第2話「誰か」と母は鎌を差し出したクロノスとウラノス
シリーズ第2話。星の天ウラノスに子らを大地の奥へ押し込められた母ガイアは、自分の体から灰色のアダマスの鎌を作り「誰か」と呼びかける。兄も姉も黙りこむなか、いちばん若くて細い末っ子クロノスだけが前に出た。
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シリーズ第2話。星の天ウラノスに子らを大地の奥へ押し込められた母ガイアは、自分の体から灰色のアダマスの鎌を作り「誰か」と呼びかける。兄も姉も黙りこむなか、いちばん若くて細い末っ子クロノスだけが前に出た。
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この話のもとになった神話
この話の出典は、紀元前700年ごろにヘシオドスが古代ギリシア語で書いた詩『神統記』です。神々がどのように生まれ、天の支配者がどう代わっていったかを語る作品で、今回の場面は139〜182行にあたります。大地の女神ガイアは、天の神ウラノスとの間にたくさんの子を生みました。ここで新しく生まれるのは、額の真ん中に丸い目がひとつだけあるキュクロプスの3兄弟と、肩から百本の腕と五十の頭が生えた3兄弟です。
ところがウラノスは、子どもたちを生まれたときから憎んでいました。子が生まれるたびに大地の奥深くへ押し込み、光の世界へ出そうとしません。しかも、そのひどい行いを楽しんでいたのです。子らを体の中に詰めこまれたガイアは、内側から押しつぶされるような苦しさにうめき、ある計略を思いつきます。灰色の「アダマス」という素材を生み出して大きな鎌を作り、子どもたちに「父のひどい仕打ちに仕返しをしよう」と呼びかけました。
子どもたちはみな怖がって、誰ひとり声を出しません。ただひとり、ずる賢い知恵を持つクロノスが勇気を出して引き受けました。ガイアは大喜びで、クロノスを待ち伏せの場所に隠し、ぎざぎざの刃の鎌を渡して、計画をすべて教えます。やがてウラノスが夜を連れてやって来て、ガイアの上に覆いかぶさりました。その瞬間、クロノスは隠れ場所から手を伸ばし、鎌で父の生殖器をすばやく切り落として、後ろへ投げ捨てたのです。
ガイアは大地そのものである巨大な女神で、計画を考えた張本人です。子どもたちに話しかけるときは心を痛めながらも励まし、クロノスが名乗り出ると心から喜びました。ウラノスは天そのものである偉大な神ですが、わが子を閉じ込めて喜ぶ冷酷な父として描かれます。
クロノスは「曲がった知恵の持ち主」という意味の言葉で呼ばれる神です。この場面のすぐ前(137〜138行)で、ガイアの子のうちいちばん年下で、いちばん恐ろしく、父を憎んでいたと紹介されています。母の呼びかけに黙りこんだ兄や姉たちは、のちに「ティタン」と呼ばれる神々ですが、この呼び名は事件の後にウラノスがつけたものです。
この神話は後の時代にさまざまな形で語り直されたため、原典にない説明が混ざって広まっています。たとえば「ウラノスは子どもたちをタルタロス(地の底の暗い場所)に投げ込んだ」という話は、アポロドロスの『ビブリオテケ』など後代の書物に見られるもので、ヘシオドスのこの場面では「大地の奥に隠した」とだけ書かれています。
また「ウラノスは子に王の座を奪われるという予言を恐れた」という説明もよく見かけますが、この場面の原典では、ただ初めから子を憎んでいたとされるだけです。「この事件で天と地が分かれた」という読み方も、研究者による解釈のひとつという説があり、原典の該当部分にはっきり書かれているわけではありません。
『神統記』は、天の王座がウラノスからクロノス、そしてゼウスへと三代にわたって移っていく物語です。今回の話はその最初の交代劇で、「父が子を押さえつけ、子が父を倒す」という形は、のちのクロノスとゼウスの物語でもくり返されます。
注目したいのは、ガイアとクロノスがどちらも「先にひどいことをしたのは父のほうだ」という同じ理由を口にする点です。母と子の言葉が重なることで、この反逆は仕返しとして正当化されています。また、閉じ込められたキュクロプスがのちにゼウスへ雷を与えると前もって語られており、次の世代の戦いへの伏線にもなっています。
原典では、子どもたちが黙りこむ場面は「恐れて誰も声を出さなかった」という一文だけです。漫画では、兄や姉がそれぞれ何を思い、どんな顔をしていたかをふくらませています。ガイアとクロノスの会話も、原典の短いせりふを軸にして、やり取りを書き足しています。
クロノスを「若くて細い」姿で描くこと、アダマスの色や手ざわり、鎌の細かな形、待ち伏せの場所がどこか、大地の奥がどんな世界かといった点も、原典には書かれていない漫画の表現です。原典が一行で一気に済ませる切断の場面は、影と暗転で表しています。ウラノスの叫びなどの反応も、この範囲の原典にはないため、描かれる場合は創作となります。
文字で読むとほんの数十行の出来事ですが、漫画では、母の呼びかけに誰も答えない重い沈黙や、末っ子がひとり前へ出る瞬間をじっくり味わえます。『ギリシャ神話 ―天の王座をめぐる三代―』はManga Portalで全話無料、会員登録なしで読めます。投げ捨てられたものから何が生まれるのか、続きは次の話でどうぞ。
ウラノスが子どもたちを大地の奥に閉じ込め、母ガイアを苦しめていたからです。ガイアの呼びかけにクロノスだけが応え、先にひどいことをしたのは父のほうだと言って計画を引き受けました。
『神統記』では、ガイアが生み出した灰色の「アダマス」という素材で作られています。大きく長く、ぎざぎざの刃がついていたと書かれていますが、アダマスが具体的にどんな物質かははっきりしていません。
ヘシオドスの原典では、子どもたちを初めから憎んでいたからとだけ書かれています。「王の座を奪われる予言を恐れた」という説明は、後の時代の語り直しで広まったものです。
ガイアとウラノスの子で、額の真ん中に丸い目がひとつだけある3兄弟です。名前は雷鳴・稲妻・閃光を意味し、のちにゼウスに雷を与える工匠として知られています。
紀元前700年ごろにヘシオドスが書いた古代ギリシア語の詩『神統記』です。この場面は139〜182行に書かれています。