この話のもとになった神話
エロスとプシュケのあらすじ|姉たちの嫉妬と夫の警告【第4話】 ひとことで言うと: エロスとプシュケ(キューピッドとプシュケ)の第4話にあたる場面では、黄金の宮殿に招かれた二人の姉が妹の幸せをねたみ、計略を練りはじめます。その夜、姿を見せない夫はプシュケに「姉たちに気をつけなさい」と警告し、お腹に子どもがいることを告げます。出典はアプレイウスの『黄金のろば(変身物語)』第5巻7〜13節です。
元の神話のあらすじ① 姉たちの来訪と黄金の宮殿 二人の姉は、妹が怪物の花嫁として岩山に置き去りにされたと思いこんでいました。姉たちはその岩山をたずね、胸をたたき、プシュケの名を呼んで泣き続けます。宮殿でその声を聞いたプシュケは外へ出て、もう泣かないでと呼びかけました。夫から姉たちに会う許しをもらっていたので、西風ゼピュロスに命じて、姉たちをそっと宮殿まで運ばせます。三人は抱き合い、うれし涙を流して再会を喜びました。
プシュケは、金と宝石でできた宮殿を案内しました。姿の見えない召使いたちが声だけで仕え、湯あみやごちそうの世話をします。ところが、もてなしを受けるほど、姉たちの胸には嫉妬が芽生えていきました。一人の姉は「この家の主人はだれ? どんな人?」としつこく聞いてきます。夫の正体は秘密です。プシュケはとっさに「ひげが生えはじめたばかりの若くて美しい人で、たいてい野山で狩りをしている」と作り話をしました。これ以上話すとぼろが出ると恐れたプシュケは、金細工や宝石をたくさん持たせて、姉たちを西風で送り返します。
元の神話のあらすじ② 姉たちの計略と夫の告白 帰り道、姉たちの嫉妬は一気に燃え上がりました。一人は、自分の夫は父親より年上で、頭はかぼちゃよりつるつる、家じゅうに鍵をかけて私を閉じこめる、とこぼします。もう一人は、夫が関節の病気で体が曲がっていて、薬を塗ってやる私は妻というより看病係だ、と嘆きました。二人は親にも何も話さず、もらった贈り物も隠すことに決めます。そして、妹を引きずり下ろす計画を練りはじめました。
その夜、夫はプシュケに警告します。「悪い雌狼のような姉たちが、私の顔を見るようにとあなたをそそのかしに来る。見てしまえば、もう二度と私には会えない」。そして、プシュケのお腹に子どもがいること、秘密を守れば神の子に、漏らせば人の子になることを告げました。プシュケは大喜びし、生まれる日を指折り数えます。
姉たちがまた近づいてくると、夫は「今日がいちばん危ない日だ。会ってもいけない」と重ねて止めました。それでもプシュケは泣いて頼みます。これまで約束は守ってきた、顔は見なくていいから、せめて姉たちに会わせてほしい、と。夫に抱きつき、甘い呼び名でいくつも呼びかけてすがりました。とうとう夫は折れ、もう一度西風に姉たちを運ばせると約束して、夜明け前に去っていきます。
この神話が伝えていること(時代と文化の背景) この話は、2世紀ごろのローマ帝国で、北アフリカ生まれの作家アプレイウスがラテン語で書いた小説『黄金のろば』(『変身物語』とも呼ばれます)に収められています。ろばに変えられた男が旅をする物語の途中で、盗賊にさらわれた娘をなぐさめるため、老婆が語って聞かせる昔話として出てきます。プシュケの夫は愛の神で、ローマではクピド(キューピッド)、ギリシャではエロスと呼ばれます。
第4話の中心にあるのは「嫉妬」と「秘密」です。姉たちも王の妻で、けっして貧しい暮らしではありません。それなのに、妹の幸せを目の前にしたとたん、自分の暮らしがみじめに見えてしまいます。人と比べてしまう心の怖さは、今の私たちにもよくわかるものです。また、「見てはいけない」という約束は、日本のイザナギとイザナミの話や『鶴の恩返し』にも通じる、世界の昔話によくある形です。プシュケという名前はギリシャ語で「魂」という意味なので、魂が愛と結ばれるまでの物語として読む解釈もあります。
漫画版で変えたところ 話の筋は原典のとおりですが、絵で見せるために足した部分があります。原典の西風は人の姿で描かれていないので、漫画でも人の形にはせず、花びらや布が舞う様子で表しました。宮殿の内装や湯殿、料理、贈り物の宝石のデザインも、漫画で考えたものです。
二人の姉の顔立ちや年の差、服装、性格の違いは、原典にほとんど書かれていないため、漫画で描き分けています。夫への愚痴は、かぼちゃ頭や薬を塗る様子を思い浮かべる、短くてコミカルな場面にしました。帰り道で姉たちの笑顔が消えていく表情や、作り話をするときのプシュケの動揺も、漫画の演出です。
夫は暗がりやシルエット、声だけで描き、顔は見せていません。妊娠を告げられたプシュケがそっとお腹に手をあてる仕草も、漫画で加えたものです。原典に書かれているのは、喜んで日と月を数えたところまでです。
漫画で読むには Manga Portal の『エロスとプシュケ ―見てはならない夫―』は全話無料で、会員登録なしで読めます。第4話では、姉を思うプシュケのやさしさが、かえって姉たちの瞳を少しずつ緑に染めていく様子を、表情の変化でていねいに描きました。プシュケは秘密を守りきれるのか。姉たちは何をたくらんでいるのか。続きはぜひ漫画で確かめてみてください。
この話の登場人物 プシュケ(Psyche) 王の三姉妹の末娘。姿の見えない夫と黄金の宮殿で暮らし、姉たちを心から愛してもてなす。 夫・クピド/エロス(Cupid/Eros) 夜だけやって来る姿の見えない夫で、正体は愛の神。この場面では名前を明かさず、姉たちへの警告と妊娠を告げる。 一人目の姉 異国の王に嫁いだプシュケの姉。年寄りでけちな夫への不満をこぼし、妹の幸せをねたむ。 もう一人の姉 王に嫁いだプシュケの姉。病気の夫の看病ばかりの暮らしを嘆き、もう一人の姉と組んで計略を練る。 西風ゼピュロス(Zephyrus) プシュケの命令で、姉たちを岩山と宮殿のあいだでやさしく運ぶ風。
よくある質問 エロスとプシュケはどんな話? 人間の娘プシュケが、顔を見てはいけないという約束で、姿の見えない夫(愛の神エロス)と暮らす物語です。嫉妬した姉たちにそそのかされ、プシュケが約束を破ったことから、二人は離ればなれになってしまいます。そこから、プシュケが夫を取り戻すための試練が始まります。
キューピッドとエロスは同じ神? 同じ愛の神です。ギリシャ神話ではエロス、ローマではクピド(英語でキューピッド)やアモルと呼ばれます。原典はラテン語で書かれているので、原典ではクピドという名前で出てきます。
プシュケの姉たちはなぜ嫉妬したの? 黄金の宮殿や見えない召使い、たくさんの宝物など、妹の豊かな暮らしを目の当たりにしたからです。二人とも王の妻でしたが、年寄りの夫や病気の夫に不満を抱えていたため、妹と比べて自分をみじめに感じてしまいました。
原典の『変身物語』は、オウィディウスの作品のこと? いいえ。この話は、2世紀のアプレイウスが書いた『変身物語』、別名『黄金のろば』に出てきます。オウィディウスにも同じ題名の有名な作品がありますが、こちらにエロスとプシュケの話は入っていません。
プシュケのお腹の子どもはどうなるの? 夫は「秘密を守れば神の子、漏らせば人の子になる」と告げます。物語の最後に娘が生まれ、「喜び」という意味のウォルプタスと名づけられます。
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