第5話この子だけは、呑ませないクロノスとレア
第5話。父を倒して王になったクロノスは、ひとつの予言を恐れ、生まれた五人の子を次々に呑みこむ。悲しみの底で六人目を宿した母レアは、大地と天に知恵を求め、大地が差し出したひとつの石を胸に刻んで、夜の海を越える。「今度こそ守る」と決めて。
ほかの言語で読む:English
最後まで読んでくれてありがとう!
第5話。父を倒して王になったクロノスは、ひとつの予言を恐れ、生まれた五人の子を次々に呑みこむ。悲しみの底で六人目を宿した母レアは、大地と天に知恵を求め、大地が差し出したひとつの石を胸に刻んで、夜の海を越える。「今度こそ守る」と決めて。
ほかの言語で読む:English
最後まで読んでくれてありがとう!
この話のもとになった神話
「クロノスの子呑み」は、古代ギリシャの詩人ヘシオドスが紀元前700年ごろにまとめた『神統記』に出てくる話です。『神統記』は、神々がどう生まれ、誰が世界の王になったかを語る長い詩で、この場面は453〜467行にあたります。
クロノスは父ウラノスを倒し、神々の王になっていました。妻レアとのあいだには、ヘスティア、デメテル、ヘラ、ハデス、ポセイドン、ゼウスの6柱の子が生まれます。ところがクロノスは、ガイアとウラノスから、おまえは強いけれど、いずれ自分の子に倒される定めだと告げられていました。王の位をほかの誰にも渡したくないクロノスは、油断なく見張りを続け、子が生まれて膝もとに来るたびに呑みこんでしまいます。レアは、忘れることのできない深い悲しみに沈みました。
詩の続き(468行以降)では、末の子ゼウスを産む時が近づいたレアが、自分の父母であるガイアとウラノスに助けを求めます。二人は願いを聞き入れて、これから起こる運命をレアに明かし、彼女をクレタ島のリュクトスへ送りました。そしてガイアが、生まれてくる赤子を広いクレタで育てるために引き受けます。
クロノスは、偉大で力の強い神々の王です。ずる賢い知恵の持ち主とも呼ばれ、王の位を守ることに強くこだわります。レアはその妻で、6柱の子の母です。子を次々に奪われ、深く嘆きます。
ガイア(大地)とウラノス(天)は、クロノスとレアの両親です。クロノスに運命を告げ、のちにはレアの願いを聞いて策を授けます。
呑まれる子どもたちについて、原典はほとんど名前を挙げるだけです。ただ、ヘラは「金のサンダルの」、ハデスは「地の下に住む容赦ない心の」神、ポセイドンは名前の代わりに「大地をゆるがす者」と呼ばれています。どれも、大人になってからの姿を先取りした呼び名です。ゼウスは「知恵ある、神々と人間の父」とされ、予言のなかでもすでに名前が出てきます。
『神統記』の大きなテーマは、天の王座が三代にわたって受けつがれていくことです。初代のウラノスは子どもたちを大地の中に押しこめ、その子クロノスに倒されました。そのクロノスもまた、わが子を呑みこんで閉じこめようとします。親が子に王の座を奪われることを恐れ、同じ失敗をくり返すという形になっているのです。
予言を知り、どれほど用心しても、定めからは逃げられない。この話は、そうした運命の重さと、最後には知恵にすぐれたゼウスが王になるという結末へ向かう道すじを示しています。
なお、レアが子を産む場面で使われる言葉には「征服されて」とも「結ばれて」とも取れる意味があり、読み方が分かれます。また、子どもたちの名前の並びをそのまま生まれた順とする説もありますが、原典がはっきり書いているのはゼウスが末っ子だということだけです。
原典では子どもたちが呑まれる場面は一文でまとめて語られ、一人ひとりの描写はありません。漫画では、赤子たちの姿や泣き声、呑まれる瞬間を一話ずつ描いています。ヘラのサンダルやポセイドンの轟きといった原典の呼び名を、未来の姿のヒントとして使っているのも漫画の工夫です。
レアの心の移り変わりやクロノスの表情、予言を受けた場面の様子、呑まれた子らがお腹の中で生きている描写も漫画の創作です。原典では、子どもたちはのちに吐き出されて戦いに加わるので、生きていたという描き方は原典と食いちがいません。
レアがゼウスを身ごもってすぐに決意する流れや、自分で夜の海を渡る場面も漫画の構成です。原典では、レアが助けを求めるのは出産が近づいてからで、夜の闇を通って赤子を運んだのがガイアなのかレアなのかもはっきりしません。大地が差し出した石も漫画の演出ですが、原典ではこの先、産着にくるんだ石がクロノスに渡される場面が語られます。その展開への伏線と考えると楽しめるでしょう。
第5話「この子だけは、呑ませない ―クロノスとレア―」は、三代にわたる王座争いの真ん中にあたる大事な一話です。原典では短い数行で終わる母の悲しみと決意を、漫画ではじっくり描いています。Manga Portalの『ギリシャ神話 ―天の王座をめぐる三代―』は全話無料で、会員登録もいりません。ウラノスの時代から順に読むと、クロノスがなぜここまで子を恐れたのかが、より深くわかります。
ガイアとウラノスから、いずれ自分の子に倒される定めだと告げられていたからです。王の位をほかの誰にも渡さないために、子が生まれるたびに呑みこみました。
ヘスティア、デメテル、ヘラ、ハデス、ポセイドンの5柱です。6番目のゼウスだけが、母レアたちの策によって呑まれずにすみました。
出産が近づいたレアが父母のガイアとウラノスに助けを求め、クレタ島のリュクトスへ送られました。ガイアが赤子を引き受けて育て、クロノスには産着にくるんだ石が渡されたと『神統記』は語ります。
紀元前700年ごろの詩人ヘシオドスの『神統記』です。この場面は453〜467行で、レアがクレタへ向かう続きは468行以降に書かれています。