第6話聞いたら死ぬ歌を、聞きたい王セイレーン
シリーズ第6話。どんな答えでも差し出す歌を「聞きたい」と望んだオデュッセウスは、歌に負ける自分を最初から見越して、仲間に自分を帆柱へ縛らせる。歌に心を奪われて「ほどけ!」と叫ぶ王を、耳をふさいだ仲間はさらに縄で締め上げる。前もって交わした約束が、王を守る。



















最後まで読んでくれてありがとう!
英語のことわざ「between Scylla and Charybdis(前門の虎、後門の狼)」の元ネタ。
シリーズ第6話。どんな答えでも差し出す歌を「聞きたい」と望んだオデュッセウスは、歌に負ける自分を最初から見越して、仲間に自分を帆柱へ縛らせる。歌に心を奪われて「ほどけ!」と叫ぶ王を、耳をふさいだ仲間はさらに縄で締め上げる。前もって交わした約束が、王を守る。



















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英語のことわざ「between Scylla and Charybdis(前門の虎、後門の狼)」の元ネタ。
この話のもとになった神話
ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』は、トロイア戦争に勝った英雄オデュッセウスが、故郷イタケーへ帰るまでに十年さまよう物語です。セイレーンの場面は第12歌にあり、冥界から戻った一行が、次の危険な海へ向かうところで起こります。
この冒険は、オデュッセウス本人がパイエーケス人の王アルキノオスたちに「自分の身に起きたこと」として語る形で書かれています。つまり、聞く人の前で英雄自身が振り返る思い出話でもあります。
冥界から戻った一行のもとへ、女神キルケーが侍女たちにパンや肉、赤い酒を運ばせてやって来ます。生きたまま冥府へ行った彼らを、キルケーは「ふつうの人は一度死ぬのに、二度死ぬ者たち」と呼び、一日じゅう食べて休むようにすすめました。
その夜、キルケーはオデュッセウスだけを呼び、この先の航路を教えます。セイレーンの歌を聞いた者は家に帰れず、二人のまわりには人の骨が山になっている。だから仲間の耳は蜜蝋でふさげ。もし自分が聞きたいなら、帆柱に体を縛らせ、「ほどけ」と言ったらもっと縛らせよ、と。さらに、打ち合う岩、怪物スキュラと渦潮カリュブディス、太陽神ヘーリオスの牛についても警告しました。
翌朝、オデュッセウスは予言を自分だけの秘密にせず、仲間に伝えます。島に近づくと急に風がやみ、海は凪になりました。彼は蝋のかたまりを剣で切ってこね、仲間一人ひとりの耳に塗ります。仲間は彼を帆柱に縛り、櫂で漕ぎ出しました。
セイレーンは船に気づき、「名高いオデュッセウスよ、船を止めて聞きなさい。トロイアで起きたことも、地上のことも、私たちはすべて知っている」と歌います。心を奪われたオデュッセウスは、眉で合図してほどけと命じました。しかし仲間のペリメーデースとエウリュロコスが立ち上がり、縄を増やしてさらにきつく縛ります。歌が聞こえなくなると、仲間は耳の蝋を外し、彼をほどきました。
注目したいのは、セイレーンの誘い文句が「楽しさ」ではなく「知識」だったことです。戦争の真実も、世界で起こることもすべて教えてあげる、という言葉は、知りたい気持ちの強いオデュッセウスにとって最も危ない誘惑でした。
もう一つの読みどころは、彼が「自分は歌に負ける」と最初から認めていた点です。意志の強さで耐えるのではなく、負けたときのために前もって仲間と約束し、自分を縛らせた。弱さを知ったうえで備える知恵こそが、彼を「知略の英雄」と呼ばせる理由の一つだという読み方もあります。
なお、原典にはセイレーンの姿は書かれていません。後の時代の壺絵などでは、鳥の体に女性の顔を持つ姿で描かれることが多くなりました。英語で警報器を意味する「サイレン」の語源も、このセイレーンだとされています。
筋の流れ(キルケーの忠告、耳の蝋、帆柱に縛る、仲間がさらに縛る)は原典に沿っています。一方、原典に書かれていない部分は漫画として描き足しています。
たとえば、歌を聞くオデュッセウスが見る幻です。トロイアの戦場や、家に帰る幻は漫画の演出ですが、歌の中身が「トロイアのことをすべて知っている」なので、原典の流れに合わせた工夫です。また、原典では眉で合図するだけですが、漫画では「ほどけ!」と叫ばせ、その声が耳をふさいだ仲間に届かない場面として描いています。セイレーンの外見、宴の料理、仲間の顔なども自由にデザインしました。数は原典の書き方に合わせて二人にしています。
Manga Portalの『オデュッセイア ―二十年目の帰還―』第6話「聞いたら死ぬ歌を、聞きたい王」では、この場面を漫画で読めます。縄をきしませて叫ぶ王と、耳をふさいで漕ぎ続ける仲間の対比は、絵で見るといっそう迫力があります。全話無料・会員登録なしで読めるので、あらすじを読んで気になった人は、ぜひ漫画でも確かめてみてください。
ギリシャ神話に登場する、美しい歌で船乗りを惑わし破滅させる存在です。ホメロス『オデュッセイア』では二人と読め、姿は書かれていません。後の時代の美術では、鳥の体に女性の顔の姿で描かれることが多くなりました。
セイレーンの歌を聞きたかったものの、聞けば自分が歌に負けるとわかっていたからです。女神キルケーの忠告どおり、仲間に縛らせ、「ほどけ」と言ったらさらに縛るよう前もって約束しました。
オデュッセウスが蜜蝋を剣で切ってこね、仲間一人ひとりの耳に塗ってふさいだからです。歌が聞こえなくなると、仲間は自分たちで蝋を外しました。
第12歌です。冥界から戻ったあと、キルケーの忠告を受けて船出する場面で語られます。このあと一行はスキュラとカリュブディスの難所へ向かいます。
はい。警報器などを意味する英語の「サイレン(siren)」は、ギリシャ神話のセイレーンが語源だとされています。