第1話プロポーズの順番を間違えた神様国生み
何もない漂う海を前に、最後に生まれた二柱の神イザナギとイザナミが「国をつくれ」と矛を一本渡される。最初の出会いで順番を間違えて子を手放した二人は、責め合わずに理由を聞きに行き、もう一度やり直して大八島を生む。
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何もない漂う海を前に、最後に生まれた二柱の神イザナギとイザナミが「国をつくれ」と矛を一本渡される。最初の出会いで順番を間違えて子を手放した二人は、責め合わずに理由を聞きに行き、もう一度やり直して大八島を生む。
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この話のもとになった神話
『古事記』は、和銅5年(712年)に太安万侶がまとめた、日本に残る最も古い歴史書です。その上巻のいちばん最初に出てくるのが、天と地のはじまりと「国生み」の話です。
天と地が初めて分かれたとき、高天原(たかまのはら)という天上の世界に、天之御中主神、高御産巣日神、神産巣日神の三柱の神が現れました。続いて、地上の国がまだ固まらず、水に浮いた油やくらげのようにふわふわと漂っていたころ、葦の芽が勢いよく伸びるようにして、さらに二柱の神が現れます。この五柱はまとめて「別天神(ことあまつかみ)」と呼ばれます。どの神も相手を持たない「独神(ひとりがみ)」で、現れるとすぐに姿を隠してしまいました。
そのあと「神世七代(かみよななよ)」と呼ばれる神々が次々に現れます。はじめの二代は独神で、その後は男女一組の神が続きました。その最後の一組が、イザナギ(伊耶那岐)とイザナミ(伊耶那美)です。
天の神々はイザナギとイザナミに、漂っている国をしっかり固めて形にするよう命じ、天沼矛(あめのぬぼこ)という矛を授けました。二神は天と地をつなぐ天浮橋に立ち、矛を海に下ろして「こをろこをろ」と音がするまでかき回します。矛を引き上げると、先からしたたった塩が積もって島になりました。これが淤能碁呂島(おのごろじま)です。
島に降りた二神は、天之御柱という柱と、広い御殿を建てます。そしてお互いの体のつくりを確かめ合い、二人が合わさって国を生もうと決めました。イザナギは左から、イザナミは右から柱を回り、出会ったところで声をかけ合います。このとき先に声をかけたのはイザナミでした。イザナギはその場で「女が先に言うのはよくない」と言いますが、二神はそのまま夫婦になります。
最初に生まれた水蛭子(ひるこ)は葦の船に乗せて流され、次の淡島も子どもには数えられませんでした。二神は相談して天へのぼり、天の神々に理由をたずねます。神々は太占(ふとまに)という占いをして、「女が先に声をかけたのがよくなかった。帰って言い直しなさい」と告げました。
島に戻った二神は、もう一度柱を回り、今度はイザナギが先に声をかけます。すると淡道之穂之狭別島をはじめ、伊予之二名島、隠伎之三子島、筑紫島、伊伎島、津島、佐度島、大倭豊秋津島の八つの島が次々に生まれました。先にこの八つの島を生んだので、日本の国は「大八島国(おおやしまのくに)」と呼ばれるようになります。
国生みの話は、日本の島々がどうやってできたのかを説明する神話です。一般的には、淡道は淡路島、伊予之二名島は四国、筑紫島は九州、大倭豊秋津島は本州のことだと考えられています。ただし『古事記』そのものは島の名前と国の名前を書いているだけで、地図の上でどこにあたるかは後の時代の通説です。四国と九州の島は「体が一つで顔が四つある」とされ、それぞれの顔に国の名前がついているのも特徴です。
柱を男神が左、女神が右から回ることについては、中国の陰陽の考え方や大陸の儀式の影響があるという説もあります。また、流された水蛭子を、のちの時代に「えびす様」と結びつける言い伝えもありますが、これは『古事記』には書かれていない後世の考えです。
原典にあるのは、神々が「現れた」「姿を隠した」という短い記述だけです。漫画では、別天神や神世七代の神々を、光が現れては消えていく表現で描き、神世七代は見開きの系図にまとめています。原典自体が神の名前を並べる書き方なので、話の流れは変えていません。
イザナギとイザナミの顔や髪型、衣装、天沼矛や天浮橋の見た目、天の神々や占いの場面の様子は、すべて漫画のオリジナルです。原典には二神の気持ちがほとんど書かれていないため、失敗のあとの戸惑いや、責め合わずに二人で理由を聞きに行く会話は、漫画で加えた部分です。一方で、声をかける順番、子が流されること、天の神々の占い、やり直して八つの島が生まれるという筋は、原典どおりです。
文章で読むと神様の名前が多くて混乱しがちな冒頭も、漫画なら誰がいつ現れたのかが絵でつかめます。海をかき回して島が生まれる場面や、二神がもう一度やり直す場面は、ぜひ絵で見てほしいところです。『古事記 ―神々の系譜―』は全話無料で、会員登録なしで読めます。この第1話から、日本の神話の世界をのぞいてみてください。
天の神々から天沼矛を授けられ、海をかき回して淤能碁呂島をつくった神です。その島で夫婦になり、淡路島や四国、九州、本州などにあたる八つの島を生みました。
柱を回って出会ったとき、女神のイザナミが先に声をかけたためだと、天の神々の占いで告げられました。二神は島に戻って、男神のイザナギが先に声をかける形でやり直しました。
淡道之穂之狭別島、伊予之二名島、隠伎之三子島、筑紫島、伊伎島、津島、佐度島、大倭豊秋津島の八つです。通説では淡路島、四国、隠岐、九州、壱岐、対馬、佐渡、本州にあたるとされています。
イザナギとイザナミが天浮橋から矛で海をかき回し、矛の先からしたたった塩が積もってできた島です。二神はこの島に降りて柱と御殿を建て、国生みを始めました。
『古事記』では、葦の船に乗せて流されたことだけが書かれています。のちの時代に、えびす様と結びつける言い伝えも生まれました。