この話のもとになった物語
ほら吹き男爵の桜の木の鹿とは?あらすじと鴨で空を飛ぶ話を解説
ひとことで言うと: 「桜の木の鹿」は、弾を切らした男爵が桜の種を雄鹿の額に撃ち込み、一、二年後に頭から桜の木を生やしたその鹿と再会して仕留める、『ほら吹き男爵の冒険』の狩猟談です。男爵は、鹿の肉と桜のソースが一度に手に入ったと得意げに語ります。同じ狩猟談には、自分の目を殴って出した火花で銃を撃つ話や、鴨の群れに運ばれて空を飛ぶ話もあります。
原典のあらすじ①:目の火花の一発と、空飛ぶ鴨
『ほら吹き男爵の冒険』は、ミュンヒハウゼン男爵が自分の手柄を「私」の語りで話す、法螺話の連なりです。第2話のもとになったのは、英語版の系統で第3〜4章に当たる狩猟談です。章の番号や話の順番は版によって違います。また、それぞれは別の機会の出来事で、もともと一つの筋につながった話ではありません。
ある朝、男爵は窓の外の大きな池に野鴨がたくさんいるのを見つけ、銃をつかんで飛び出します。ところが勢い余って戸口の柱に顔をぶつけ、目から火が出ます。池のそばで構えると、その衝撃で銃の火打石がなくなっていました。当時の銃は、火花がなければ撃てません。そこで男爵は、さっき目から火が出たことを思い出し、銃を鴨に向けたまま自分の目を拳で殴ります。その火花で弾が飛び、一発で大量の水鳥を仕留めたというのです。
空を飛ぶ話は、主にビュルガーのドイツ語版の系統で語られる話です。弾が残り一発のとき、男爵は長い紐の先に脂身を付けて水に投げます。鴨が飲み込むと、脂身はつるりと体を抜け、次の鴨がまた飲み込みます。こうして鴨は紐に数珠つなぎになりますが、まだ生きていたので、羽ばたいて男爵ごと舞い上がります。男爵は上着の裾を櫂のようにして空を漕ぎ、家の上で鴨を一羽ずつ仕留めて高度を下げ、煙突から降りてきます。
原典のあらすじ②:頭に桜の木を生やした鹿
弾を使い切った男爵の前に、立派な雄鹿が現れます。鹿は平然とこちらを見ています。男爵は火薬の上に、急いで実を吸い取った桜の種をひとつかみ込めて撃ちました。種は角の間の額に当たり、鹿はよろめきますが、逃げていきます。
一、二年後、同じ森で男爵は、角の間に高さ10フィート(約3メートル)を超える桜の木を生やした鹿に出会います。前の一件を思い出した男爵は、これは自分の獲物だと考えて一発で仕留めました。木には実がたくさんなっていて、肉とソースが一度に手に入ったというのがオチです。なお、ここでの桜は花見の桜ではなく、さくらんぼの実がなる木のことです。
この話の前後で男爵は、狩人の守護聖人である聖フベルトゥスと、角の間に十字架を持つ鹿の伝説に触れています。そして、信心深い人が同じやり方で十字架を植えたのかもしれない、と冗談を言って話を締めます。
この物語の背景:実在の男爵と二人の書き手
ミュンヒハウゼン男爵には、18世紀のドイツに実在した同じ名前の貴族(1720〜1797年)というモデルがいます。ロシア軍に仕えた経験があり、話し上手だったと伝えられますが、本に書かれた冒険は史実ではありません。
本の形にしたのは、イギリスに渡っていたドイツ人のルドルフ・エーリヒ・ラスペで、1785年に英語で出版しました。翌1786年には詩人のゴットフリート・アウグスト・ビュルガーがドイツ語版を出し、新しい話も加わったため、版によって中身に違いがあります。
この物語のおもしろさ
男爵の話の笑いは、ありえないことを大まじめに語るところにあります。「目から火が出た」というたとえを本当の火として使い、桜の種を撃ったら本当に木が生える。言葉や理屈を一段ずつずらしていく楽しさです。当時の旅行記や武勇伝の大げさな語り口をからかったものだ、という見方もあります。
漫画版で変えたところ
漫画は、別々の狩猟談を「狩りの一日」の流れにまとめています。ただし桜の話は年月の経過が要なので、後日談として再会を描きます。酒席で男爵の話を聞き、全力で突っ込む若者テオは漫画オリジナルの人物です。男爵の顔立ちや服装、季節や景色も、原典に詳しい描写がないため漫画で作りました。
読みやすくするための変更もあります。鴨を一羽ずつ仕留めて降りる手順は別の描き方に置き換え、血や傷は描きません。狐を皮から追い出す話や、盲目の母豚を尾で連れ帰る話は入れず、聖フベルトゥスの冗談も省いています。
漫画で読むには
理屈がどんどんおかしくなる勢いや、鴨に吊られて空を飛ぶ爽快さ、森の奥から鹿が現れる場面は、絵で見るとまた違った驚きがあります。この漫画は全話無料で、会員登録なしで読めます。第1話の「馬が塔にぶら下がっていた」話から、男爵とテオの掛け合いを続けて楽しんでみてください。
この話の登場人物
- ミュンヒハウゼン男爵(みゅんひはうぜんだんしゃく)
- 主人公で語り手の猟師。窮地を奇抜な機転で切り抜け、ありえない話を事実として真顔で語ります。
- テオ(てお)
- 漫画オリジナルの聞き手の若者。原典には登場せず、読者の代わりに男爵の話に突っ込みます。
- 野鴨の群れ(のがものむれ)
- 一発で撃たれる獲物であり、紐につながれたまま男爵を空へ運ぶ鳥たちでもあります。
- 雄鹿(おじか)
- 額に桜の種を撃ち込まれて逃げ、一、二年後に頭から実のなる桜の木を生やして現れます。
- 聖フベルトゥス(せいふべるとぅす)
- 狩人の守護聖人。話題に上るだけで、角の間に十字架を持つ鹿に出会ったという伝説で知られます。
よくある質問
ほら吹き男爵の桜の木の鹿はどんな話?
弾がなくなった男爵が桜の種を鹿の額に撃ち込むと、一、二年後にその鹿が頭から桜の木を生やして現れます。男爵は鹿を仕留め、肉とソースが一度に手に入ったと語ります。
男爵はどうやって鴨で空を飛んだの?
脂身を付けた紐で鴨を数珠つなぎにしたところ、生きていた鴨が羽ばたいて男爵ごと舞い上がりました。男爵は上着の裾で空を漕いで家まで帰ります。主にビュルガーのドイツ語版の系統で語られる話です。
ミュンヒハウゼン男爵は実在の人物?
モデルになった同じ名前のドイツ貴族(1720〜1797年)は実在しました。ただし、本に書かれた冒険は創作で、史実ではありません。
『ほら吹き男爵の冒険』の作者は誰?
1785年に英語で出版したルドルフ・エーリヒ・ラスペと、1786年にドイツ語版を出して話を加えたゴットフリート・アウグスト・ビュルガーの二人が、よく知られた書き手です。
漫画は原典どおり?
目の火花、鴨の飛行、桜の木の鹿という筋は原典に基づいています。一方、狩りの一日という構成や聞き手のテオは漫画の創作で、残酷な場面は描き方を変えたり省いたりしています。
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