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第9話四十二夜、戸を開けてはいけない雨月物語「吉備津の釜」

シリーズ第9話。婚礼の前の占いで、釜は鳴らなかった。夫にだまされて真心を踏みにじられた妻イソラは、四十二夜のあいだ、夫ショウタロウがこもる戸の外で待ちつづける。

19ページ全話無料・会員登録なし

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次回予告第10話 道成寺 ―蛇となった女―

「帰りに必ず寄ります」――その嘘が、彼女を大蛇に変えた。千年前の日本で語られた、“裏切り”の最も激しい結末。

この作品はここまで。次はこちらもどうぞ

この話のあらすじ

舞台は吉備国(いまの岡山県)。井沢庄太夫の息子・正太郎は農業をきらい、酒と女遊びにふけっていました。両親は「よい嫁をもらえば落ち着くだろう」と考え、吉備津神社の神主・香央造酒の娘、磯良との縁談を進めます。香央家が吉凶を占う御釜祓いをすると、吉なら牛がほえるように鳴るはずの釜が、虫の声ほどの音も立てませんでした。それでも香央の妻がとりなし、婚礼は行われます。 磯良は朝早くから夜遅くまで舅と姑に仕え、夫にも心から尽くしました。ところが正太郎は鞆の津の遊女・袖を身請けして、家に帰らなくなります。怒った父が正太郎を閉じこめると、磯良はかえって夫の世話をし、袖にまでこっそり物を送りました。

原典恋と妖し ―大人の古典夜話― — 日本 · 平安時代(10〜12世紀。伊勢物語・源氏物語・和泉式部日記・今昔物語集)と江戸時代(1776年。雨月物語)。根拠にする刊本は1610〜1930年の刊行

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この話のもとになった神話

吉備津の釜のあらすじ|雨月物語・磯良と正太郎の怪談とは

ひとことで言うと: 「吉備津の釜」は、上田秋成の『雨月物語』(1776年刊)巻之三に収められた怪談です。夫・正太郎にだまされて裏切られた妻・磯良が怨霊となり、四十二日の物忌みでこもる夫を毎夜おとずれ、最後の夜に戸を開けた正太郎は姿を消してしまいます。

「吉備津の釜」のあらすじ(原典)

舞台は吉備国(いまの岡山県)。井沢庄太夫の息子・正太郎は農業をきらい、酒と女遊びにふけっていました。両親は「よい嫁をもらえば落ち着くだろう」と考え、吉備津神社の神主・香央造酒の娘、磯良との縁談を進めます。香央家が吉凶を占う御釜祓いをすると、吉なら牛がほえるように鳴るはずの釜が、虫の声ほどの音も立てませんでした。それでも香央の妻がとりなし、婚礼は行われます。

磯良は朝早くから夜遅くまで舅と姑に仕え、夫にも心から尽くしました。ところが正太郎は鞆の津の遊女・袖を身請けして、家に帰らなくなります。怒った父が正太郎を閉じこめると、磯良はかえって夫の世話をし、袖にまでこっそり物を送りました。正太郎は「袖を故郷へ帰してやりたい」とうそをつき、磯良に衣服や道具を売らせて金を出させると、そのまま袖と逃げてしまいます。

だまされたと知った磯良は、深く恨んで病の床につきます。一方、播磨の荒井の里で袖のいとこ・彦六の隣に住みはじめた二人ですが、袖はまもなく物の怪に憑かれたように苦しみ、七日ほどで亡くなります。墓参りを続ける正太郎は、ある女に誘われてその主人の家を訪ね、屏風の陰から現れた青ざめた磯良の顔を見て気を失います。

陰陽師は「四十二日のあいだ戸を閉じてこもり、決して外に出るな」と命じ、朱の札を授けます。夜ごと戸の外から「ああ憎い、ここにも札が」という声がし、窓が赤く光ります。そして最後の夜、空が白んだのを見て「もう明けた」と戸を開けた正太郎は、叫び声とともに消えました。明るく見えたのは月の光だったのです。あとには壁の血と、軒にかかった髻(まげ)だけが残っていました。

主な登場人物

中心にいるのは、誠実に尽くした妻・磯良と、その真心を踏みにじった夫・正太郎です。正太郎は身勝手な男ですが、袖の死を嘆いて墓参りを続ける情のある面も描かれています。ほかに、二人を助ける彦六、占いで婚礼をためらう磯良の父・香央造酒、婚礼を押し進める磯良の母などが登場します。

鳴らない釜と四十二夜 ― 物語の背景

題名の「釜」は、吉備津神社に伝わる、釜の鳴る音で吉凶を占う神事をもとにしています。物語では、この占いが最初に不吉を告げていたのに人々が聞き流したことが、後の悲劇へつながっていきます。「しるしを無視した結果」という怖さが、物語全体を引きしめています。

原典の冒頭では、語り手が「嫉妬深い妻はやっかいだが、夫が身を正していれば害は避けられる」という教訓を述べています。ただ、本文を読むと、責められるべきは裏切った夫の側だと感じる人が多いでしょう。中国の怪談の影響を受けているという説もありますが、「最後の一夜で戸を開けてしまう」結末の緊張感は、日本の怪談の名作として今も語りつがれています。

漫画版で変えたところ

漫画では、原典が短く書くだけの場面をふくらませています。たとえば、磯良が「だまされた」と知る瞬間の表情や心の声、病の床での様子、正太郎と袖の播磨での暮らし、墓地の季節や天気、正太郎と彦六の壁越しの会話などは漫画の創作です。墓地で正太郎を誘う侍女も、原典では名前がありません。

いちばん大きな違いは結末です。原典では血の跡と髻がはっきり書かれますが、漫画では開いたままの戸口や消えかけた灯、軒に揺れる影で、何が起きたかを想像させる形にしました。正太郎が襲われる瞬間は、原典と同じく描いていません。一方で、「ここにも貼ってある」という恨みの声と、窓の赤い光は原典どおり残しています。冒頭の教訓の前置きは省いています。

漫画で読むには

Manga Portal の「恋と妖し ―大人の古典夜話―」第9話「四十二夜、戸を開けてはいけない」で、この物語を漫画で読めます。全話無料で、会員登録もいりません。鳴らない釜の静けさや、戸一枚をへだてた夜の怖さを、絵でじっくり味わってみてください。

この話の登場人物

磯良(いそら)
吉備津神社の神主の娘で正太郎の妻。誠実に尽くしたのに裏切られ、怨霊となって夫の前に現れる。
井沢正太郎(いさわ しょうたろう)
酒と女遊びに溺れる夫。妻をだまして金を出させ、遊女の袖と逃げる。
袖(そで)
鞆の津の遊女。正太郎と播磨へ逃げるが、物の怪に憑かれたように病んで亡くなる。
彦六(ひころく)
袖のいとこで、播磨の荒井の里に住む。正太郎に家を貸し、物忌みのあいだ壁越しに励ます。
香央造酒(かさだ みき)
吉備津神社の神主で磯良の父。釜が鳴らず不安に思いながらも婚礼を許す。
陰陽師(おんみょうじ)
正太郎の災いを見抜き、四十二日の物忌みと朱の札による守りを命じる占い師。

よくある質問

「吉備津の釜」はどんな話?

上田秋成『雨月物語』に収められた怪談です。夫に裏切られた妻・磯良が怨霊となり、四十二日間こもる夫・正太郎のもとへ毎夜現れます。最後の夜に戸を開けた正太郎は姿を消します。

題名の「釜」とは何?

吉備津神社に伝わる、釜の鳴る音で吉凶を占う神事のことです。物語では、婚礼前の占いで釜がまったく鳴らず、不吉なしるしとされました。

「吉備津の釜」の結末はどうなる?

四十二日目の夜、正太郎は夜が明けたと思って戸を開けますが、それは月の光でした。叫び声のあと姿は消え、壁の血と軒の髻だけが残されていました。

『雨月物語』とはどんな作品?

上田秋成が書き、安永5年(1776年)に刊行された怪異小説集です。全5巻9篇からなり、「吉備津の釜」は巻之三に入っています。

漫画版は原典とどこが違う?

磯良の心の声や播磨での暮らし、壁越しの会話などを描き足しています。結末は血の跡を直接見せず、開いた戸口や影で暗示する形にしています。

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