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第1話牛が王の土地を海へ引いていった日ギュルヴィたぶらかし

北欧神話シリーズ第1話。旅の女との約束ひとつで国土を海へ持ち去られた王ギュルヴィが、神々の力の源を探るため老人に化けて旅立つ。たどり着いた黄金の館で「無事には出られぬ」と告げられ、命がけの最初の問いを投げる。

19ページ全話無料・会員登録なし

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次回予告第2話 氷と炎と、殺された巨人

『世界は、巨人の死体でできている』。ショッキングな一文で始められる創世神話。

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この話のもとになった神話

ギュルヴィたぶらかしのあらすじ|ゲフィオンの国引きと北欧神話の始まり

元の神話のあらすじ① 牛が土地を海へ引いていった話

今のスウェーデンにあたる土地を治めていた王ギュルヴィは、あるとき自分を楽しませてくれた旅の女に褒美を与えました。四頭の牛が一昼夜かけて鋤(すき)で掘り起こせるだけの広さの土地を、国の中から与えるという約束です。

ところが、その女はアース神族の一人、ゲフィオンでした。彼女は北の巨人の国から四頭の牛を連れてきます。牛たちは、ゲフィオンがある巨人とのあいだにもうけた息子たちでした(父親の巨人の名前は書かれていません)。鋤があまりに深く入ったため土地はまるごと切り離され、牛たちはそれを西の海へ引いていき、ある海峡で止まりました。ゲフィオンはそこに土地を据えて「セルンド」と名づけます。今のデンマークのシェラン島のことです。

土地がなくなった跡には水がたまり、スウェーデンで「ログ」と呼ばれる湖になりました。湖の入り江の形は、シェラン島の岬の形とぴったり重なるといいます。作者のスノッリは、この話の裏づけとして古い詩人ブラギの詩も紹介しています。

元の神話のあらすじ② 老人に化けた王と三つの高座

話は変わって、ギュルヴィは賢く、魔術にも通じた王でした。彼は、アース神族があらゆることに通じていて、何もかもが彼らの思いどおりに運ぶのを不思議に思います。その力は彼ら自身の性質から来るのか、それとも彼らが祀る神々の力なのか。確かめるため、王は老人の姿に化け、ひそかにアースガルズへ旅立ちました。

しかしアース神族のほうが上手でした。予知の力で王の旅を先に見抜き、目くらましを用意して待っていたのです。王が見たのは、てっぺんが見えないほど高い館でした。屋根は金張りの盾を並べて葺かれ、戸口では一人の男が七本の短剣を同時に宙に投げ上げていました。

王は「ガングレリ」と名乗り、荒れた道を通って来たと言って宿を求めます。案内されて館に入ると、すぐ背後で扉が閉まりました。中には上へ上へと重なる三つの高座があり、下からハール(高き者)、ヤヴンハール(同じく高き者)、スリジ(第三の者)が座っています。ハールは「おまえがより賢くなければ、無事にはここを出られない。問う者は立ち、答える者は座る」と告げました。こうしてガングレリは、すべての神々の中で最も高く、最も古いのは誰か、という最初の問いを投げかけます。

この神話が伝えていること(文化・時代の背景)

「ギュルヴィたぶらかし」は、アイスランドの詩人で政治家でもあったスノッリ・ストゥルルソンが1220年ごろに書いた『新エッダ(散文のエッダ)』の第1部です。キリスト教が広まった後の時代に、昔の詩を読み書きするために必要な神話の知識を、問答の形でまとめたものと考えられています。

題名の「たぶらかし」は、王が神々の目くらましにかけられることを指します。読者は、ガングレリと一緒に問いを重ねながら、世界の始まりから終わりまでの神話を知っていく仕組みです。三人の答え手は、名前の意味から主神オーディンのさまざまな姿だとする説もあります。

なお「ログ」はメーラレン湖のことだとされますが、形はヴェーネルン湖のほうがシェラン島に似ているという見方もあります。

漫画版で変えたところ

原典はとても短く、登場人物の気持ちはほとんど書かれていません。そのため漫画では、次のような部分を想像でおぎなっています。

いちばん大きいのは、第1章と第2章のつながりです。原典では二つは別々の話で、土地を取られた王がどう感じたかも書かれていません。漫画では「土地を奪われた王が、神々の力の源を探りに行く」という流れにして、王の悔しさや後悔も描いています。これはシリーズとしての脚色です。

ほかにも、ゲフィオンがどうやって王を楽しませたのか、旅の女としての姿、大地が裂けて海を渡っていく迫力ある場面、老人に化けたギュルヴィの姿や旅の道のり、館の内装や三人の容貌、扉が閉まった瞬間の緊張感などは漫画の創作です。一方で、一昼夜・西の海・入り江と岬の形の一致、金の盾の屋根、七本の短剣、重なった三つの高座といった骨組みは原典どおりに描いています。

漫画で読むには

第1話は、北欧神話の世界への入り口にあたるお話です。ガングレリの問いに三人がどう答えるのか、そして物語は神々の終わり「ラグナロク」へとどうつながっていくのか。続きはこのシリーズの次の話で描かれます。漫画は全話無料、会員登録なしで読めるので、文字だけではわかりにくい神話の世界を、絵で気軽にのぞいてみてください。

この話の登場人物

ギュルヴィ(ぎゅるゔぃ)/ガングレリ(がんぐれり)
今のスウェーデンにあたる地の王で、賢く魔術にも通じ、老人に化けてガングレリと名乗りアースガルズを訪ねる。
ゲフィオン(げふぃおん)
旅の女の姿で王を楽しませたアース神族の女神で、褒美の土地を海へ引いてシェラン島にした。
四頭の牛(よんとうのうし)
ゲフィオンと巨人の息子たちで、鋤を引いて土地を切り離し、西の海へ運んだ。
ハール(はーる)
三つの高座の一番下に座る「高き者」で、「より賢くなければ無事に出られない」と問答の条件を告げる。
ヤヴンハール(やゔんはーる)
三つの高座の真ん中に座る「同じく高き者」で、ガングレリの問いに答える一人。
スリジ(すりじ)
三つの高座の一番上に座る「第三の者」で、ガングレリの問いに答える一人。

よくある質問

「ギュルヴィたぶらかし」とはどんな話?

スノッリ・ストゥルルソンが1220年ごろに書いた『新エッダ』の第1部です。老人に化けた王ギュルヴィが神々の館で問いを重ね、三人の答え手から世界の始まりから終わりまでの神話を聞く、という問答形式の物語です。

ゲフィオンはどんな女神?

アース神族の一人で、「ギュルヴィたぶらかし」の冒頭では旅の女の姿で現れます。王から褒美にもらった土地を、牛の姿をした四人の息子に引かせて海へ運び、シェラン島をつくったと語られます。

北欧神話でシェラン島はどうやってできた?

ゲフィオンの牛たちがスウェーデンの土地を切り離して西の海へ引いていき、海峡に据えたものだとされます。土地が抜けた跡は湖になり、その入り江の形が島の岬と一致すると原典は語っています。

ハール・ヤヴンハール・スリジとは誰?

神々の館で三つの高座に座り、ガングレリの問いに答える三人です。名前はそれぞれ「高き者」「同じく高き者」「第三の者」という意味で、主神オーディンの姿だとする説もあります。

漫画を最初から読む(無料)