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第5話再婚の夜、戸を叩いたのは夫伊勢物語「梓弓」

シリーズ第5話。都へ出た夫を三年待った女は、ずっと支えてくれた人と夫婦になると約束する。その夜、戸を叩いたのは、帰ってきた夫だった。

19ページ全話無料・会員登録なし

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次回予告 · 制作中第6話 葵 ―生霊―

眠るたびに、知らない女を打ちすえる夢を見る。――嫉妬が体を抜け出したら?『源氏物語』でいちばん怖くて哀しい女の話。

この作品はここまで。次はこちらもどうぞ

この話のあらすじ

昔、片田舎に一人の男が住んでいました。男は宮仕え、つまり都で朝廷などに仕える仕事をするために旅立つことになり、一緒に暮らしていた女と別れを惜しみながら出ていきます。ところが男は、三年たっても帰ってきませんでした。 待ちわびる女のもとには、そのあいだずっと、心をこめて熱心に言い寄ってくる人がいました。女はとうとうその人と「今夜、結ばれましょう」と約束します。ところが、よりによってその夜に男が帰ってきて、「この戸を開けてください」と戸を叩いたのです。 女は戸を開けず、歌で事情を伝えました。男も歌を返して立ち去ろうとします。女はもう一首で本心を伝えましたが、男は帰ってしまいました。

原典恋と妖し ―大人の古典夜話― — 日本 · 平安時代(10〜12世紀。伊勢物語・源氏物語・和泉式部日記・今昔物語集)と江戸時代(1776年。雨月物語)。根拠にする刊本は1610〜1930年の刊行

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この話のもとになった神話

伊勢物語「梓弓」あらすじ解説|三年待った妻と帰ってきた夫の悲恋

ひとことで言うと: 「梓弓(あづさゆみ)」は、都へ出たまま三年戻らない夫を待ちわびた妻が、別の人と結ばれる約束をしたその夜に夫が帰ってきて、すれ違ったまま妻が命を落とすまでを描いた、『伊勢物語』第二十四段の物語です。夫婦は戸をはさんで歌を交わしますが、夫は去ってしまいます。追いかけた妻は清水のそばで倒れ、岩に歌を書き残して息絶えます。

「梓弓」の元のあらすじ

昔、片田舎に一人の男が住んでいました。男は宮仕え、つまり都で朝廷などに仕える仕事をするために旅立つことになり、一緒に暮らしていた女と別れを惜しみながら出ていきます。ところが男は、三年たっても帰ってきませんでした。

待ちわびる女のもとには、そのあいだずっと、心をこめて熱心に言い寄ってくる人がいました。女はとうとうその人と「今夜、結ばれましょう」と約束します。ところが、よりによってその夜に男が帰ってきて、「この戸を開けてください」と戸を叩いたのです。

女は戸を開けず、歌で事情を伝えました。男も歌を返して立ち去ろうとします。女はもう一首で本心を伝えましたが、男は帰ってしまいました。女は悲しみのあまり後を追いますが、追いつけません。清水の湧く所で倒れると、そばの岩に指の血で歌を書きつけ、そのまま亡くなってしまいました。

戸をはさんで交わされた歌の意味

この段の山場は、戸一枚をはさんで交わされる歌です。女の最初の歌は「三年も待ちわびて、ちょうど今夜、新しい人と枕を交わすことになったのです」という意味です。気まぐれな裏切りではなく、待ち続けたすえの決断だったことが伝わってきます。

男の歌は、梓弓・ま弓・つき弓と弓の名前を重ねて長い年月を表しながら、「私があなたを大切にしてきたように、その人と仲むつまじく暮らしなさい」と語りかけます。女を責めずに身を引く歌です。ただ、「その人を大切にしなさい」とも「その人に大切にされなさい」とも読めるため、受け取り方には説が分かれています。

女の二首目は、弓を「引く」ことにかけて「あなたが私の心を引こうと引くまいと、私の心は昔からあなたに寄り添っていたのに」と打ち明ける歌です。岩に書いた最後の歌は「思いが通い合わないまま離れていく人を引き止められず、私の身はもう消えてしまいそうです」という意味です。題名の「梓弓」は梓という木で作った弓のことで、二人の歌に出てくるこの言葉から、段の呼び名がつけられています。

この話の背景(平安時代と「三年」の意味)

『伊勢物語』は、平安時代の前期から中期にかけてまとめられた、作者のわからない歌物語です。短い話の中に和歌が置かれ、歌が物語の中心になっています。多くの段の「男」は在原業平がモデルだと昔から言われてきました。しかし、この段の男が誰なのかは書かれておらず、決めつけることはできません。

「三年」という年月には意味がある、という説明がよく知られています。当時の法律(律令)には、夫が長く帰らないとき妻に再婚を認める決まりがあり、その目安が三年だったという説です。ただし原典にそうした説明はなく、後の注釈書による読み方です。

当時は、男性が女性のもとへ通う結婚の形が多かったといわれ、女性は待つ立場に置かれがちでした。この話には、はっきりした悪者がいません。待つことの重さと、たった一夜のすれ違いが二人を引き裂く切なさが、この段が長く読み継がれてきた理由といえるでしょう。

漫画版で変えたところ・足したところ

原典はとても短く、人物の名前や気持ち、場面の様子はほとんど書かれていません。漫画では、男が出ていくときの言葉、三年のあいだの女の暮らしと季節のうつり変わり、女が約束を決めるまでの心の揺れを描き足しています。言い寄った人も、原典には「熱心に心をこめて言い寄った」としか書かれていないので、人柄や姿は漫画の創作です。

男が帰ってきた夜の天気や時刻、歌の差し出し方、男が去るときの表情や心の中も、原典にはない漫画の演出です。また、原典の女は岩に指の血で歌を書きますが、漫画では何で書いたかを伏せています。最期も、水面や静けさ、散る木の葉で暗示する描き方に変えました。言い寄った人や男がその後どうなったかは、原典と同じく描かずに余白として残しています。

漫画で読むには

『恋と妖し ―大人の古典夜話―』第5話では、この「梓弓」の物語を、戸一枚をはさんだ夫婦のすれ違いを中心に描いています。短い古文だけではつかみにくい女の迷いや夜の静けさが絵で伝わるので、あらすじを知ってから読むと、歌の一首一首がいっそう胸に響くはずです。

Manga Portal では全話を無料で、会員登録なしで読めます。シリーズのほかの話もあわせて、古典の恋の物語にふれてみてください。

この話の登場人物

男(おとこ)
片田舎で女と暮らしていたが、宮仕えのため都へ出て三年戻らず、帰った夜に戸を叩くものの、歌を残して去っていく人物です。
女(おんな)
三年夫を待ちわびて、ついに別の人と結ばれる約束をした夜に夫が戻り、追いかけた先の清水のそばで亡くなる人物です。
言い寄った人(いいよったひと)
三年のあいだ女に心をこめて熱心に言い寄り、その夜の約束を得た人物で、原典には名前もその後も書かれていません。

よくある質問

伊勢物語の「梓弓」はどんな話?

都へ出て三年戻らない夫を待った妻が、別の人と結ばれる約束をした夜に、夫が帰ってくる話です。妻は戸を開けずに歌で事情を伝え、夫は歌を残して去ります。妻は後を追いますが追いつけず、清水のそばで亡くなります。

「梓弓(あづさゆみ)」とはどういう意味?

梓という木で作った弓のことです。和歌では「引く」「張る」などの言葉を導く言葉としてよく使われます。この段では夫と妻の歌の両方に出てくることから、段の呼び名になりました。

女はなぜ戸を開けなかったの?

原典は理由を説明していません。女は歌で「三年待って、ちょうど今夜、新しい人と契ることになった」と伝えています。すでに約束を交わしていたため開けられなかった、と読むのが一般的です。

なぜ「三年」なの?

当時の法律(律令)に、夫が長く帰らなければ妻の再婚が認められる決まりがあり、その目安が三年だったという説があります。ただし、原典そのものには書かれていない、注釈書による説明です。

この話の男は在原業平?

『伊勢物語』の「男」は業平がモデルだと昔から言われてきました。ただ、この段の男の名前や身分は書かれていないため、業平だと決めつけることはできません。

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