物語だと考えられています。