この話のもとになった物語
ほら吹き男爵 砲弾に乗る話と沼の話のあらすじ|ミュンヒハウゼンの大ぼら
ひとことで言うと: ほら吹き男爵の砲弾と沼の話は、敵の城塞を探ろうと砲弾に飛び乗った男爵が、帰り道がないと気づいて別の砲弾で戻り、別の折には沼に沈んで自分の髪を引っぱって馬ごと脱出する、『ほら吹き男爵の冒険』の物語です。偵察は失敗に終わるのに、男爵は堂々と自分の体験として語ります。ここでは、18世紀のビュルガーによるドイツ語版に収められた話を紹介します。
元の話のあらすじ① 砲弾に乗って敵の町へ
語り手は男爵本人です。トルコとの戦いに加わったときの手柄話として、自分が実際にやったことのように話します。男爵たちの軍はある町を取り囲んでいましたが、男爵は町の名前を覚えていないと言うので、どこの町なのかはわかりません。
元帥は、城塞の中の様子を正確に知りたがっていました。しかし見張りや守りの設備を抜けるのはほぼ不可能で、任せられる人もいません。そこで男爵は、役目への忠実さというより勇み立つ気持ちから、少し軽はずみに動きます。城塞へ向けて撃たれる大きな大砲のわきに立ち、飛び出した砲弾に飛び乗ったのです。
ところが飛んでいる途中で考え直します。中に入るのは簡単でも、出る方法がない。捕まればスパイとして絞首台に送られる、と気づいたのです。ちょうど城塞から味方の陣へ撃たれた砲弾がすぐそばを通ったので、男爵はそれに乗り移り、無傷で戻りました。ただし偵察は果たせず、敵の様子の報告もありません。
元の話のあらすじ② 沼から自分の髪で脱出
こちらは別の折の話です。男爵は馬に乗って沼を跳び越えようとします。ところが沼は思ったより広く、男爵は跳んでいる途中で空中で向きを変えて引き返し、助走を長く取ってやり直しました。二度目も届かず、対岸の手前で馬ごと落ちて、首まで沈んでしまいます。
そこで男爵は、束ねた自分の髪をつかみ、腕の力で引き上げました。膝で強く挟んでいた馬もいっしょに、沼から脱出します。もちろん現実にはありえない話で、それを胸を張って語るところがおかしさの中心です。
戦役の話はここで終わりません。男爵はこのあと捕虜となり、スルタンの奴隷に売られて蜂の番をさせられます。また、版によって章の分け方が違うため、この記事では章の番号は挙げません。
ほら話が生まれた時代と背景
男爵には実在のモデルがいます。18世紀のドイツの貴族で、ロシア軍に仕えてトルコとの戦いに加わり、のちに自分の領地で客に奇抜な話を聞かせたと伝えられています。このため、舞台を1735〜39年の露土戦争と考える説明もありますが、これは実在の人物の経歴などからの補足で、この話の本筋で語られることではありません。
本としては、ラスペが1785年に英語で出版したものが広まり、ビュルガーが1786年にドイツ語版を、1788年に増補版を出しました。砲弾と沼の二つの話は英語の初版にはなく、ビュルガーがドイツ語版で加えたという説もあります。
この話の面白さ
この話は、教訓を教えるというより、大ぼらそのものを楽しむ物語です。砲弾の話では、勇ましく飛び出した男爵が、空の上でようやく帰り道のことを考えます。しかも偵察に失敗したことまで平気で話します。かっこいい手柄話の形をしているのに、中身は「行って帰っただけ」というずれが笑いを生みます。
沼の話の面白さは、助けてくれる人も道具もなく、自分で自分を引き上げてしまうところです。「自分で自分を引き上げる」という発想は、英語の言い回しやコンピューター用語の「ブートストラップ」と結びつけて語られることがあります。ただし、その由来には諸説があり、この話で男爵がつかむのは靴ひもではなく髪です。
漫画版で変えたところ
原典のとおりなのは、砲弾に飛び乗ること、途中で帰り道がないと気づくこと、別の砲弾に乗り移って戻ること、偵察が果たせないこと、沼で髪をつかんで馬ごと脱出することです。話の骨組みは変えていません。
一方、次の部分は漫画の脚色です。男爵が語る場面の枠組み、砲弾の上から見下ろす景色、町や城塞の見た目、元帥とのやり取りのセリフ、帰ってきたあとの周りの反応、血を流さない喜劇としての描き方、服装や馬の毛色などがこれにあたります。町の名前は原典に出てこないため、外観は特定の町を写したものではありません。
沼の話を今回の締めに置いたのも、漫画としての構成です。原典では戦役の話がさらに続くので、この順番と区切りが原典どおりというわけではありません。
漫画で読むには
文章で読むと一瞬で過ぎる「帰りがない」と気づく間や、砲弾から砲弾へ乗り移る動きは、絵で見るとまた違ったおかしさがあります。そして誰もいない沼で、男爵は自分の髪を握ります。
漫画『ほら吹き男爵の冒険 ―十四夜の大ぼら―』第4話「砲弾に飛び乗って、帰りを忘れた」は、Manga Portal で読めます。全話無料で、会員登録もいりません。あらすじを知ったうえで、男爵の得意げな語りを絵で楽しんでみてください。
この話の登場人物
- ミュンヒハウゼン男爵(ミュンヒハウゼンだんしゃく)
- 語り手で主人公の騎兵将校で、砲弾にも沼にも飛び込んでいく行動の速さと、失敗も堂々と話す語り口が持ち味の人物。
- 元帥(げんすい)
- 町を包囲する軍の指揮官で、城塞の中の様子を知りたがったことが砲弾の話のきっかけになる人物。
- 男爵の馬(だんしゃくのうま)
- 沼を跳び越えようとして首まで沈み、男爵の膝に挟まれたまま一緒に引き上げられる馬。
- 敵の守備隊(てきのしゅびたい)
- 包囲された城塞を守るトルコ側の集団で、味方の陣へ撃った砲弾が、はからずも男爵の帰り道になる。
よくある質問
ほら吹き男爵の砲弾の話とはどんな話?
城塞の中を探るため、男爵が発射された砲弾に飛び乗る話です。途中で帰る方法がないと気づき、敵から飛んできた別の砲弾に乗り移って戻ります。無傷で帰れますが、偵察は果たせません。
ほら吹き男爵は沼からどうやって脱出した?
馬ごと沼に落ちて首まで沈んだ男爵は、束ねた自分の髪をつかんで腕の力で引き上げます。膝で挟んでいた馬もいっしょに抜け出します。現実にはありえない、大ぼらならではの解決です。
ほら吹き男爵は実在の人物?
モデルになった実在の男爵がいます。18世紀のドイツの貴族で、ロシア軍に仕えてトルコとの戦いに加わったと伝えられています。ただし、砲弾や沼の話は実際の出来事ではなく、物語として楽しむものです。
『ほら吹き男爵の冒険』の作者は誰?
広く知られるきっかけになったのは、ラスペが1785年に英語で出した本です。その後、ビュルガーが1786年にドイツ語版を、1788年に増補版を出しました。砲弾と沼の話は、ビュルガーが加えたという説もあります。
漫画版と原典はどこが違う?
砲弾に飛び乗る、別の砲弾で戻る、髪で沼から脱出するという筋は原典のとおりです。語りの枠組み、空からの景色、流血のない喜劇としての描き方などは漫画の脚色です。原典では戦役の話がこのあとも続きます。
漫画を最初から読む(無料)