第1話王女はカエルにキスしないカエルの王さま(鉄のハインリヒ)
グリム童話シリーズ第1話。泉で軽く交わしたカエルとの約束が、王女の食卓まで追いかけてくる。魔法を解いたのはキスではなく、怒りの一投だった——そして遠い国で主人を待ち続けた家来の胸の鉄の輪が、喜びではじける。



















最後まで読んでくれてありがとう!
オオカミの『変装』は3段階。チョーク、粉、そして……子どもが本当に怖がった『だまされ方』の原型。
グリム童話シリーズ第1話。泉で軽く交わしたカエルとの約束が、王女の食卓まで追いかけてくる。魔法を解いたのはキスではなく、怒りの一投だった——そして遠い国で主人を待ち続けた家来の胸の鉄の輪が、喜びではじける。



















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オオカミの『変装』は3段階。チョーク、粉、そして……子どもが本当に怖がった『だまされ方』の原型。
この話のもとになった神話
「カエルの王さま」は、グリム兄弟が集めた昔話集『子どもと家庭のメルヒェン集』の最初に置かれたお話で、作品番号は KHM 1 です。正式な題は「カエルの王さま、または鉄のハインリヒ」といいます。舞台は、願いごとがまだかなった遠い昔です。ある王の末の娘は、太陽でさえ驚くほど美しい王女でした。王女は暑い日になると、城の近くの暗い森へ出かけ、古い菩提樹の下にある泉のそばで、お気に入りの金の鞠を投げて遊んでいました。
ある日、鞠が泉に落ちて、底の見えない深い水に沈んでしまいます。泣いている王女の前に、一匹のカエルが顔を出しました。王女は服や宝石、金の冠をあげると言いますが、カエルはどれもいらないと断ります。かわりに、自分を遊び相手にして、食卓で同じ皿から食べさせ、同じベッドで寝かせてほしいと頼みました。王女は「カエルが人間の仲間になれるはずがない」と思いながら約束します。ところが鞠を受け取ると、カエルを置いて城へ走って帰ってしまいました。
次の日、王女が王や家臣たちと食事をしていると、カエルが城の扉をたたきます。わけを聞いた王は、約束は守らなければならない、困ったときに助けてくれた相手を軽く扱ってはいけない、と王女に命じました。王女はしぶしぶカエルと一緒に食べ、寝室まで連れていきます。ところがカエルに「ベッドに上げてくれないと、お父さんに言いつけるよ」と言われ、王女は激しく怒りました。そしてカエルを壁に思いきり投げつけたのです。すると落ちてきたのは、美しく優しい目をした王子でした。王子は悪い魔女に魔法をかけられていて、救い出せるのはこの王女だけだったのです。
翌朝、八頭の白馬が引く馬車が王子を迎えに来ます。馬車の後ろには、王子の家来である忠臣ハインリヒが立っていました。ハインリヒは主人がカエルにされたとき、あまりの悲しみで胸が張り裂けないよう、心臓に三本の鉄の輪をはめていました。帰り道、その輪が喜びのあまり、一本、また一本とはじけ飛んでいきます。物語はここで終わります。
原典には、登場人物の名前がほとんど出てきません。王女は「末の王女」、父は「王」とだけ書かれています。名前を持っているのは、副題にもなっている家来のハインリヒだけです。カエルは宝物を欲しがらず、王女の仲間になることだけを求めます。扉の前で歌うように呼びかけたり、父に言いつけると言って王女に迫ったりと、なかなかしたたかな相手として描かれています。魔法をかけた魔女は、王子の話の中で一度触れられるだけで、姿もわけも書かれていません。
「王女がカエルにキスをすると王子に戻る」という話を思い浮かべる人は多いでしょう。けれども、グリム兄弟の決定版(1857年の第7版)にキスの場面はありません。魔法が解けたきっかけは、王女の怒りの一投です。キスで戻る形は、後の時代の絵本や映画などで広まったものだと考えられています。
王女も、最初から最後まで「心やさしいお姫さま」として描かれているわけではありません。約束を軽く考えて逃げ、カエルを怖がって泣き、最後には怒りを爆発させます。そんな王女が魔法を解くところに、この昔話ならではの面白さがあります。
物語の中で教えをはっきり言葉にするのは、父の王です。言った約束は守ること、助けてくれた相手への恩を忘れないこと。この二つが、昔話を聞く子どもたちへの教えとして語られています。一方で、王女が言いつけに逆らった瞬間に魔法が解けるので、教えどおりには進まない不思議さも残っています。この結末をどう読むかには、さまざまな解釈があります。
グリム兄弟のヤーコプとヴィルヘルムは、ドイツのカッセルで暮らしていたころに昔話を集め、1812年に昔話集の第1巻を出しました。その後も版を重ねるたびに文章を書き直しています。このお話は、そのどの版でも最初に置かれてきました。ハインリヒの鉄の輪は、悲しみや忠実さを目に見える形で表したものです。主人が救われた喜びで輪がはじける場面は、読んだ人の心に長く残ります。
漫画版でも、物語の大きな流れは原典のままです。魔法を解くのはキスではなく、怒りの一投です。ただし原典に書かれていない部分は、漫画で絵にするために補っています。王女や王子の見た目、城や森や泉の様子、カエルの姿や表情、ハインリヒの年齢や外見、鉄の輪の描き方などです。名前、カエルにされていた期間、魔女の姿のように、原典にない設定も漫画の創作です。
話のはじめと終わりには、グリム兄弟が昔話を集める場面を加えています。兄弟の生まれた年や、昔話集を出した年は歴史の事実に合わせました。けれども、このお話を兄弟に誰が語ったのかは確かなことがわかっていないので、決めつけて描くことはしていません。
Manga Portal の『グリム童話 ―森の語り部たち―』第1話「王女はカエルにキスしない」では、ここで紹介した物語を漫画で読むことができます。カエルが扉をたたく場面の不気味さや、鉄の輪がはじける瞬間の迫力は、絵で見るとまた違った味わいがあります。全話無料で、会員登録もいりません。あらすじを知ったあとに、ぜひ漫画でも読んでみてください。
グリム童話の原典では、キスの場面はありません。王女が怒ってカエルを壁に投げつけると、カエルは王子の姿に戻ります。キスで戻る形は、後の時代の絵本や映画などで広まったものだと考えられています。
カエルにされた王子に仕えていた、忠実な家来のことです。悲しみで胸が張り裂けないよう、心臓に三本の鉄の輪をはめていました。主人が元に戻った喜びで、帰り道にその輪がはじけ飛びます。
グリム兄弟の昔話集『子どもと家庭のメルヒェン集』の第1番(KHM 1)です。昔話集の版が変わっても、このお話はずっと最初に置かれてきました。
父の王が言う「約束は守らなければならない」「助けてくれた相手を軽く扱ってはいけない」という二つが、物語の教えとして語られています。ただし、魔法が解けるのは王女が怒ったときなので、結末の読み方にはいろいろな説があります。