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第6話怪物のはずの夫は、愛の神だったエロスとプシュケ(キューピッドとプシュケ)

シリーズ第6話。「あんたの夫は大蛇よ」という言葉に負けて、プシュケは灯りと刃物を手に眠る夫の顔を見る。そこにいたのは、ずっと彼女を愛してきた愛の神だった。けれど喜びの頂点で、灯りから一滴の油が落ちる。

19ページ全話無料・会員登録なし

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次回予告第7話 夫を探して ―神々の社―

神々は誰も、彼女を助けてくれなかった。それでも彼女は歩くのをやめなかった。

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この話のあらすじ

プシュケは、姿を見せない夫と宮殿で暮らしていました。夫は夜にだけやって来て、「決して私の姿を見ようとしてはいけない」と何度も言い聞かせていました。ところが姉たちは「あんたの夫は大きな蛇の怪物だ。灯りと刃物を用意して、眠っているあいだに首を切りなさい」と吹き込みます。 迷いに迷ったプシュケは、ある夜、隠しておいた灯りを取り出し、剃刀を手に寝台へ近づきます。灯りに浮かび上がったのは怪物ではなく、愛の神クピドその人でした。金色の髪はよい香りを放ち、首は白く、頬は薔薇色。肩には露にぬれたように白く光る翼があり、寝台の足もとには弓と矢筒が置かれていました。

原典エロスとプシュケ ―見てはならない夫― — ローマ · 2世紀後半(170年ごろ。北アフリカ出身のローマ帝国の作家アプレイウスの小説『変身物語(黄金のろば)』全11巻のうち、第4巻28節〜第6巻24節に挿入された物語)。物語の舞台は神話の時代のギリシャ・小アジアの王国

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この話のもとになった神話

エロスとプシュケのあらすじ|灯りで見た夫の正体と油の一滴

ひとことで言うと: 「エロスとプシュケ」の灯りの場面は、姉たちに「夫は怪物だ」とそそのかされたプシュケが、夜に灯りと剃刀を手に眠る夫を見てしまう物語です。そこにいたのは愛の神クピド(エロス)でしたが、灯りから落ちた一滴の油で目を覚ました神は、裏切りを責めて飛び去ります。出典は2世紀のラテン語の小説、アプレイウス『変身物語(黄金のろば)』第5巻です。

元の神話のあらすじ① 灯りが照らした夫の正体

プシュケは、姿を見せない夫と宮殿で暮らしていました。夫は夜にだけやって来て、「決して私の姿を見ようとしてはいけない」と何度も言い聞かせていました。ところが姉たちは「あんたの夫は大きな蛇の怪物だ。灯りと刃物を用意して、眠っているあいだに首を切りなさい」と吹き込みます。

迷いに迷ったプシュケは、ある夜、隠しておいた灯りを取り出し、剃刀を手に寝台へ近づきます。灯りに浮かび上がったのは怪物ではなく、愛の神クピドその人でした。金色の髪はよい香りを放ち、首は白く、頬は薔薇色。肩には露にぬれたように白く光る翼があり、寝台の足もとには弓と矢筒が置かれていました。原典の語り手は、神の姿を見て灯りの炎までいっそう明るくなった、と人のように語ります。

プシュケは青ざめて震え、ひざをつき、思わず剃刀を自分に向けそうになりますが、刃は手から落ちます。そして神の美しさを見つめるうちに、少しずつ気持ちを取り戻していきます。

元の神話のあらすじ② 油の一滴と、糸杉の上の別れ

好奇心をおさえきれないプシュケは、夫の矢を一本ぬき、指先で先を確かめます。力が入りすぎて矢は深く刺さり、小さな血のしずくがにじみました。こうして彼女は、知らないうちに「愛」そのものに恋をしてしまった、と原典は語ります。想いがあふれたプシュケは、夫が目を覚まさないかとおびえながら、何度も口づけをします。

そのとき、灯りから熱い油が一滴、神の右肩に落ちました。語り手は灯りを「大胆で向こう見ずだ」と責めています。やけどで跳ね起きたクピドは、約束が破られたことを知り、何も言わずに飛び立ちます。プシュケは夫の右脚にすがりついて雲の中まで運ばれますが、力つきて地面に落ちてしまいます。

クピドは彼女を見捨てず、近くの糸杉のこずえにとまって語りかけます。母ウェヌスには、君をみじめな男と結婚させるよう命じられていた。けれど私はそれにそむき、自分の矢で自分を傷つけて君を妻にした。それなのに君は私を獣だと思い、首を切ろうとした。姉たちにはすぐに報いを受けさせる。君への罰は、私が去ることだけだ――。そう告げて神は空高く飛び去り、プシュケは見えなくなるまでその姿を目で追って嘆きました。

この神話が伝えていること(文化・時代の背景)

この物語は、2世紀ローマ帝国の時代に北アフリカ出身の作家アプレイウスが書いた小説『変身物語』(『黄金のろば』とも呼ばれます)の中に出てきます。主人公がろばに変えられる長い物語の途中で、盗賊のすみかにいる老婆が、さらわれてきた娘をなぐさめるために語って聞かせる「物語の中の物語」です。

名前の意味にも注目されてきました。ギリシャ語で「プシュケ」は「たましい」、クピドは「愛」を意味するため、たましいが愛と結ばれるまでのたとえ話として読む説もあります。また、「見てはいけない」と言われたものを見てしまい、大切な相手を失う話は、日本のイザナギとイザナミや『鶴の恩返し』など世界各地にあり、よく比べられます。

漫画版で変えたところ

原典にあるのは、寝台と足もとの弓矢、神の髪や翼の描写、そしてプシュケが青ざめて震えたことなどです。漫画では、部屋や寝台、灯りの形と光の色、驚きから安心、ときめきへと変わるプシュケの表情を、コマを使ってくわしく見せています。灯りが人のようにふるまう語りは、炎がゆらいで明るくなる絵で表しました。

矢で指を傷つける場面は、小さな血のしずくだけにし、「恋の魔法にかかる」のではなく「すでにある愛に気づく瞬間」として描いています。プシュケが剃刀を自分に向けかける場面は描いていません。肩のやけどを赤い点と顔をしかめる表情で表すこと、翼の音や夜空、舞い落ちる羽根の演出も漫画の工夫です。糸杉の上の言葉は、意味を変えない範囲で短くしています。

物語は、見送って嘆くところで終わります。原典ではこのすぐあと、プシュケが川に身を投げ、川が彼女を岸へ戻す場面が続きますが、第6話では扱っていません。

漫画で読むには

文章で読むと短い場面ですが、灯りに照らされる神の美しさ、油が落ちる一瞬、空へ消えていく夫を見送るプシュケの姿は、絵で見るとぐっと胸に迫ります。Manga Portal の「エロスとプシュケ ―見てはならない夫―」は全話無料、会員登録なしで読めます。第6話で一度離ればなれになった二人がこの先どうなるのか、続きの話でぜひ確かめてみてください。

この話の登場人物

プシュケ(ぷしゅけ)
ある王の三姉妹の末娘で、姿の見えない夫の妻。姉たちにそそのかされ、禁じられていた夫の姿を灯りで見てしまう。
クピド(くぴど)/エロス
プシュケの夫で、愛の神。母ウェヌスの命令にそむいてプシュケを妻にしたが、油のやけどで目覚め、裏切りを責めて飛び去る。
ウェヌス(うぇぬす)
クピドの母で、愛と美の女神(ギリシャ名アフロディテ)。この場面には登場せず、クピドの言葉の中で語られる。
プシュケの姉たち
「夫は怪物だ」と吹き込み、首を切るようそそのかした二人の姉。クピドは皮肉をこめて「君のすばらしい相談役」と呼ぶ。
灯り(ランプ)
原典の語り手が人のように扱う小道具。熱い油を一滴落とし、二人の暮らしを壊すきっかけになる。

よくある質問

エロスとプシュケはどんな話?

人間の娘プシュケが、姿を見せない夫と暮らすうちに、禁じられていた夫の顔を見てしまう物語です。夫は愛の神クピド(エロス)で、約束を破ったことで二人は一度離ればなれになります。出典は2世紀のアプレイウス『変身物語(黄金のろば)』です。

エロス・クピド・キューピッドは同じ神?

同じ愛の神をさします。ギリシャ語ではエロス、ラテン語ではクピド(またはアモル)、英語ではキューピッドと呼ばれます。原典はラテン語なのでクピドと書かれています。

プシュケはなぜ夫の姿を見てしまったの?

姉たちに「夫は大蛇の怪物で、いつかあなたを食べてしまう」と吹き込まれ、灯りと剃刀で確かめるようそそのかされたからです。原典では、強い好奇心をもつ人物としても描かれています。

油の一滴が落ちたあと、どうなった?

右肩にやけどを負ったクピドは目を覚まし、裏切りを知って飛び去ります。糸杉の上から「君への罰は、私が去ることだけだ」と告げ、空のかなたへ消えていきました。

「見てはいけない」話は日本にもある?

あります。黄泉の国でイザナミの姿を見てしまうイザナギの話や、『鶴の恩返し』などがよく知られています。禁じられたものを見て大切な相手を失う話は世界各地にあり、比べて読まれることがあります。

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